東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します

2022年3月8日発行
東洋大学

 
東洋大学 SDGs NewsLetter Vol.06
東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します

普遍的なモノのなかにこそ
持続可能なまちや住まいのヒントがある

 本ニュースレターでは、東洋大学が未来を見据えて、社会に貢献すべく取り組んでいる研究や活動についてお伝えします。
 今回は、理工学部建築学科の伊藤暁准教授に、これからの住まいや建築の在り方、住み続けられるまちづくりのヒントについて、お伺いしました。

 
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理工学部 建築学科
准教授 伊藤暁

Point
1.町を体感するための施設から見えてきたもの
2.戦後から続くレガシーに縛られない建築を
3.住み続けられるまちの条件とは
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町を体感するための施設から見えたもの
伊藤先生は、徳島県神山町の宿泊施設「WEEK神山」を設計されました。神山町はIT(情報技術)企業のサテライトオフィス設置などによって活性化し、地方創生の成功事例として注目されています。WEEK神山はどういったコンセプトで建てられたのでしょうか。
 神山町には日本全国から自治体関係者や地域活性に取り組む人たちが視察にやってきますが、主要な施設で写真を撮ったら帰ってしまうことが多いそうです。数十分程度の滞在では町全体の良さは分からないでしょうし、町民からも「町を知りたいなら1週間くらい滞在してほしい」との声が上がり、来訪者が1週間(week)滞在するための宿泊施設として企画されたのがWEEK神山です。
 建物は、山や川、集落といった周りの風景を見渡せるように、客室の一面を全面ガラス張りにしました。あたかも神山の環境に放り出されたような感覚を味わえると思います。もう一つの特徴が直径35cmの丸太の柱。神山町は林業とともに歩んできた町なので、木造建築が好ましいと考えていました。しかしガラス張りにするには筋交いなどを入れて強度を高めなければなりません。でも、筋交いが入れば視界が妨げられて、町との一体感が損なわれますから、構造を再検討し、柱を直径35cmにすれば問題ないとの結論に至りました。

一般的な建築物ではあまり見かけないサイズですよね。
 そうなんです。建築資材には素材や寸法などの規格があり、直径35cmの太い丸太は流通していません。どこに行けば買えるのか、困って神山町の林業関係者に相談したら「市場になくても、そこらにたくさん生えているよ」と言われ、はっとしました。山に木が生えているのは当たり前のことなのに、建築が産業化され過ぎていて忘れていたのです。今の建築の仕組みは戦後に構築されました。WEEK神山の場合は山から1本ずつ木を伐り出しましたが、たくさんの住居を整備するのであれば、そんな悠長なことをしていられません。寸法を統一して次々に出荷しなければ間に合わないのです。しかし今や住宅着工件数は減少傾向。SDGsの機運も相まってストック活用に目が向けられていますから、時代に合わせて規格統一等の産業の仕組みを見直すべき時が来ていると思います。
 また、都市と田舎という構図も現代に合っていないと感じます。神山町は「うまくいっている田舎」と称されますが、人が集まり仕事があって経済が回ることを「うまくいっている」と評価するのは都市の価値観です。SDG12ターゲット8には「あらゆる場所の人々が持続可能な開発および自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする」とあるように、田舎には田舎なりの連関や豊かな暮らしがあると感じます。

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▲WEEK神山

 
戦後から続くレガシーに縛られない建築を
規格統一は産業振興に貢献しましたが、一方で、規格外品の廃棄や処分の問題も生じています。
 建築業界では、太すぎる丸太だけでなく、細すぎる木材も規格外。ツーバイフォー工法では38mm×88mmが規格寸法で、加工の際には細い端材が大量に生じ、建築市場では値が付かず、燃料やペレットに加工されています。
 「そんな木材でも建物が造れるのでは」と学生とともに取り組み、直径38mm×88mm、長さ90cmの木材を組み合わせた物置小屋を造りました。普段は建築に使われない素材なので、理工学部の教員に依頼して強度検査なども実施。また、細く短い木材を継ぎ合わせて使っているので、強い地震の揺れに耐えられるかどうか、接合部の強度なども検証して設計しています。

 丸太も極細の木材も、戦後から続く大量生産の仕組みからこぼれ落ちたもので、今後はこれらをいかに活用していくかが重要です。国内の森林には出荷時期を過ぎている木が多数あって、林業は厳しい状況に置かれています。今の市場環境や法規制だと、規格外品を扱うには複雑な計算が必要で、さまざまな書類を提出しなければなりませんが、社会全体の仕組みが変われば、多くの人が扱いやすくなり利活用が進むと期待しています。

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▲端材で造られた物置小屋

住み続けられるまちの条件とは
コロナ禍で住む場所や住まいそのものへの価値観が変わってきたと言われています。こういった変化は建築やまちづくりに影響するものでしょうか。
 住まい方や働き方の可能性は広がったかもしれませんが、こうした大きな出来事の後は「何が変わったか」よりも、「何が変わらなかったか」に目を向けるようにしています。コロナ禍でも変わらず、夏は暑いし、朝は日が昇って目が覚めやすいですよね。そうした普遍的な部分に、SDGsのゴールにある「住み続けられるまち」を実現するヒントがあると考えています。建築も使い続けてもらうためには変わらずに受け継がれてきた部分が重要で、それとコロナ禍で生まれた新しい価値観を両輪で考えることが大切なのではないでしょうか。
 まちは、いろいろな考えや価値観の人が共存できることが一番の魅力。まちづくりの議論になると、合意形成の過程で無理や我慢が生じがちですが、そうなると疲弊するばかりで長続きしません。神山町の人たちはまちのためではなく、自分が楽しむために動いています。楽しそうに過ごしている人がたくさんいて、相手に何かを強いることもしない。その健全な姿がまちの魅力になっていますし、人々の前向きな思いを建築に反映するのが私たちの仕事だと思っています。

 
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伊藤暁(いとう さとる)
東洋大学 理工学部建築学科 准教授

専門分野:建築学、建築設計、建築意匠
研究キーワード:建築設計およびデザイン、地域性、古民家改修・コンバージョン

 
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情報提供元: PRワイヤー
記事名:「 普遍的なモノのなかにこそ  持続可能なまちや住まいのヒントがある【東洋大学 SDGs NewsLetter Vol.06】