■事業内容と収益構造、特徴・強み

桑山<7889>は、セグメント情報を開示していないため、取材等で得られた情報を元に事業内容及び収益・利益構成を弊社でまとめた。

(1)事業内容

主なビジネスカテゴリーは、高額商品のファインジュエリー、婚約指輪などのブライダルジュエリー、百貨店の1階で販売されているような比較的低い単価のファッションジュエリーで、主な製品品目は、ネックレス、ペンダント、リング、ブレスレット、イヤリング、ピアスである。また、ジュエリー用チェーンの販売、ダイヤモンドやパール等のルースの販売も行っている。帝国ホテルでサロンを運営しているが、ショールームのような位置付けであり、小売りはほとんどしていない。

(2)売上高と利益構成

売上高構成比は、OEM(Original Equipment Manufacturing)・ODM(Original Design Manufacturing)事業が約3割、ダイヤ・パールなどの素材販売が約3割、貴金属チェーンの製造販売が約2割、海外が約2割となっているが、総合力を生かしたOEM・ODM事業が中核事業となっている。このOEM・ODM事業の顧客は、国内外のトップブランドで、百貨店の1階にある単価が数万円程度のアクセサリージュエリー売場や上階にある高級な商品を取り扱う「宝飾サロン」と呼ばれるような売場、全国のジュエリーチェーンである。つまり、同社は、企画・デザインからアフターサービスまでの一貫体制を敷いているが、小売部分については専門の会社をパートナーとし、それ以外の同社が得意とする部分に経営資源を集中投入しているビジネスモデルと言える。

同社は、製品の品質はもちろんのこと、デザインや企画力、製造技術や製品の安定供給にも強みがあり、国内市場が縮小傾向に推移するなかでも顧客の支持を得て販売シェアを伸ばしているようだ。

なお、単体の製造原価明細書は公開されており、2016年3月期におけるその内訳は、材料費が89.3%、労務費が6.3%、経費が4.4%となっている。事業やセグメントによって構成は異なると推察されるが、同社の製造原価構成について外部者が大まかなイメージをつかむには有用であろう。

(3)生産体制

生産体制は、国内1ヶ所、海外3ヶ所の計4工場体制となっている。基幹工場である富山工場では、インゴットから完成品に至るまでの一貫体制を敷いている。タイのバンコクにある子会社のCHRISTY GEMにおいては、ジュエリー製品全般の製造とダイヤモンドのカットを行っている。中国は江蘇省及び広東省に2工場あり、中国国内の供給を担当、ジュエリー製品全般の製造を行っている。同社では、“信頼の品質”を前面に掲げ、品質を厳しくチェックしている。

なお、同社の作品は、JJAジュエリーデザインアワード2015東京都知事賞/プラチナ・ギルド・インターナショナル賞/技術賞、米国のジュエリーフェア「クチュール・ショー」のデザインコンテストの「プラチナ部門」での“Winner”などを受賞している。素人目から見ても、同社の製品は創業以来の技術であるチェーンなどの細かで繊細な技術に裏打ちされた製品と分かるものが多い。

(4)強みを生かして、厳しい環境下でも国内シェアは拡大

同社の特徴は、企画・デザインから製品の製造、販売まで幅広く取扱っており、製販一体型と言える。主要な顧客は百貨店や全国展開しているジュエリーチェーンなどで、人口減少などで業界環境が決して良いとは言えないなか、同社は売上高を伸ばし続け、販売シェアが拡大しているようだ。一口にシェア拡大と言っても、安売りに走っているのでは決してなく、同社はむしろ同社の持つ技術力や高い品質、安定した供給力、企画力などを武器にして多面的に展開しているのが成功しているようだ。

受注を獲得するには、当然ながら、デザイン力や企画力も重要である。デザイン力については、同社はデザインコンテストなど数々の賞を受賞していることからも分かるように高水準である。企画提案は、顧客やブランドの個々の需要や特性に応じた細かな内容が重要である。例えば、需要期であるクリスマスシーズンに向けては他社との差別化を掲げ、ブライダルジュエリーではストーリー性を重視し、エンドユーザーに伝わるような企画提案をすることで、その顧客のオリジナル商品開発に協力する。また、ファッションジュエリーのブランドには、そのブランドのシーズンテーマに添った提案をするなど、きめ細かな顧客対応が必要となっている。製品開発については、デザイナーだけに任せておくのではなく、工場の技術者の発想から細いネックレスチェーンを活用した提案により製品化、高評価を受けた製品もあり、デザイナーと製造現場が両輪となって良い成果を挙げているようだ。

品質と安定供給も重要な鍵となっている。同社の主要顧客は大規模な販売力を保有するところが多く、同社が得意している品質と安定供給が欠かせない。顧客によって何を重視するかは、品質ひとつとっても、付け心地にこだわるか、仕上げをより重視するのかで大きく異なる。ジュエリーの需要はクリスマスに向けて大きく盛り上がる特徴があり、製造は平準化が難しい。そのハンドリングも含めて、メーカーと小売りの間で、きめ細かな対応が評価されている証左であろう。

さらに、近年の技術の向上で、3次元CAD システムにより精度と完成度を高めており、デザイン画面から試作品を起こす時に強度計算も可能となり、繊細なデザインでも強度と両立する様になった。製品開発では元々、デザイナーがつくったものを職人が銀で原型をつくる作業が1ヶ月かかっていた。しかしながら、現在は3D技術の実用化により、同じ仕事が1週間で可能となった。特に、ファッションジュエリーついては、ファッション業界のように入れ替わりが速く、短い納期が要求されるため、これも同社が顧客に支持される理由となっている。技術力の高さや厳しい品質検査による裏打ちはもちろんだが、新製品開発時に3D技術の活用で顧客とのサンプル確認の精度が向上し、開発期間が短く顧客の需要にいち早く対応できること、アフターサービスまで一貫して製品の品質維持を行える体制が整っていることなどが挙げられる。

(執筆:フィスコアナリスト 清水 さくら)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 桑山 Research Memo(3):製販一貫体制で国内総合ジュエリーメーカーではトップの位置