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防災への意識を今一度見直すべく、昨年発生した平成30年7月豪雨(西日本豪雨)、そして発災から5年経った平成26年8月豪雨の被災地を訪ね、復興状況や被災住民たちの取り組みについて取材してきました。
昨年、平成最大の豪雨災害と言われる、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)が発生。1府10県に大雨特別警報が発表されました。
2018年6月28日から7月8日にかけて、梅雨前線や台風7号の影響で西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨となりました。期間中の総降水量は、7月の月降水量平年値の2倍から4倍となった所もありました。
※詳しい気象解説はこちらでも解説しています。
https://tenki.jp/suppl/kazukoyasuno/2018/07/12/28273.html
この大雨により、広域的かつ同時多発的に水害や土砂災害が発生しました。
死者224名、行方不明者8名にのぼり、家屋の全半壊など21553棟、家屋浸水30480棟と、極めて甚大な被害が広範囲に及びました。
(平成30年11月6日現在、平成30年度消防白書より)
平成30年7月豪雨の被害の1つに浸水害があります。今回は、広範囲で浸水害が発生した岡山県倉敷市真備町を訪ねました。
当時、真備町の南部を流れる小田川と東側を流れる高梁川の上流の地域で、大量の雨が降ったことにより川の堤防が決壊。氾濫した川の水が市街地へ流れ込み、51名の犠牲者が出るなど、甚大な被害を受けました。
取材した日は、決壊した堤防の復旧作業の真っ最中でした。
現在、真備町では「真備緊急治水対策プロジェクト」として、重点的な堤防のかさ上げや強化などの工事が行われたりするハード対策や、国や岡山県、倉敷市が連携して防災への意識改革を行ったりするソフト対策など、今回のような水害が今後発生しないようにするための取り組みが進められています。
街中に目を向けると、まだまだ被害の爪痕が残っていました。傾いている家があるほか、外観は問題なさそうに見えても、よく見ると1階の窓が開いていて家具などが全く無く、ガラガラになっている家も数多くあります。
現地の人によると、3~4割の住民が元の住居に戻っているものの、残りの方々は未だ町外や仮設住宅での生活が続いているそうです。
上の図は、平成30年7月豪雨での真備町の浸水状況を表しています。青く塗られたエリアが、浸水被害にあった範囲です。
実は、この浸水エリア、平成30年7月豪雨の前から公開されていた真備町の洪水ハザードマップの浸水想定区域とほぼ一致していました。
実際に被害にあった住民の方々が、ハザードマップをどこまで把握していたかはわかりません。ただ、平時から自分の生活している地域の防災情報をしっかり把握しておく事がどれだけ大切であるのか、改めて思い知らされました。
平成30年7月豪雨の被害のもう1つ特徴に、多数の地点での土砂災害発生があります。
土砂災害が発生した地域として、今回は広島県を訪ねました。
広島県では、平成30年7月豪雨の影響で、県内20市町で1242か所もの土砂災害が発生しました。全国で1年間に発生する土砂災害の平均が1015件ですので、広島県だけで全国の年間発生件数を上回る土砂災害が発生したことになります。
なお、他県を含めた平成30年7月豪雨全体で発生した土砂災害は2581件。この数字を見るだけでも、平成30年7月豪雨がどれだけ甚大な災害であったのか、改めて痛感します。
広島県呉市では、平成30年7月豪雨によって土石流が発生した、背戸の川の周辺や天応中学校のようすを見てきました。
天応中学校では、学校のグラウンドに面している山が崩れて土砂災害が発生。グラウンドや周辺道路へも土石流が流入し、大きな被害を受けました。
この天応中学校は元々、土砂災害や津波災害などの避難場所に指定されていました。校舎の中まではそれほど大きな被害が無かったものの、避難場所ギリギリまで大量の土砂が流れてきたそうです。
