夏至も近づく長雨のシーズンです。ただでさえ一年中でもっとも夜が短いのに、来る日も来る日も厚い雲が空を覆う夜が続き、星を見るにはもっとも不適かもしれません。
今月の後半、太陽系の全惑星が明け方の東の空に集結します。見ごたえ十分とはいうものの、雨雲にさえぎられて見えなければどうしようもないですよね。目で見えなければ、耳・音で惑星たちを身近に感じてみてはいかがでしょうか。

天球を巡る星々。「天動説」とは、目に見えるリアルです


惑星戦士大集合!のアニメのような今月下旬、しののめの東の空ですが…

既に5月から、明け方の東の空には惑星たちが集まり始めていましたが、6月中旬から下旬には、水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星の7惑星が全て大集合してずらりと並び、そこに月も加わるという、まるで惑星の名前をいただくキャラが活躍するアニメのような壮観が見られます。

東の地平線際から南天に向かって、水星、金星、天王星、火星、木星、海王星、土星の順に斜めにずらりと並びます。もっとも、水星は高度が低く、肉眼で探すのは大変ですし、海王星は肉眼では見えず、天王星も都会の空の透明度では見られないかもしれません。
ですが、-3.9等の金星、-2.2~2.4等の木星の二星の強い輝きと、-0.5等級ほどにも赤く光る火星、-0.6等ほどの土星と、目立つ四星を目当てにして、双眼鏡などで探せば、海王星以外は見つかるかもしれませんし、海王星も「あのあたりにある」と想像するのは楽しいものです。
ですが、日本列島は、毎年のことながらこの時期は長雨のシーズンです。厚く雲が覆っていては、惑星大集合もまったく目にすることができない、ということがあるかもしれません。

そんなときには、天空高くに移動する星々の奏でる「音楽」を想像してみてはいかがでしょうか。

大質量の太陽が惑星たちを圧倒的にけん引してはいますが、天体の関係は相補的です


「天動説」は一律ではない!かつて天文と数学と音楽は一体だった

かつて、宇宙の観測は天動説(不動の地上に恒星たちがちりばめられた天球が東から西へと動き、その内側の空間に惑星(太陽、月、水星、金星、火星、木星、土星の七天体)が位置して、西から東へとそれぞれの軌道を巡っている、という宇宙観)でした。
この「迷信」を、ニコラウス・コペルニクスやガリレオ・ガリレイが打ち立てた「地動説」が覆し、科学的宇宙観が出来上がった、というのが一般的によく知られるストーリーです。

しかし天動説というのは、一概に「昔の人のバカげた空想」で片づけられるものではなく、実は現代の私たちにもみずみずしいイマジネーションをもたらし、天体観測には欠かせない物の見方を与えてくれるのです。

ラテン語のscala (スカラー)は、階段、梯子を意味し、これが音楽の音階を意味する「スケール」のもととなりました。
プラトン (Plátōn BC427~347) は著書『国家』の末尾に記述した冥府巡りの物語「エルの物語(Myth of Er)」で、天球(当時の宇宙)の構造を叙述しています。
地上をはるか高く覆う天球は、八つの半球のお椀が入れ子のようにかぶさって出来上がっており、これを上から見ると、透明な八つのお椀の縁が、地球を中心に八重の円をなしており、その輪に沿って太陽や惑星たちが整然と回っている。そして八つの天球にはセイレーンが一人ずつ坐していて、それぞれが天球ごとに異なる音を発し、八つの音が調和して梯子のようにひとつの音階を成している、としています。
プラトンの宇宙観は、弟子のアリストテレスにも受け継がれ、アリストテレスは惑星たちは真円を描きながら地球の周りを回っているとしました。
諸惑星が見せる奇妙な動き、つまり、地球から見て太陽と月を除く惑星の移動が一定期間逆方向(東から西)へと動く「逆行」が説明できないため、さらに星々が軌道上で輪舞のように円運動を描いているという解釈で説明しようとしたのです。

プラトンの発想は、古代ギリシャの賢人ピタゴラス(Pythagoras BC582~496)が発見した音階における音程(音と音の隔たり)の周波数の、整然とした整数比がもととなっています。
たとえばオクターヴ(西洋音楽の8度音程)の音程は2:1、完全五度(P5 )は3:2、完全四度(P4)は4:3に対応します。そして全音(たとえばドとレ)は9:8というように。
ピタゴラスは、地球から月までの距離を126,000スタディオン(スタディオンは約180m)と計算し、これは全音と隣り合う全音の間の音程であるとし、このように音階を宇宙、惑星の構成にあてはめていったのです。

