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展示では、中国、朝鮮、日本と異なる地で焼かれた名碗を揃え、室町・安土桃山・江戸そして近代と、時代の移り変わりと茶道具の変遷を辿ります。歴史的な武将や茶人が愛でた名品が一堂に揃いますが、今回出品される約260点のうち、約3分の1が国宝や重要文化財。「茶の湯」をテーマにこのクラスの品々が並べられた展覧会は、昭和55(1980)年に同じ東京国立博物館で開催された「茶の美術」展以来で、関係者には奇跡の開催とされているそうです。
展示では名碗のオールスターズが並びますが、所持した人物に思いを馳せるのも楽しいもの。絢爛豪華な唐物の国宝「油滴(ゆてき)天目」は、豊臣秀吉の甥(のちに養子)秀次所持と伝わります。足利義政が愛した重要文化財の「青磁輪花茶碗 銘 馬蝗絆(ばこうはん)」、織田信長から柴田勝家に贈られた重文「青井戸茶碗 柴田井戸」などを眺めていると、大河ドラマや時代劇のワンシーンが浮かんだりすることでしょう。
今回は、特に時代的な変遷がわかりやすく展示されています。12世紀頃からの、中国の美術品である「唐物(からもの)」を飾ってステイタスとした時代から、16世紀に千利休が自分のスタイルで国内外の道具を取り合わせた「侘茶」への変化が、まさにオリジナリティーの出現として可視化されています。長谷川等伯筆とされる『千利休像』の利休も、凄みたっぷり。利休の弟子の古田織部のひょうげもの(ひょうきんな人)っぷりも面白く、彼らの迫力のある茶の湯を観ていると、背景が戦国時代だったことにも頷けます。
そして太平の世の江戸時代、小堀遠州と松平不昧の茶の湯は、見るからに古典復興の気配が濃厚で、道具類も穏やかな容貌です。その後時代が流れ、幕末から明治維新の実業家の近代数寄者たちが伝統を重んじつつ、世の中に放出された第一級の名品を揃えた様子まで、一気に展観できます。
とはいえ、茶道について詳しくない人には、茶道具の名前や種類、茶室の構造や茶会ルール自体が耳慣れないことでしょう。ウエブサイトでは、カラー版ジュニアガイドが用意されています。子供から大人まで楽しめるわかりやすい内容ですので、ダウンロードして展覧会に持参するのも良いかもしれません。
たとえば、茶の湯の歴史のコーナーでは、歴史的人物の茶の湯への姿勢が一言でまとめられています。一例では、栄西「お茶は体にいいよ」、珠光「シンプル・イズ・ベスト」、千利休「花は野にあるように」、そして織田信長は「はい、ごほうび」。戦で手柄をたてた家臣へのほうびに茶湯道具が使われたなど、気の利いた説明が光ります。また、一期一会(いちごいちえ)のおもてなしのこころ、茶室ではみんな平等、濃茶はひとつの茶碗を回して飲むわかちあいのこころなど、一連の説明を読んだ上で展覧会を一巡すれば、おおもとの茶の湯の精神に触れることができることでしょう。
東京では、他にも茶の湯にちなんだ展覧会があります。東京国立近代美術館では、千利休お気に入りの初代長次郎の黒樂茶碗「大黒」をはじめ、歴代の重要文化財のほとんどを一挙公開した「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」展が5月21日まで開催されています。
出光美術館で6月4日まで開かれるのは「茶の湯のうつわ 和漢の世界」展。江戸時代に流行した茶の湯の器のほか、出雲松江藩の七代藩主・松平不昧の茶道具の蔵帳『雲州蔵帳』が、13年ぶりに公開されています。
展覧会により期間別の展示替えもあるので、詳細についてはウエブサイト等をご覧くださいね。観るのも良いけれどお茶を飲みたい、というかたには、春の都立公園でお抹茶とお菓子を楽しめるイベントもあります。新緑の公園でお抹茶を味わう体験は、格別な味となることでしょう。