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通年出回る野菜や果物が多くなりましたが、「菜の花」は敏感に旬を感じさせてくれる数少ない野菜のひとつ。柔らかな黄緑色の葉と蕾からうっすら見える黄色は、春の訪れを告げる明るい色彩に満ちています。
昨年、生誕300年を迎えた江戸時代の俳人である与謝蕪村(よさ ぶそん 1716年〜1784年)は、その生涯に菜の花を題材にした俳句を数多く詠んでいます。
「菜の花や 月は東に 日は西に」
有名なこの句は、蕪村が六甲山地(神戸市)の摩耶山(まやさん)を訪れたときのものといわれています。春の夕刻、一面に広がる菜の花畑、同時に見える月と太陽。一見のどかなようで、ダイナミックなスケールの大きさが感じられる句ですね。春の力強い生命力を讃えているかのようです。
菜の花に非常に多く含まれているビタミン(vitamine)は、ラテン語で「生命」をあらわす「vital」に、窒素を含む有機化合物を意味するアミン「amine」を合わせて命名されました。生命に欠かすことのできない栄養素といわれるビタミン。菜の花は、このビタミン類の含有量がずば抜けて豊富なのです!
菜の花は菜花(なばな)ともいわれ、アブラナ科の代表的な緑黄色野菜。「菜」は、葉や茎を食用とする植物を指す言葉で、菜の花とは「食用の花」という意味になるそうです。
ビタミン、ミネラル、食物繊維ともにトップクラスの優良野菜で、特にビタミンCは130mg(可食部100g当たりの栄養素の量)も含まれており、あのブロッコリーよりも多いのです。この含有量は、2分の1束で1日の摂取目安量(文部科学省の食物成分表よる)をクリアするほど。
抗酸化作用をもつβカロテン、ビタミンB2、ビタミンEも豊富で、活性酸素のはたらきを抑制し、細胞の老化やがんから身体をガードしてくれるといわれています。また、免疫力を高めて風邪のウイルスから体を守る、肌荒れを防ぐなどの健康効果も期待できるそう。女性にうれしい葉酸や鉄も含まれており、季節を感じながら、ぜひ頻繁に食卓に登場させたい野菜です。
ビタミンは生命活動に欠かせない機能をもつ栄養素ですが、ほとんど体内でつくることができません。そのため食品からなるべく効率よく、余すことなくいただきたいものですね。
まず知っておきたいのが、ビタミンの種類。ビタミンは「水溶性ビタミン」と「脂溶性ビタミン」に分類され、それぞれ性質が異なります。その性質を確認して、最適な調理法で美味しくいただく工夫をしてみましょう!
◎水溶性ビタミン
水に溶けやすい性質をもったビタミン。ビタミンC、ビタミンB1、B2、B6、B12、ビオチンといったビタミンB群、ナイアシン、パントテン酸、葉酸。
水溶性ビタミンを多く含む野菜は、菜の花、ブロッコリー、ほうれん草、小松菜などがあります。
水に溶けて余分なものは尿中に排出されるため、過剰摂取の心配はありません。体内に蓄積できないので、こまめに摂取できるように工夫しましょう。
水溶性ビタミンは、「水に溶けないようにする」のが効率的に摂取するためのポイント。水で洗ったり、茹でるという調理の過程で栄養素を失われてしまうのです。そのため「茹でる」「煮る」よりも、「蒸す」「炒める」調理法を選択しましょう。スープや味噌汁などの汁物にして、まるごといただくのもおすすめです。
◎脂溶性ビタミン
油に溶けやすい性質を持つビタミン。ビタミンA、D、E、K。
脂溶性ビタミンを多く含む野菜は、にんじん、かぼちゃ、トマトなどがあります。
水溶性ビタミンと違い、しばらく体内に蓄積することができ、油に溶けた状態で肝臓などに貯蔵されます。摂りすぎると頭痛や吐き気といった過剰症のおそれがありますが、通常の食事で過剰摂取になる可能性は低いといえます。
脂溶性ビタミンは、「油と一緒に摂取する」ことがポイント。「炒める」のが最適な調理法で吸収率がアップします。サラダでいただくときは、ノンオイルドレッシングよりもオイルを含むドレッシングを選びましょう。オリーブオイルをまわしかけるのもおすすめです。
水溶性ビタミンを多く含む菜の花は、あく抜きの下茹でをする場合は、なるべくさっと茹でましょう。ビタミンCをキープするには、蒸したり炒めたりする調理法を選んで。ビタミンCは鉄の吸収を高めるので、小魚やレバーと合わせるのもおすすめです。疲労回復には、高たんぱくの豆腐やビタミンEの多いきのこ類を組み合わせてみましょう。
来月に控えるひな祭りには、菜の花と蛤のお吸物にしたり、蒸した菜の花をちらし寿司に加えて彩りを楽しんだり。今だけの春の息吹を、食卓で存分に感じてみましょう。
参考文献
吉田企世子『旬の野菜の栄養辞典 最新版』エクスナレッジ 2016