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シューマンは交響曲はじめピアノ曲など幅広い作品を残していますが、彼の真骨頂は何と言っても歌曲にあります。
歌曲集では「リーダークライス」「女の愛と生涯」などと並んで「詩人の恋」がもっとも有名です。
この曲の書かれた1840年は、シューマンにとっての「歌の年」とも呼ばれ、120曲もの歌曲を書いています。
この連作歌曲の詩は、ドイツの詩人ハインリッヒ・ハイネ(1797-1856)によるもので、シューマンは「歌の本」から16篇を選んで曲をつけています。
内容は、若い詩人の恋の喜びと憧れ、続いて失恋の苦しみ、終盤では過ぎ去った恋が回顧されるという、ドイツ・ロマン派的なテーマが展開します。歌はもちろん、ピアノ伴奏のメロディーにも表現の重点が置かれ、まるで独立して歌っているかのようです。シューマンは1840年にこう書いています。
「僕は自分自身が驚くほど、多くを作曲しました。僕はナイチンゲールのように、死ぬまで歌い続けるでしょう」
この手紙は恋人で妻となったクララ・シューマンに宛てられています。シューマンの歌曲はクララとの恋愛が強く投影しているのです。
「詩人の恋」第1曲目「美しい5月に」は次のように歌われます(西野茂雄訳)。
美しい5月になって
すべての蕾がひらくときに
私の胸にも
恋がもえ出た
美しい5月になって
すべての鳥がうたうときに
私は胸にもえる思いを
あのひとにうちあけた
ピアノの分散和音にゆっくりと導かれて歌い出されるこの曲は、シューマンの作品中でもっとも美しいもののひとつです。このほかにも緊張感が支配する第9曲の「鳴るのはフルートとヴァイオリン」、ピアノの後奏が印象的な終曲の「いまわしい思い出の歌」など名曲が揃っています。
おすすめの録音はディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)とアルフレッド・ブレンデル(ピアノ)が共演した1996年にリリースされたディスクでしょう(フィリップス)。
女流ピアニストとしても知られたクララ・シューマンは、作曲家としても作品を残しています。シューマンは投身自殺を図ったのちに46歳で亡くなってしまうのですが、シューマン没後、作品を整理するなどしました。ブラームスとの親交でも有名です。
── みずみずしく生命力にあふれた初夏の緑を眺めながら、シューマンの歌曲を聞いてみてください。見慣れた風景がいっそう美しく見えてくるかもしれません。