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この句は一茶の作。寒さに凍える中で冴えて輝く月を見つけて、思わず夜空に見とれる日も多い季節です。「月よかな」に一茶らしい庶民感覚があり、共感が湧きますね。
大寒をうたった句には、自然に対峙する姿勢のほか、寒さの極限だからこそ浮かび上がる自然現象が表されています。思わず、鑑賞する我が身も引き締まる気がします。
大寒の津々浦々に星の数 <石川万里子>
大寒や水あげて澄む茎の桶 <村上鬼城>
「茎の桶」は漬物桶のこと。漬物から上がった水が、桶の中で冷たく澄んでいる様子を表しています。身近な生活の中で、自然の摂理を垣間見る一瞬ですね。
大寒の富士へ向つて舟押し出す <西東三鬼>
大寒の一戸もかくれなき故郷 <飯田龍太>
山里が枯れ尽くされ、家々がまさに寒々しく晒されている風景。淡々と表しながら、故郷への思いも伝わってきます。
大寒の粥あつあつと母子かな <清原枴童>
大寒と敵(かたき)のごとく対(むか)ひたり <富安風生>
厳寒期を描写しながらも、肌身の人間を感じさせる句も並びます。確かに寒さを目の敵にして打ち勝つ術を得ようと、毎年防寒グッズに工夫を重ねる私たちです。
さて、寒そのものは、寒の入りから寒の明けの前日までを意味し、小寒と大寒を合わせて、寒、寒の内、寒中などと表します。今年は寒の入りが1月5日、寒の明けが2月4日の立春ですから、2018年の寒中は、1月5日から2月3日までとなります。
季語の「寒」も、語感が冷たい大気に直結しますね。さまざまな寒の句を集めてみましょう。
から鮭も空也の痩も寒の内 <芭蕉>
からざけもくうやのやせもかんのうち。芭蕉の名作です。K音の連続に、空也僧であろう修行僧と、乾(干)鮭のやせ細ったさまの相似的な連想。江戸当時の、情け容赦の無い冬を伝えてくれます。
寒といふ字に金石の響あり <高浜虚子>
実際の音感と、文字の連想をつなげています。自然への畏怖のみならず、宇宙的なスケールまでを一字の世界に表した、異色作です。
寒に臨む洋を望むに似たりけり <相生垣瓜人>
乾坤に寒といふ語のひびき満つ <富安風生>
乾坤とは天地のこと。こうして並べると、芭蕉につづき、寒とK音を併せると、独特の冬の世界が浮かび上がりますね。一方で、こんなまったりした句もあります。
餅焼いて寝しな喰ひけり寒の内 <小沢碧童>
くわりん落ち木瓜守りけり寒の内 <籾山梓月>
「くわりん」は、バラ科の榠樝(かりん)のこと。作者の庭の光景を詠いつつ、寒さを楽しんでいるかのようです。
最後にご紹介するのは、寒土用の句。土用と言えば夏をイメージしますが、もともと土用は雑節の一つで暦法の陰陽五行説に由来し、立夏、立秋、立冬、立春直前の 18日間ずつを指します。ほぼ大寒に重なる時節ですが、季語の場合はいささか語感の趣が異なり、興味深いですね。
寒晒土用の中をさかりかな <許六>
馬子唄の小諸晴れたり寒土用 <堀口星眠>
寒土用意気の高さに磯馴松 <谷中隆子>
寒土用しばし座右に褚遂良(ちょすいりょう) <星野麦丘人>
褚遂良は、初唐の書家。初唐三大家の一人といわれていますが、高宗がのちの則天武后を皇后にしようとしたのに反対し、怒りにふれて左遷され、憂死した人物です。人物の背景と時候の相乗効果で、引き締まった空気感があります。
一方で次につづく句からは、戸外とは打って変わって、室内の暖房の湯気までが眼に浮かぶようですね。わたしたちも、風邪など引かぬよう暖かくして立春を待ちたいものです。
白絹を裁つ妻と居て寒土用 <北野民夫>
【句の引用と参考文献】
『新日本大歳時記 カラー版 冬』(講談社)
『カラー図説 日本大歳時記 冬』(講談社)
『読んでわかる俳句 日本の歳時記冬・新年 』(小学館)
『第三版 俳句歳時記〈冬の部〉』(角川書店)