12日中日戦の9回、マウンドで工藤泰成に声を掛ける坂本誠志郎

<猛虎リポート>

日刊スポーツの阪神担当が、チームや選手に独自の目線で迫る「猛虎リポート」。新人右腕を立ち直らせた「タイム」に迫った。12日中日戦(甲子園)の9回、工藤泰成投手(23)はボールを連発。すかさずマウンドに駆け寄った坂本誠志郎捕手(31)は、後輩右腕にある言葉をかけていた。【取材・構成=波部俊之介、柏原誠】

   ◇   ◇   ◇

ひとつの「タイム」が、ルーキーを立ち直らせた。9回に登板した工藤は、制球に苦しんでいた。先頭から2者連続で四球。150キロ超えの剛速球を連発しながら、10球連続ボールなどストライクが取れなかった。なんとか二ゴロ併殺を奪い、なおも2死三塁。3番駿太へ初球156キロ直球が高めに浮いた直後だった。坂本はすかさずタイムを要求し、マウンドに駆け寄った。

「真っすぐは打たれていないんだから。それをボールに投げているのはもったいないよ」

坂本は笑顔だった。語りかけるように、うなずく新人右腕に話していた。直後、ゾーン内へのボールが復活。2球連続でファウルを奪うなどカウント2-2とし、最後は139キロカットボールで空振り三振。無失点に切り抜けた。作ってくれたほんの数十秒の「間」に、工藤は感謝を並べた。

工藤 そこでハッとしたというか。本当に、フォアボール、フォアボールで気持ち的にも自分と闘っていた感じがしていて。球場の拍手だったり応援もあって、自分じゃなくバッターと戦う気持ちになれた。

工藤は前回登板の9日ヤクルト戦(甲子園)でも制球に苦しんだ。2四球に2つの暴投で0回1/3を2失点(自責1)。プロ初の負け投手となっていた。知らず知らずのうちに良さが隠れてしまっていることを、坂本は分かっていた。

坂本 最近はストライクを入れたいから、自分で(小手先で)細工しちゃっている。もともと胸を張ってビューンと投げてくるのに。いいときは、ちょっとシュートして強さがあるボールが来るので。

この日は「僕の方が先に開き直りましたね」と坂本。ドッシリとド真ん中にミットを構え、工藤を信じた結果だった。

坂本 「お前も開き直ってくれ」と思って、マウンドに行きました。対打者なので、マウンドでメカニックの話はしていないです。

配球や肩の強さだけではない。間を取り、言葉で投手を立ち直らせた数十秒間。プロの捕手としてのすごみを感じさせた瞬間だった。

情報提供元: 日刊スポーツ
記事名:「 【虎番秘話】「ハッとした」制球難工藤泰成に駆け寄った坂本誠志郎 数十秒間「タイム」の舞台裏