ローマ帝国の英雄スキピオ・アフリカヌスは、「荘重にして喜ばしい響き」を発する九つの天球を幻視します。スキピオの祖父は「その九つの天球が発する音は、天球の速い動きによって起きる。天球は九つだが、音は七つしか鳴らない。7という数字は宇宙の秘密を解く鍵である」と語ったといわれます。

このように、ヨーロッパ人にとって、宇宙とは完全なる神による完全なる造形物でしたから、そこには完全な調和が見て取れるはずだと考えたのでしょう。そして魂は死後、神の国に至るために宇宙を上昇し、この星々の発する音階、そしてそれが織りなすハルモニア(Harmoniā)=ハーモニーを聞くのだとしました。音楽とは、宇宙を知る学問とされたのです。

このように古代の宇宙観は、真円の重なりによる完全なる調和で、中心となる地球と各惑星、そしてもっとも外殻にちりばめられた恒星群との「距離」が音程・音階の基準となったのでした。

誤解されがちな天動説ですが古代の天文学者たちは真摯に科学的な観測を行っていました


中世と近代のはざまで。ケプラーの見出した太陽系の音楽

しかし、宇宙や天体の観測技術が進むと、それにあわせて天球の音楽も形を変えていきます。

9世紀、アイルランドの修道士だったエリウゲナは、古代ギリシャで入れ子の透明なエーテルのお椀の内側の重なりに軌道を持つと想定された惑星たちと、もっとも外殻にあたるお椀の恒星群とを分けて考えました。
エリウゲナの理論によれば、宇宙でもっとも高速で運動している(=高い音を発している)のは恒星群である外殻天球で、その次に速いのが月、続いて水星、そしてもっとも遅いのが土星としています。つまり、恒星群ー内惑星ー太陽ー外惑星の順に並び、それに音階が対応すると考えたのです。

そして諸惑星の発する音は、それぞれが変わらない同じ音を発するのではなく、惑星同士の相対関係によって変化するとしました。たとえば太陽と土星は、地球から見て土星がもっとも太陽から離れた地点では1オクターヴ、もっとも近づく点では完全四度と変化します。これは、現代の天文学の基本である、惑星の軌道が互いにけん制(引き合い、反発しあう)関係にあって軌道が形成されるという科学的観点の出発点でもありました。

そして中世。ドイツの天文学者のヨハネス・ケプラー( Johannes Kepler 1571〜1630年)は、惑星の軌道が真円ではなく楕円軌道であるということを発見した人物です。この天体観測によって見つけた神の所業を汚すようなショッキングな事実に、自らを罪深い人間だと恥じたケプラーは、音階と、それより実際には少ない数の惑星について考察を重ね、太陽系の調和の秘密を「プラトン立体」(正多面体)の中に見出します。全ての面が同一の正多角形で構成され、すべての突出点を構成する面の数が等しい正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体、正二十面体という五つの立体です。
水星、金星、地球、火星、木星、土星の六つの惑星(この時代にはすでに地球を惑星と捉える宇宙観も生まれていました)の軌道の間に、ケプラーは五つの正多面体が、八面体、二十面体、十二面体、四面体、六面体の順に存在しているさまを直感したのです。そしてこの惑星間の聖なるプラトン立体こそが、惑星それぞれの描くいびつな楕円軌道を規定しているとしたのです。
こうして著書『宇宙の調和』において、遠日点(惑星の楕円軌道でもっとも太陽から離れる地点)、近日点で惑星が発する音を設定し、それを「惑星の音」として短いメロディを提示します。
惑星それぞれが奏でるメロディが、惑星同士が共鳴しあいつつハーモニーを生み出しているという新しい「天球の音楽」を創出したのでした。

惑星の楕円軌道を発見したケプラーは、太陽系に新たな秩序を見出しました

これらの過去の天動説に基づく理論は荒唐無稽な空想に思われるかもしれません。しかし、太陽系の諸惑星が太陽に対してほぼ平行な面で軌道を描いているからこそ、地球から見て惑星たちが並んで見えるという大集合がときとして起こるのです。
かけがえのない地球を守護するように巡る太陽系の星々との絆をイメージすることは、むしろこれからの時代にこそ必要な宇宙観なのではないでしょうか。


参考
星界の音楽 ジョスリン・ゴドウィン 斉藤栄一訳 工作舎

神の造化を称える讃美歌の和音は、宇宙の秩序と呼応すると考えられてきました

情報提供元: tenki.jpサプリ
記事名:「 明け方の空で惑星が大集合!惑星たちは音楽を奏でている!?