現在、天応中学校の裏山は、ワイヤーネットの設置や落石防止対策などの応急対策が完了し、今年の3月末より砂防堰堤工事が実施されています。
また、天応中学校の生徒は、下流にある天応小学校に拠点を移し、授業を受けるなどの学校生活を送っています。
広島市では安芸区を中心に多数の土砂災害が発生し、死者23名、行方不明者2名を出す被害がありました。
そのうち、安芸区熊野町では、コアストーンと呼ばれる巨石を多数含む土石流が発生し、12名の命が犠牲となりました。
川角5丁目に位置していた大原ハイツでは、2つの渓流で土石流が発生し、挟み撃ちにあう形で被害を受けました。
当時、下流の地域から大原ハイツに向かう道は、1本しかありませんでした。この道が土石流によって封鎖されてしまったことにより、避難はもちろん、救助にも時間を要してしまったそうです。
土砂災害が発生した場所では、砂防堰堤工事が進められています。
さらに、町内会での避難訓練の実施強化のほか、被災住民を中心に「復興の会」が立ち上がるなど、復興へ向けての活動も盛んに行われています。
そして、今から5年前の2014年8月にも、広島県では土砂災害が県内で多数発生する災害がありました。
2014年8月15日から20日にかけて、前線が本州付近に停滞。特に19日から20日にかけては、上空で発生した線状降水帯の影響により、広島県では集中豪雨となりました。
この大雨の影響により、広島市では各地で土砂災害が発生。
死者77名(うち災害関連死3名)、家屋の全半壊などの住宅被害は4749棟となりました。
(令和元年8月現在、広島県災害ポータルより)
平成26年8月豪雨の被災地である広島市安佐南区を訪ねました。
災害から5年経ったこともあり、不安定な土砂に対する緊急的な砂防堰堤の整備はすでに完了しており、最終的な砂防事業も今年度末の完了を目標として工事が進められています。
現地では、災害の記憶や教訓を受け継ぐ取り組みとして、慰霊碑が建てられていました。平成26年8月豪雨の慰霊碑は、他の地区も含めて全5か所あります。
今回訪れた時は、慰霊碑の周りにヒマワリなどの様々な花がきれいに咲いていて、住民の方々が大切に管理しているようすが伺えました。
地域住民が企画・運営する「復興交流館 モンドラゴン」にも行ってきました。
ここでは、子供からお年寄りまで様々な年代の人が集い、被災地の住民の「こころ」の復興や、防災の啓発などを目的として、様々な活動が行われています。
中でも興味深かったのが、広島のソウルフードである"お好み焼き"を販売する活動。熱々のお好み焼きを、住民の人たちで一緒に食べることで、被災して傷ついて閉じてしまった心を、少しでも和らげたいという想いで始めたそうです。
運営している住民の方に話を聞くと、平成30年7月豪雨で被災した方が訪れたことがあったそうです。その人は、「自分も近所の人もみんな被災している中、自分だけ悲しんでいたら周りの人に自分の被害を押し付けてしまっているように思う。でも悲しいことには変わりない。だから、同じ被災した気持ちのわかる場所を求めてモンドラゴンに来た。」と言っていたそうです。その日、モンドラゴンでは平成30年7月豪雨で被災した人と共に、被災した悲しみの共有をしました。
モンドラゴンを運営する被災住民の方は「被災者に寄り添うことが何よりも大切である」と何度も何度も繰り返し言い、私に教えてくれました。
被災地では、まだまだ災害の爪痕が残っているものの、復興への道を進みはじめています。
国、県、市区町村がそれぞれの役割を担って復旧作業を行っている一方、被災住民の方々も一緒になって防災・減災に取り組んでいます。
毎年、何かしらの災害が起こってしまうようになった今、次はどこでどんな災害が発生するのかわかりません。被災者のほとんどが、「まさか自分の地域で災害が起こると思わなかった」と言います。
明日9月1日は防災の日。災害に備えて自分が何をしておくべきか考える良い機会です。
今は、インターネットで簡単に各地域のハザードマップや防災情報を確認することができます。
まず手始めに、ご自分の地域にどういうリスクがあるのか把握し、万が一の時にはどのような行動をとるべきか、家族で相談してみてはいかがでしょうか。