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北の地域や山岳地帯から雪の便りが届くようになるのが「小雪」の頃。青空にまるで花が舞うように飛んでくる雪を「風花」と呼びます。日本列島を縦断する山に堰き止められた雪雲が日本海側で雪を降らせるとき、青空の広がる太平洋側へ降りてくる気流に乗って飛んでくるそうです。あっけないほどの儚さで消えてしまう雪を花になぞらえるのは、やはり春の桜の散るようすが思われるからでしょう。気象現象が作り出す美しさは俳人たちの心をかき立てるようです。
「華やかに風花降らすどの雲ぞ」 相馬遷子
「眼の高さにて風花を見失ふ」 今瀬剛一
滅多に見られないからこそでしょう、風花に出会って湧き立つ心の高揚が感じられます。
雨上がりの空に大きく弧を描く虹を見つけては喜んでいた暑い季節が懐かしいですね。
「小雪」の初候「虹蔵不見(にじかくれてみえず)」は、虹が見えなくなる時季になるということです。ひとつには、雨が雪にかわり、雨が降ることが少なくなるため虹も出なくなるというものです。また雨粒が夏のような大きさより小さくなるために、たとえ虹となって出たとしても淡く消えやすいので気づけないというものです。
小さな雨粒からできる虹は白くぼんやりと見えることから「白虹」または「霧虹」と呼ばれています。夏の虹とは違い、とても幻想的な様相に目を奪われます。同時に冬らしさも感じられます。
ふわっとした美しい虹ですが、古代中国では兵を表す白い虹が、君主の象徴太陽を貫いていると見られたため、国に兵乱の兆しありと凶事の前触れになっていたそうです。なかなか見られない故にこのような言い伝えとなったのかもしれません。とはいえ、どのような形でも見られたら嬉しいのが虹ですね。
寒い時に輝く彩りは生活を明るく活気あるものにしてくれます。冬の間はなんといってもオレンジ色のみかんでしょう。どこの家の茶の間にも欠かせないのではないでしょうか。「小雪」の末候は「橘始黄(たちばなはじめてきばむ)」。橘の実が黄色く色づいてくる時季、ということです。
京都御所の紫宸殿の南側にある「右近の橘」としてあるのが有名ですが、「橘(たちばな)」とは今私たちが食べている「みかん」の旧い名前です。
この「みかん」である「橘」を求めに常世の国へと出かけたのが田道間守(たじまもり)です。垂仁天皇の命でした。常世とは古代の人が考えていた不老不死の国のこと。現世との間には道が通じて行き来ができると信じられていたそうです。また常世の神が人間に長寿を授けるためにやって来るとも考えられていました。その常世から持ち帰ったということから、「常世草(とこよぐさ)」というもう一つの名前があります。
冬になるとフレッシュな香りの柑橘類が多く出まわり、鍋物には欠かせない果物になっています。広がる香りには健康的で長生きを予感させるものがあります。古来食べられてきた柑橘類は寒い時期の健康を守るために大切な果物だとわかります。
さあ、師走は間近。今年を締めくくる月を前にもう少しこの時季を楽しみながら心豊かに過ごしてみませんか。
参考:
『日本国語大辞典』小学館