【悼む】渡辺恒雄氏の威厳と尊大の象徴「くわえ葉巻」裏話 人間的には憎めないところも
<悼む>
読売新聞グループ本社代表取締役主筆の渡辺恒雄氏が19日午前2時、肺炎のため東京都内の病院で死去した。
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考え方には賛成できなかったし、批判もしてきた。でも、人間的には憎めないところがあった。威厳と尊大の象徴だった、「くわえ葉巻」の裏話。我々が食事場所を突き止めて待ち受けていると、渡辺主筆はお付きの関係者に「記者は来ているのか?」と確認してから、わざわざ新しい葉巻に火をつけていた。ある時などは、店を出る直前に記者が待っていることに気がつき、慌ててUターン。店のなかで葉巻をくわえ、何食わぬ顔で我々の前に登場していたという。
機嫌のいい時は昔話もよくしていた。「君らの気持ちもよくわかる。おれも記者やってた時、料亭の前で政治家を待って張り込んでたら、店の人間に水をぶっかけられた。あとになって、水をかけたやつとは仲良しになったけどな、ハッハッハ!」。計算づくではあるが、半分はサービスのつもりで、我々とのやりとりを楽しんでいた節がある。
中日で監督を務めた落合博満氏の信子夫人から聞いた話だ。巨人から去るとき、東京・大手町の読売新聞本社に夫婦であいさつにいった。すると、渡辺主筆は大きな花束を抱え、信子夫人の労をねぎらったという。落合氏は追われるように巨人を去ったが、信子夫人は今でも渡辺主筆のことを悪く言わない。
政治家になっていたら、また違う人生だっただろう。忘れられないシーンがある。00年9月、長嶋巨人は9回に4点差をひっくり返し、サヨナラ勝ちで4年ぶりのリーグVを決めた。渡辺主筆は東京ドームの貴賓席から身を乗り出し、泣きながらタオルを振り回して「ナガシマ!」と叫んでいた。あの時は純粋に野球を愛していたと思いたい。【元巨人担当・沢田啓太郎】