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年末に近づくにつれ、いよいよ寒さが本格的になってきました。本日から二十四節気では「大雪(たいせつ)」。七十二候ではその「大雪」の初候、「閉塞成冬(そら さむく ふゆとなる)」。天地の気が塞がって、冬の雲は厚くなり、太陽の光をさえぎる日が多くなってきましたね。
高い山々や北国は白い雪で覆われ、平野でも雪が本格的に降り出すこの頃。各地でスキー場も続々オープンしはじめました。そろそろお歳暮シーズン、明日8日は針供養や事納めと、寒さが増すとともに慌ただしさを増す師走。多忙な日々を過ごされる方も多いと思いますが、暖かくして風邪をひかないよう気をつけたいものですね。
「大雪」と聞くと、何となく連想してしまう北海道の「大雪山」。一つの山の名かと、ずっと勘違いしていたのですが、「大雪山系」とも「大雪山連峰」とも言うように、旭岳を主峰とする非常に広大な山岳地帯を指すようです。トウムラウシ山から十勝岳連峰、然別火山群なども含む、いわゆる北海道の屋根と呼ばれる一体が、大雪山国立公園に指定。手付かずの大自然が残る壮大なエリアです。
この時期は当然ながら白銀の雪に覆われている大雪山系。その十勝岳付近の山小屋が、かつて雪の結晶の研究の舞台となったことがありました。
それは、1933年ごろのことで、天然雪の研究から出発し、やがて世界に先駆けて人工雪の実験に成功した世界的雪氷学者である中谷宇吉郎博士が、この地で雪の結晶の写真約3000枚を撮影したのです。
中谷博士たちは、馬そりで十勝岳中腹に建つ個人所有のヒュッテまで機材を運搬。ベランダに雪で固めたテーブルを作り撮影装置を据え付け、連日深夜まで撮影に及んだとか。これをもとに博士は結晶形の分類を行い、「雪の一般分類表」を発表。この分類表はその後、世界的な分類基準の原典として広がっていったのです。
~十勝岳の思い出は皆なつかしいことばかりである。冬の深山の晴れた雪の朝位美しいものは少いであろう。登山家やスキー家たちが生命の危険にさらされながらも、冬の山へ出かけてゆく気持がわかるような気がした。十勝岳での雪の仕事のことは今も度々思い出されるのであるが、その印象は美しいことばかりのようである~
と、博士は著書「雪」(北海道における雪の研究の話)の中で、当時をふりかえっています。
北海道大学の構内に、雪の結晶“六花”を象った六角形の碑があります。「人工雪誕生の地」と記されたこの碑は、北海道大学低温研究室において中谷宇吉郎博士が果たした、世界初の人工雪誕生を記念するもの。
~雪の結晶を人工的に作って見て、天然に見られる雪の全種類を作ることが出来れば、その実験室内の測定値から、今度は逆にその形の雪が降った時の上層の気象の状態を類推することが出来るはずである。
このように見れば雪の結晶は、天から送られた手紙であるということが出来る。そしてその中の文句は結晶の形及び模様という暗号で書かれているのである。その暗号を読みとく仕事が即ち人工雪の研究であるということも出来るのである。~
「雪」(雪を作る話より)
雪の結晶の美しさに魅せられ、その結晶を作る研究の意味合いを“雪は天から送られた手紙である”という美しい言葉で表現した博士は、読む者の胸をうつ文章を綴る卓越した随筆家でもあったのです。
――ひらひらと舞い降りる雪、銀白色に降り積もる雪は、条件が整えば、肉眼でその結晶が見えることがあります。
一粒ひと粒が繊細で精巧な造形を成し、宝石のように光にきらきらと反射する雪の結晶。初めてこの目で結晶を見たとき、この天からの手紙がもたらしてくれた、胸がじんと暖まるような感動が思い起こされる「大雪」の時季となりました。