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蕎麦粉の種類、小麦粉などのつなぎの配合によって、色や香り、食感が異なり、さまざまな味わいが楽しめる蕎麦。なかでも、注目したいのが「二八蕎麦(にはちそば)」と「十割蕎麦」です。違いは蕎麦粉の割合で、蕎麦粉8に対して小麦粉2の割合で打ったのが二八蕎麦、 蕎麦粉のみでつくられたのが十割蕎麦です。
二八蕎麦は、小麦粉を加えることで麺がしなやかになり、なめらかな食感とのど越しの良さが特徴です。細く長い麺でコシもあり、保存性も高いため、より多くの店で提供されています。
蕎麦粉だけで打った十割蕎麦は、蕎麦粉の粒子の質感が感じられるのが特徴。麺はほろりと切れやすいことも多く、香りが豊か。蕎麦粉だけで打つことを「生粉打ち(きこうち)」といい、より蕎麦粉の個性が際立ちます。蕎麦の実の殻まで入った蕎麦粉で打った麺は黒っぽい色になり、黒い粒子が見えることも。蕎麦粉は挽き方によって食感や風味が大きく異なります。黒い殻は除いて甘皮に包まれた「丸抜き」、「丸抜き」から甘皮を除いたもの、さらに蕎麦の実の芯のみを挽いた「さらしな粉」と、精製の度合いが上がるにつれて白く透明感のある蕎麦になります。十割蕎麦には、その店の蕎麦粉の特徴が表れるといえます。
のど越しと食感を楽しめる二八蕎麦、豊かな風味や個性が感じられる十割蕎麦。それぞれの違いを、ぜひ食べ比べてみたいですね。
今も東京で親しまれている蕎麦の三大名店、「藪」「更科」「砂場」。それぞれ江戸時代に1軒の蕎麦店から始まり、暖簾分けをして広がっていきました。
藪蕎麦は、雑司ヶ谷鬼子母神の東方の藪のなかにあった店が元祖。その店の評判を聞き、「藪蕎麦」を名乗る店が方々に現れます。幕末の頃に駒込千駄木の団子坂にあった「蔦屋」も藪に囲まれていたことから、「藪蕎麦」と呼ばれ、その暖簾が現在も引き継がれています。藪蕎麦の特徴は、蕎麦の実の甘皮を適度に挽き込むため風味が強く、それに合わせてつゆも濃いめといわれています。
更科は、信州の布屋がルーツ。江戸の街に「信州更科蕎麦所 布屋太兵衛」の看板を掲げたのが始まりとされています。蕎麦の実の芯の部分を挽いた粉で打つ、白く透明感のある蕎麦が特徴。繊細な風味に合わせてつゆも淡く甘めです。
砂場の発祥は、大阪。大阪の新町遊郭旧西大門があった付近に俗に砂場と呼ばれる場所があり、その地で営業していた二軒の店がともに「砂場蕎麦」を名乗るようになりました。その後、「大阪砂場蕎麦」を名乗る店が、江戸時代中期に江戸の街に開業。大阪には、砂場を引き継ぐ店は残っていないそうです。二八蕎麦で、つゆの濃さは甘くて濃いめ。「室町砂場」は、「ざるそば」と「もりそば」を、異なる麺に打ち分けることで知られています。
日本三大蕎麦は、長野県の戸隠蕎麦、島根県の出雲蕎麦、岩手県のわんこ蕎麦といわれています。戸隠蕎麦は、冷水で打った腰の強い蕎麦を、水洗いしてから食べやすいように巻くようにして小分けにし、竹製のざるに盛り付けます。出雲蕎麦は、蕎麦の実と甘皮も全て挽いた「挽きぐるみ」と呼ばれる蕎麦粉を使用。色が濃く香りと風味が強いのが特徴です。 岩手県のわんこ蕎麦は、小量をお椀に入れて、終わるとまたひと口分の蕎麦を入れる食べ方が有名ですね。
他にも、深大寺そば(東京都)、へぎそば (新潟県)、茶そば (京都府)、瓦そば (山口県)など、全国にさまざまな蕎麦の文化が根付いています。
新蕎麦の季節は、収穫されたばかりの蕎麦の風味を存分に楽しめる、またとない機会。蕎麦粉の特徴に注目して、好みの味を見つけてみませんか。
参考文献
新島繁『蕎麦の事典』講談社学術文庫