REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力● KTM Japan 株式会社
DUKE はカウルを持たないピュアなネイキッドスポーツモデルである。5月に新発売されたこのモデルは、ミドルクラスで人気の790 DUKEをベースに排気量をアップしたニューエンジンを搭載。そのネーミングに“R”を加えた890 DUKE Rとして登場。
プレスリリースには、「よりスポーティでエッジの効いたハードなライディングに適したネイキッドモデル」とある。さらには「機敏な動きを求めるライダーに最適」とも明記されていた。
元来、実用的に扱いこなせる最高のハイパフォーマンスを求めると、大体ミドルクラスに目が行くものだが、その中でもREADY TO RACEを掲げる同ブランドのイメージが貫かれた、極めて高いポテンシャルが期待できそう。
水冷DOHC8バルブの並列2気筒エンジンはボア・ストローク共にサイズを拡大。90.7×68.8mmというショートストロークタイプの890cc。ほぼ90ccの排気量アップである。さらに燃焼制御技術の進化を活かして圧縮比は790の12.7対1から13.5対1へと高められ、121ps/9,250rpmの最高出力を発揮。最大トルクはなんと10Nmもアップの99Nmを790 DUKEよりも低い7,750rpmで発生。しかも車両重量は3kg軽い171kgに仕上げられているのである。
車体やサスペンションは基本的に共通だがより軽快なハンドリングや深いバンク角を狙って15mm高く作られ、リヤサスペンションの作動特性も向上していると言う。軽量ディスクを採用したブレーキもローターのサイズアップ等でとことん強化。
オレンジのフレームとホイールを組み合わせたそのフォルムは見るからにエキサイティングである。
試乗のメインステージは富士スピードウェイにある一周920mのショートコース。いくつかのコース設定が可能となっているが、試乗会ではメインストレートを230mとする短めの設定でコースイン。
シートに跨がると、790 DUKEよりも若干腰高な感覚を覚えるも、ミドルクラスとしては車体が軽く、手強さは皆無。明確なバックステップから感じられるライディングポジションは如何にもサーキットでのスポーツ走行にも対応された印象を受ける。
とは言え、僅かにアップされたバーハンドルとシートの位置関係はネイキッドらしく上体の起きた自然な姿勢で乗れる。前傾姿勢にならない普通の乗車感覚は、日常的な使い勝手も快適にこなせる感じである。
しかもサーキット走行で身を屈めて前傾姿勢を決める上でも違和感はない。左右への大胆な体重移動も決めやすく、外足の内股や膝をタンクに引っかけてコントロールする動作も扱いやすかった。
何より秀逸だったのは、全開走行を楽しむサーキットシーンでさえも、おおよそ4,000~9,000rpmの広範囲で活用できる太いトルクと俊敏な吹き上がりが楽しめるエンジンの出力特性だ。790DUKEの記憶と比較すると中速域の柔軟性と高速域のパンチ力に格段のレベルアップが感じられたのである。
本当なら前輪が簡単に浮き上がってしまう程のポテンシャルをラフなスロットルワークで開けて言っても巧みに電子制御が介入してマシンの安定姿勢が乱されることは少ない。
第一左コーナーへはストレート5速全開から4速へシフトダウンと急制動を掛けながらの進入だが、フロントブレーキは右手の軽い操作でも強力なストッピングパワーを発揮できとても扱いやすい。ライダーを襲う減速Gの強(凄)さは衝撃的で、意に反してハンドルを突っ張って上体を支えてしまう事もしばしばであった。
ブレーキのリリースを機に、コーナリングラインをさらにイン側に修正する事も容易。スロットルワークも調教具合が素晴らしく、速度調節が、つまりはコーナリングラインも自由自在にできるのである。
ステージが高速サーキットなら風圧を防ぐカウルが欲しくなるだろうが、890 DUKE Rはショートコースでのスポーツ走行に相応しく、そのポテンシャルはまさに一級である。レーサーレプリカ系マシンを敵に回しても対等。むしろクイックな切り返し性能ではそれを凌ぐかもしれない。
前後タイヤはスリックライクなトレッドデザインを持つミシュランのパワーカップ。旋回中のグリップにも安心感があった。バンク角にもまだまだ余裕が感じられ、左旋回中のシフトアップ操作も容易。
また今回はアップ/ダウン共に使えるクイックシフターが装備されていたので、走行中は全てノークラチェンジ。シフトタッチは硬過ぎず、ストロークも小さめで実に小気味よいシフトワークが楽しめた。
正直、楽しく心地よい汗をかけた。とても気分爽快な試乗であった。すごく良い運動になった事も間違いない。790 DUKEよりもさらにエキサイティングな走りが楽しめる乗り味は贅沢な領域とも言えるが、若返りのスポーツ道具にもなる高性能ぶりに見る価値と魅力は大きいのである。
エンジン形式:DOHC 8バルブ 並列2気筒
排気量:890cm³
ボア・ストローク:90.7×68.8mm
最高出力:89kW(121ps)/9,250rpm
最大トルク:99Nm/7,750rpm
圧縮比:13.5:1
燃料供給方式:DELL'IORTO製DKK(φ46mmスロットルボディ)
点火方式:BOSCH製EMS
潤滑方式:2基のポンプによる圧力潤滑
冷却方式:水/オイル熱交換器による水冷
始動方式:セルスターター
バッテリー:12V、10Ah
トランスミッション:6速
1次減速比:1.923(39/75)
2次減速比:2.563(16/41)
クラッチ:PASCスリッパークラッチ、ケーブル式
フレーム:クロームモリブデン鋼製フレーム(アルミニウム製サブフレーム)
フロントサスペンション:WP製APEX 43
リアサスペンション:WP製APEXモノショック
サスペンションストローク(前/後):140mm/150mm
フロントブレーキ:2×BREMBO STYLEMA 4ピストンラジアルマウントキャリパー、フローティングディスクφ320mm
リアブレーキ:BREMBO製シングルピストンフローティングキャリパー、ディスクφ240mm
ABS:BOSCH製 9.1MP(コーナリングABSおよびスーパーモタードモードを含む)
タイヤ(前/後):120/70 ZR-17 / 180/55 ZR-17
チェーン:X-RING 520
キャスター角:65,7°
トレール:99,7mm
軸距:1482mm
最低地上高:206mm
シート高:834mm
燃料タンク容量(約):14L
車両重量(約):171kg
生産国:オーストリア
元モト・ライダー誌の創刊スタッフ編集部員を経てフリーランスに。約36年の時を経てモーターファン バイクスのライターへ。ツーリングも含め、常にオーナー気分でじっくりと乗り込んだ上での記事作成に努めている。