アメリカの外交・安全保障専門誌「The National Interest」は12月7日、「ロシアは再びウクライナに侵攻するか」という、核及び東欧研究の専門家であるアンゲル氏の記事を掲載している。記事ではロシアによるウクライナ軍事侵攻のコストとして、「政治的孤立」、「NATOの対ロ軍事力の増強」、「経済制裁」及び「軍事侵攻に伴うロシア軍の被害」の4つを挙げている。軍事侵攻を抑止する方策の一つとして、これらのコストが得られる利益よりも大きいとロシアに認識させることがある。この中で、最もロシアにインパクトを与えるのは、侵攻が泥沼化し、それに伴いロシア軍の被害が拡大し、これが反政府活動につながることであろう。1979年の旧ソ連のアフガニスタン侵攻は、長期化、泥沼化し、国家体制をむしばみ、旧ソ連が崩壊する一つの要因となった。この経験を基に、2014年のクリミア併合は、いわゆる「ハイブリッド戦争」と呼ばれる軍事以外の手段を多用し、ロシア軍の存在を顕在化させることなく戦争目的を達成した。
クリミア併合の成功体験から、本来ロシアは、ウクライナに軍事的圧力を加えながら、ウクライナ国内の親露派勢力を活用して、NATOからの離反を図ろうとしていたと考えられる。しかしながら、Pew Research Centerの調査によると、ウクライナ国内においてNATOを好ましいとする割合は、2007年には34%であったのに対し、2019年には53%と増加している。2014年のクリミア併合に伴い、ウクライナにおけるロシアへの感情が悪化したことは間違いない。ロシアが「ハイブリッド戦略」の一環として、クリミア世論をロシア有利に誘導したような手段をウクライナにとる余地はほとんどないと言える。