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6月から7月にかけて花びらを盃のように広げて咲く泰山木(たいさんぼく)の花をごぞんじでしょうか。まるで、雨も日差しも受けとめるかのように、おおらかに咲く花です。小林古径(1883-1957)とその弟子・奧村土牛(1889-1990)はともに「泰山木」の作品を残しています。古径は昭和10(1935)年に《白華小禽》を、土牛は昭和33(1958)年に《泰山木》を描いているのですが、その画風は対照的とも言えるでしょう。師の古径は、小鳥が枝にとまっている屋外の花を描いており、花の白さと葉の緑、枝にとまる小鳥を深い青で描き、その色彩と輪郭はシンプルにしてシャープ。花と葉がお互いを際立たせているかのようです。まさに、静謐という言葉が浮かぶ作品です。では、弟子の土牛の作品はというと…。
対して、土牛は一輪挿しの花器に活けられた屋内の風景を描いています。花も葉も、線を強調せずに色のグラデーションにより形をつくり、輪郭が柔らかくおっとりとしたたおやかな風情が漂う作品です。泰山木の花は、茶席に使われることも多いと言います。土牛の花は、人の目に触れることを意識し、観る人を和ませる効果を宿しています。元来、土牛の作品には素朴で優しい印象があります。また、花や自然を愛した土牛らしさが凝縮していると言えます。
これらの作品は、山種美術館(東京・広尾)に所蔵されています。現在、企画展「花*Flower*華―琳派から現代へ―」が開催中です。江戸時代の琳派、鈴木其一や酒井抱一の花鳥風月から現代まで、さまざまな花々の絵が一堂に会しています。琳派に好まれた四季の花々を一つの作品に収める描き方は、私たち日本人の、季節を問わず花を求める心がそのまま表現されているようですね。美術館のカフェでは季節の和菓子を、ミュージアムショップでは企画展にちなんだステーショナリーをお土産に…と、花尽くしの楽しみが館内に溢れています。暦の上では夏だけれど、どっちつかずのこの季節だからこそ、花を愛でにでかけてみませんか?
参考
・山種美術館公式サイト
・奧村土牛作品集 山種美術館
・山種コレクション花の絵画名品集 Flower