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「暑い!」としか言いようのない夏の暑さ。どのくらい暑いのかを示す目安が、毎日の天気予報で伝えられています。1日の最高気温を基準に25℃以上を「夏日」、30℃以上を「真夏日」そして35度以上を「猛暑日」としています。この発表を聞くと「ああ、やっぱり今日の暑さは猛暑日だったんだ」などと納得したりします。
天気予報も温度計もない昔の人達もまた今ほどではないにせよ夏の「暑い!」と戦っていたはず。さて、どんな風に暑さを感じていたのかを知りたくなりました。早速『俳句歳時記』をめくってみましょう。
「じだらくに勤めてゐたる大暑かな」 石田波郷
「電柱の影を拾ひし酷暑かな」 野村好子
「八ツ橋に釘の浮きたつ炎暑かな」 下村志津子
「肉塊に刻印にじむ溽暑かな」 田辺レイ
「大暑」はどちらかというと客観的に暑さを眺めているようですが、その他は「暑」につけた一文字「酷」「炎」「溽」に作者の感じている暑さが込められているようです。描写される情景が文字の力で浮き立ってきませんか。どうしようもない夏の暑さに、人々のやりきれなさも伝わってきます。
夏の暑さを表すのにはやはり「暑」の字が不可欠なのかと思っていたら、こんな言葉もありました。
「草いきれ人死に居ると札の立つ」 与謝蕪村
「高原の蝶噴き上げて草いきれ」 西東三鬼
「昇りくる日を伴ないて草いきれ」 宮本勇
フッと鼻のあたりが、あの蒸れるような熱気に包まれて息がつまりそうになる感覚が襲ってきます。茂った草から発散するむんむんとただよう湿気と一緒に、そこにいる人間の息苦しさまでが伝わってくるようです。「草いきれ」は俳句になったとたん、生き生きと躍動を開始します。
現在ほど気温が高くなかったとはいえ、冷房もなく暑さをしのぐ工夫を凝らしながら、正面切って暑さに向き合ってきた人々の五官から生み出された言葉に、今まで気づかなかった感慨を見つけ出しました。
参考:
『角川俳句大歳時記』角川学芸出版
暑さにより活発になった生命力の発散「草いきれ」には夏特有のエネルギーを感じます。「大暑」と時期の重なる「土用」。四季それぞれにある「土用」が夏だけ現在まで生活の中で伝えられてきたのも、この季節の力強さにあるのかもしれません。
なかなか体力がついていかない時ですから、身体に滋養が必要になるのも頷けます。厳しい暑さに負けないようにと、元気をつけるために昔から食べられてきたものがあります。今ではウナギが一番人気のようですが、その他にもシジミや餡ころ餅、卵、にんにくなど、どれも栄養に溢れています。食べ過ぎて消化不良をおこさないように、胃腸の調子に気づかいながら美味しく食べていきたいですね。
現代の「大暑」は暑い夏に向かう覚悟を心に決めて、しっかりと体力をつける時といえるのかもしれません。
参考:
『精選版日本国語大辞典』小学館