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そこで今回は、戦後の昭和を代表する3つの漫画から時代を振り返ってみたいと思います。
昭和(1926年12月25日~1989年1月7日)は、第二次世界大戦の終結を境に戦前と戦後に大きく分断され、戦前を近代、戦後を現代と捉えられることもあります。戦後の日本は、戦後復興期、高度経済成長期、安定成長期、バブル経済期を経て、現在まで続く平成不況期という歴史をたどることになります。
昭和を象徴する言葉に「一億総中流」があります。高度経済成長によって、物質的な豊かさを享受できる消費文化が国民に広く行き渡ったことが、このような時代の空気を醸成したのですね。格差社会といわれる現在からみると、戦後の昭和は「古き良き時代」なのかもしれません。
この古き良き昭和の時代を舞台にした、現在も国民的人気を誇る漫画があります。『サザエさん』『ドラえもん』『ちびまる子ちゃん』を紐解きながら、昭和を再発見する旅に出てみましょう。
新聞の4コマ漫画として1946年(昭和21年)から連載を開始。作者の長谷川町子さん(1920年1月30日 〜1992年5月27日)が住んでいた「東京都世田谷区桜新町」を舞台に、明るく元気なサザエさん一家の日常生活を描き人気を博しました。1969年(昭和44年)にテレビアニメとして放送が開始されて以来、国民的な番組して現在も継続中。本年2019年に放送50周年を迎え、世界で最も長く放映されているテレビアニメ番組としてギネス世界記録に登録されています。
『サザエさん』は、日本が驚異の経済復興を遂げようとしていた時代に誕生しました。終戦からわずか11年後の1956年、政府の経済白書で「もはや戦後ではない」と宣言されます。テレビ放映が始まったのは、高度経済成長期真っ只中。会社員の夫と専業主婦の二世帯家族である磯野家は、「一億総中流」の代表的な家族像でした。定時で仕事を終え、駅前の居酒屋で集う波平さん(54歳)とマスオさん(28歳)。サザエさんは24歳の主婦で、母親であるフネさん(50ン歳)のサポートのもと一児(タラちゃん・3歳)の子育て中。夕食は家族揃って食卓(ちゃぶ台)を囲み、会話を交わします。深夜残業、晩婚化(サザエさんは21歳で出産!!波平さんは51歳でおじいちゃんに!)やワンオペ育児といった社会問題は見当たりません。
今の世相とは異なる違和感を感じながらも、幼少期の頃の記憶が呼び起こされ、懐かしく感じる人も多いのではないでしょうか。
藤子・F・不二雄さん(1933年12月1日 〜1996年9月23日)による『ドラえもん』がはじめて掲載されたのは、『小学一年生』などの小学館学年誌の1970年1月号。ドラえもんやのび太たちが住むのは「東京都練馬区月見台すすきヶ原」という設定。一方、『ちびまる子ちゃん』の舞台となるのは、作者のさくらももこさん(1965年5月8日〜2018年8月15日)が1974年から1975年にかけて過ごした静岡県清水市(現・静岡県静岡市清水区)です。のび太の半ズボン、ちびまる子ちゃんの赤いジャンパースカートは、この時代の子どもたちの典型的な服装を象徴しています。家は戸建てのマイホーム。近所には空き地があり、さまざまな出来事の舞台になります。描かれる家族や友だちのとの何気ないやり取りに、昔の記憶がよみがえったり、なつかしい友人を思い出したり。1970年代というひとつの時代と文化を背景としながら、普遍的な日常を映し出す『ドラえもん』と『ちびまる子ちゃん』は、子ども向けのアニメというジャンルを超えた作品といえるのではないでしょうか。
アニメのなかでは昭和の一時代が舞台となっている『サザエさん』『ドラえもん』『ちびまる子ちゃん』ですが、それぞれ映画化されたり、舞台作品となって、今の時代を反映する表現に進化しています。もともと4コマ漫画だった『サザエさん』は、連載の後期から終了する1974年には社会風刺をネタにした作風が多くなったそうです。長谷川町子さんが、もし今の時代を漫画にしたらどんな作品が生まれたのでしょうか。待機児童問題に立ち上がるサザエさん、早期退職し盆栽を極める波平さん、一念発起し起業に奔走するマスオさん、アプリを作って一攫千金を目論むカツオくん、塾通いに疲れるワカメちゃん、インスタにレシピを投稿して「いいね!」を量産するフネさん……。
時代に翻弄されながらも明るく力強く生きるサザエさん一家の日常を妄想しつつ、昭和から平成、そして令和へと3つの元号を経験できることに感謝し、来るべき新しい時代を心穏やかに迎えたいと思います。
参考サイト
長谷川町子美術館