- 週間ランキング
お祭りなど公共の場で私たちがよく目にする「六尺ふんどし」。長さ六尺(約180cm)以上もある、一枚の布です。浮世絵に登場する飛脚や大工さんなど、体を張って活躍する男性たちのお仕事着としてもおなじみですね。ねじねじした布で締め上げたお尻が、潔くまる見えです。じつは現在でも、遠泳の授業などで赤い六尺ふんどしをつけて泳ぐ男子校があるそうです(赤いものを身につけると水難から守られるという意味も)。なかには、その伝統がどうしても無理で志望校からはずす思春期男子もいるのだとか。現代人にとっては、心のスイッチを切り替えないと少々ハードルが高い非日常アイテムに思えます。これをふだん使いしろとおっしゃるのか。…ところがじつは、ふんどしにもいろいろ種類があるのをご存じでしょうか。
昭和っ子のみなさんは、アニメ『いなかっぺ大将』によって赤いふんどしの存在を知ったという方も多くいらっしゃることでしょう。主人公の大ちゃんはすぐ全裸になる人で、赤ふんもはずれる勢いでニャンコ先生を焦らせていました。あれは「越中ふんどし」といって、六尺の半分くらいの布にヒモが縫い付けられたタイプです(越中富山に由来するかは、諸説あるようです)。こちらの装着はカンタン。布を後ろにして前側でヒモを結んだら、お尻を包みこむように下からもってきてヒモに通します。余った部分は前に垂らしてカフェエプロン風に。前もお尻も露出しないので、とっても安心ですね。もともとはお年寄りや文人など、それほど体を動かさない生活をする人用だったといいます。洗ってもすぐ乾き、風通しがよくてムレしらず。便利さと快適さで、昭和初期くらいまでは広く一般男性の日常下着として用いられていました。現在の医療用「T字帯」も、このタイプです。
「褌(ふんどし)」は衣へんに軍。「褌を締めてかかる」という諺があるように、六尺ふんどしなどをキュッと締めあげたときのホールド感や緊張感は、心身を戦闘モードに! 近年、気持ちを新たに物事に向かう「勝負パンツ」として用いるビジネスマンもいらっしゃるといいます。室町時代は、ふんどしにあたるものを「手綱(たづな)」と呼んでいたそうです。昔は布が貴重品だったため高貴な人しか身につけることができず、戦国時代には、戦死者がふんどしをつけているかどうかで身分を見分けていたといわれています。
相撲の「まわし」は、戦闘服系ふんどしの筆頭。すでに古墳時代の埴輪には「まわしを着けた力士」がいます。締め込む際は、邪念・汚心は去るべし。日本古来より、ふんどしは単なる下着ではなく神聖な装身具だったのですね。まわしは硬くて重くて長いので、ふたりがかりで締め込みます(興味のある方はリンク先をどうぞ)。下には何も着けず素肌に直接締めますが、験を担ぐ意味もあり使用期間中(平均 5〜6年)いちども洗いません(拭いたり干したりはするようです)。力士の汗や締め癖によりだんだん育っていき、似たようなまわしの中からでもすぐ取り出せるほど個性を醸すのだとか。好みや作戦(掴まれにくくするなど)によって締め具合を工夫するのも、こだわりポイントのひとつです。
ところで、そのまわしがもし、取り組み中にはずれてしまったら!? 行司さんが突然「待った」をかけて、背後からまわしを締め直してあげているのをテレビでご覧になったことがあるでしょうか。まわしがゆるんだら、一時中断して直し、戦闘再開します。一般的には、力士の「ゆるふん」は品格が疑われ、土俵上でまわしが緩んだりずれたりすることは恥。万一本当にはずれてしまった場合は(過去には何度か発生)、その力士は「不浄負け」となるそうです。親方にも厳しく叱られてしまうのですね。
土俵入りするときの「化粧まわし」だけは、下にサラシの下帯を着けています。豪華な「前下がり」は、贅を尽くした芸術品。くまモンやキン肉マンまで登場する楽しいデザインにも目が離せませんね。まわしとは別に上からとり付けるものと思いきや、なんと股間に通したり腰に巻く褌(みつ)と同じ一枚布でつくられているそうです!
女子が口にするには骨太感がありすぎる「ふんどし」という響き…「ふんぽち」とか「るんどし」だったらよかったのに(←個人の感想です、すみません)。「ふんどし」という呼び名は「踏通(ふみとおし)」「踏絆(ふもだし・馬や犬を繋ぎ止める綱)」から由来するという説などが一般的だそうです。ふんは「糞」じゃなかったとはいえ、一般女性が日常でふんどし装着なんて。ところがなんと。数年前からふんどしのもつ健康効果が話題となり、巷に「ふんどし女子」が急増中というではありませんか。とくに初心者におすすめなのは、夜だけ着けて寝る「夜ふん」!? いったいどんな効果が期待できるのでしょう。
あまりにも慣れてしまっているため意識されないことも多い「下着による締め付け」。血行が滞り、寝ている間にむくんだり「冷え太り」する原因になっているといわれています。睡眠時だけでも脚の付け根(そけい部)を解放することで、内蔵の働きが活発になって血行が良くなるといいます。生理的機能の回復だけでなく、腰痛、肩こり、冷え性、便秘や下痢などお腹の症状にも効果が期待できるようです。熟睡できるようになり、心身の疲労がとれて目覚めもスッキリ。また、下着の刺激による肌の黒ずみやかぶれも改善します。気持ちも解放されるので、パートナーとのラブラブ度が増すという体験談も。男性はふんどし着用により熱がこもらなくなるので、生殖機能がアップするともいわれています。夜ぐっすり眠れないという方は、ナイトウェアのひとつとして選択肢に加えてみてもよいかもしれません。
女性用にデザインされた越中ふんどしは、プチ・スカート的なキュートさ。お腹部分に布が重なって暖かいです。さらに女性に人気なのが、「もっこふんどし」。紐ショーツそっくりの形状で、片側に脚を通して履いたら反対側でヒモを結べばOKです。温泉旅行でも普通のショーツと見た目変わらず!ただ、履き心地はまったくの別物、というか「何も履いていない」履き心地です。脚の付け根部分にゴムがないとスースーして冷えそう?と思いますが、血行がよくなるのでむしろポカポカ。じつは男性より日頃から布の少ないショーツに慣れている女性のほうが、抵抗なくふんどしを取り入れられる気がします。一日中着けて過ごすという女性も、じわじわと増えているそうです。
ふんどしライフ、意外と身近でしたね。2020年、はたしてお宅の引き出しに ふんどしは入っているでしょうか?
本日2月14日は「にぼし(2・棒・4)の日」でもあります。ふんどしを着けて、和食を味わって。愛する人と和の気分でリラックスする1日としてみるのはいかがですか。
<参考>
『下着の文化史』青木英夫(雄山閣出版)
『おっ、ふんどし!? 新・ふんどし物語』越中文俊(心交社)
『夜だけ「ふんどし」温活法』日本ふんどし協会(大和書房)