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古代の人々が怖れていた夜の闇を克服したのは火。人類が火を手に入れると闇夜を明るく照らしだすだけでなく、食べものを焼いたり煮たり食生活も大きく変わりました。火のある場所には人々が集い、暖かさと安らぎを得られました。焚き火は、囲炉裏や暖炉となり生活の中心として長い時が刻まれていきました。
火は松明やかがり火に工夫されて持ち運ばれるようになり、やがて明るい照明を持つプライベートな空間を作り出しました。植物や動物の油を使ったランプや蝋燭の誕生で、火は必要な時に自由に使える道具となりました。さらに石油やガスといった天然資源を利用した火は、その明るさも調節できるようになり、人々が活動する場に合わせた明るさを作り出すようになっていきました。
ガスの火を使ったガス燈は、東京でも1874(明治7)年に街路を照らす灯りとしてに銀座通りにともりました。翌年は日本橋にも敷設され、明治の日本に明るさをもたらしました。ガスは灯りから熱源へ、調理に暖房にと生活を大きくかえるエネルギーとなり、電気とともに現在まで使われています。
参考:【ガスミュージアム】
灯りの革命は1879年にエジソンが白熱電球を発明したことに始まります。ガラス球の内部に仕込んだ細い線、フィラメントに電気を流し高温にすることで明るい光を放ちます。これが電球のしくみです。長く使うとフィラメントが切れてしまい電球はつかなくなります。切れた電球を取り替える作業は家庭でのちょっとした仕事となっていました。熱くなったフィラメントの放つ光は燃える火と同じようなぬくもりが感じられます。
20世紀に入り1938年(諸説あり)に生まれた蛍光灯は、内側に塗られた蛍光物質に紫外線があたって発光し、赤・緑・青色の光の三原色が重なることで白色光が作られました。電気代が白熱電球よりも割安なため学校やオフィスなどの大きな施設で広く使われました。
20世紀の終わりに大きな転換を与えたのがLEDの発明です。今や照明といえばLEDが主流ですが実用化されるまでには長い時間がかかりました。
1960年代初めにアメリカで赤色LEDが発明されましたが、実用には明るさが足りませんでした。1970年代になると西澤潤一博士が赤色LEDの高輝度化に成功し、実用可能となりました。さらに西澤博士は三原色の一つ緑色のLEDも発明したのです。
白色の光を作るために必要な最後の青色LEDの開発は困難を極め、平成の時代まで待つことになりました。1990年代、ついに青色LEDの発明とその量産技術を作り上げたのが赤﨑勇博士、天野浩博士、中村修二博士の三氏です。2014(平成26)年にノーベル物理学賞が授与され、大きな話題となりました。
光の三原色である赤・緑・青色のLEDがそろったことからLEDで白色電球を作ることができるようになりました。明るい光を放つLEDはそれまでの電球の欠点を克服して、消費電力が少ない上に寿命が長いものとなりました。エネルギー消費を抑えるLED照明は世界中から歓迎され、あっという間に広がり、さまざまな場面で日々の生活の中に溶けこんでいます。夜中でも赤や緑の小さな灯りが部屋の中で光っているのにお気づきですか。すべての物がコンピュータとつながる現代、LEDの点滅はそれぞれの機器が生きているのを示す呼吸ともいえるでしょう。
参考:
谷豊著『LEDのひみつ(学研まんがでよくわかるシリーズ 108)』 学研プラス出版コミュニケーション室
太陽が翳り始めると急激に光を失っていくのが冬の夕暮れ。そんな淡い時間「火ともし頃」とは、そろそろ灯りをつけようかと心迷うようなときを言います。夜の帳が下りるまでのひとときは急いで灯りをつけず、自然の光の中で、身のまわりの物が闇と溶け合っていく美しさを味わうのも一興です。
ひとしきり穏やかな時間を過ごしたら、さあ食卓をかこむ団欒の夕食へ。ともす灯りは外へもれ出で街の明かりとなり、道行く人に優しいぬくもりを作りだすでしょう。
くつろぎの空間では光源を見せない間接照明が落ち着きを醸します。光が強いなと感じたら壁に向けて照らしたり、何かの背後へ置いたり等のひと工夫で雰囲気が変わります。
和紙の利用も効果的とか。もともと障子は外の明かりを取り入れやすくするため、片面だけに和紙を貼ったもので、余分な光を遮りほどよい光を取り入れる智恵といえましょう。張りのある和紙は折り畳むだけで形を作ることができ、照明器具にかぶせればちょっとした和の味わいを演出できそうです。
LEDの出現で電気の消費量が抑えられるようになった照明器具はバラエティに富んでいます。アイデアと個性を発揮して照明を使いこなせば、寒さが厳しくなるこれからの暮らしもまた、素敵に変わっていきそうです。
参考:
『子どもに伝えたい和の技術 5 あかり』 和の技術を知る会著 文溪堂
『照明で暮らしが変わる あかりの魔法』 村角千亜希著 株式会社エクスナレッジ