1969年10月9日付日刊スポーツ紙面

<スポーツ違法賭博市場>(下)

野球などのスポーツを対象とした違法ベッティング(賭博)市場が、日本を席巻している。一般財団法人「スポーツエコシステム推進協議会」が5月14日、調査結果を発表した。日本の居住者が海外のスポーツベッティングサイトを利用してプロ野球やMLBなどに賭けている推計金額は昨年、6兆4503億円にのぼったという。巨額に膨れ上がっている市場の実態などを全3回で紹介する。

ここまで(1)日本の居住者が海外のサービスを利用してスポーツに賭けた金額が約6・5兆円(2)日本のスポーツに賭けられた金額が約4・9兆円、という一般財団法人「スポーツエコシステム推進協議会」の調査結果に基づく推計金額を紹介した。これらを踏まえた上で、日本野球界の進路を考察する。

日本国内のスポーツでは競馬や競輪などの公営競技と、サッカーやバスケットボールを対象にした「スポーツくじ」(toto、WINNERなど)のみ、賭けることが認められている。スポーツくじの24年度の売り上げは約1336億円だった。このうち91%にあたる約1215億円が、コンピューターがランダムに勝敗を選ぶBIGなどの非予想系だった。野球は対象外だ。

野球界は「賭け」に対して非常に敏感だ。米大リーグでは1919年に「ブラックソックス事件」、日本では1969年に「黒い霧事件」と呼ばれた八百長が起きたからだ。八百長はスポーツの価値を根本から損なう。野球は1人の投手が勝敗に大きく関与するため、八百長を仕組みやすいという特性もある。だが、海外への流出金額、totoなどの収益から生まれる競技団体や球団への助成金額を考えると、いろいろな可能性を検討する価値はありそうだ。

日本居住者が海外のサイトを利用してプロ野球(NPB)に賭けた金額は、同協議会によると24年に5281億円と推計された。また、日本を含む世界全体からNPBに賭けられた金額は8829億円と見積もられた。前者は違法であり、後者は合法な国や州から賭ければ適法だが、スポーツデータに対する「ただ乗り」(フリーライド)がもどかしい。合法市場の形成が、違法市場を駆逐する手段とも考えられる。

インターネットが発達し、スマートフォン1つで世界中のスポーツに賭けられる時代だ。八百長対策は、各国の連携態勢が欠かせない。19年に欧州評議会が中心となり「マコリン条約」という、八百長を防止する国際的ルールを定めている。日本は未署名だが、43カ国が署名し、14カ国が批准している。各国に「ナショナル・プラットフォーム」(NP)と呼ばれる情報集約などを行う団体の設置が義務づけられ、不自然なオッズや急変動などが自動的に感知できる仕組みが稼働している。

5月14日に同協議会が主催したシンポジウムでは、遠藤利明氏、玉木雄一郎氏ら国会議員、巨人山口寿一オーナーらが、同条約への署名に前向きな姿勢を示していた。稲垣弘則代表理事は「合法と違法な市場が尋常でないスピードで広がっている。条約の署名を待たず、官民で一体となってNPの設置を早急に検討する必要があるのではないか」と危機感を募らせる。金や情報が簡単に国境を越えるネット時代に即した、機動的な対応が求められる。【斎藤直樹】(この項おわり)

情報提供元: 日刊スポーツ
記事名:「 八百長対策 各国は連携 日本も官民一体で検討急ぐ必要性/スポーツ違法賭博市場の実態3