春に味わう、コラム三篇。「露花への迷路」「春の風と乾杯の音」「あの日の桜の木の下で」
ビール女子 2025年03月25日 11:00:00
春の訪れが、そこここで感じられる今日この頃。
やわらかな風に心がふわりと軽くなるこの時期には、特別な一杯を楽しみたくなるものです。
ビール好きのライターたちが紡ぐ、春に関する三篇のコラム。
移ろいゆく季節の中で生まれる、小さなときめきや、儚い記憶のひとひらを、ぜひお気に入りのビールと一緒に味わいながらご覧ください。
今宵花冷えの中、君という泡沫のような光の存在を変わらずに待ちわびる。
見つめるその先には、月の霜。
どこからともなく突然な悪戯の戯雨にさらされた私は、気付けばその扉をノックしていた。
「いつもの」
その少し背伸びした一言から繰り広げられる一杯は、美しいルビー色でグラスを染め上げ、高貴な香りで包み込んでくれる。
濃厚で澄んだ味わいからは、クラシカルながらもポテンシャルの高ささえ感じる。
繊細なニュアンスに魅了され、喉を越す時の心地良さは一種の恍惚感。
グラスを置き外に出ると、そこは肌に感じる風がどことなく温かみを増したように感じた。
ふと見上げた空は、水彩のような重なりを生み出し、あの日の君との時間をゆっくりと溶かしてくれているのだと気付く。
雲と言うカーテンの隙間からは、私の中のどこかうずめいた感情が繰り広げられる。
待ってはくれない季節たち。
そして、待ちわびる「私」もきっと変わるだろう。
頭の中の霧も晴れ、前を向かないわけにはいかない。
そして、足早に花咲く未来のレールに飛び乗った。
きっとどちらも本当で、ただ、桜の樹の下で一緒にくだらない話をしたり、笑い合ったりする理由がほしいだけなのかもしれない。
「ビールでも飲みながら」と付け足せば、もっと気楽に、もっと自然に集まれる気がする。
井の頭公園に向かう途中のコンビニで、OGA BREWINGの「MITAKA PALE ALE」が春限定パッケージで売られていた。
淡い桜色のデザインに、さわやかなホップの香り。春の空気とよく合う、軽やかで心地いい一杯。
冷えた缶のプルタブを開ける音、頬にあたるぬるい風、遠くで響く誰かの笑い声。この季節のビールは、少し特別な味がする。
春の裏切りは三寒四温と呼ばれている。
生暖かい風に心を許した途端、冷たいみぞれが頬を叩く。
それでも私は春を信じ待ち続ける。
桜はそんな私の希望である。
先日、私は実家に帰省しアルバムを見ていた。
すると満開の桜の下でこっちを振り返る幼い頃の私と祖母の写真が目に止まった。
あ、あの桜並木だ。
それは地元の国道沿いの桜並木で、春にお花見をしながら祖母と一緒に散歩をするのが毎年の楽しみだった。
しかし私が小学生の時、桜並木は道路拡幅のために全て伐採された。
物言わぬ桜は悲しみを告げることもなく、切られどこかへ運ばれて行った。
あれ以来、私は広く整ったその道を避けるようになった。
ふと、私はあの道に行きたくなった。
1人では心許なかったので、途中酒屋に寄りお供を選ぶ。
『リーフマンス・クリーク・ブリュット』
リーフマンスはベルギービール初の女性醸造家ローザ・メルクスが長年指揮をとっていたブルワリーだ。
私はさくらんぼを浸漬したクリークを携えた。
あの道は思ったよりも狭く、長い月日を経て古いものになっていた。
道の途中のベンチに腰を下ろしビールを飲む。
甘酸っぱい中に優しく漂う桜の香りで体が満たされる。
私は目を瞑る…。
古びた国道にあの日の桜並木が広がる。
私と祖母が祖父に呼ばれ振り返ると、祖父はパシャっと写真を撮った。
目を開けて、リーフマンスの瓶を見る。
ラベルにはビールを持ったローザが描かれている。
彼女は2023年に98歳の生涯に幕を下ろしたが、彼女の想いはこのビールの中で生き続けている。
祖母も祖父もあの桜も私の中で生き続け、今の私を優しく温めてくれる。
桜も人生もとても儚く美しい。
今年も大切な人と、桜を見に行こう。
やわらかな風に心がふわりと軽くなるこの時期には、特別な一杯を楽しみたくなるものです。
ビール好きのライターたちが紡ぐ、春に関する三篇のコラム。
移ろいゆく季節の中で生まれる、小さなときめきや、儚い記憶のひとひらを、ぜひお気に入りのビールと一緒に味わいながらご覧ください。
露花への迷路
ライター&illustration:Mayu
今宵花冷えの中、君という泡沫のような光の存在を変わらずに待ちわびる。
見つめるその先には、月の霜。
どこからともなく突然な悪戯の戯雨にさらされた私は、気付けばその扉をノックしていた。
「いつもの」
その少し背伸びした一言から繰り広げられる一杯は、美しいルビー色でグラスを染め上げ、高貴な香りで包み込んでくれる。
濃厚で澄んだ味わいからは、クラシカルながらもポテンシャルの高ささえ感じる。
繊細なニュアンスに魅了され、喉を越す時の心地良さは一種の恍惚感。
グラスを置き外に出ると、そこは肌に感じる風がどことなく温かみを増したように感じた。
ふと見上げた空は、水彩のような重なりを生み出し、あの日の君との時間をゆっくりと溶かしてくれているのだと気付く。
雲と言うカーテンの隙間からは、私の中のどこかうずめいた感情が繰り広げられる。
待ってはくれない季節たち。
そして、待ちわびる「私」もきっと変わるだろう。
頭の中の霧も晴れ、前を向かないわけにはいかない。
そして、足早に花咲く未来のレールに飛び乗った。
『シュナイダーヴァイセ・アヴェンティヌス・アイスボック』
- 〇ビアスタイル:ヴァイツェン・ボック
〇アルコール度数: 12%
〇取扱場所:ECサイト「BEER PEAK」ほか
〇URL: https://www.showa-direct.net/
〇醸造所: シュナイダー・ヴァイセ醸造所
春の風と乾杯の音
ライター:mei
「お花見をしよう」と誰かを誘うとき。桜が見たいのか、それともその人に会いたいのか、自分でもよく分からなくなる。きっとどちらも本当で、ただ、桜の樹の下で一緒にくだらない話をしたり、笑い合ったりする理由がほしいだけなのかもしれない。
「ビールでも飲みながら」と付け足せば、もっと気楽に、もっと自然に集まれる気がする。
井の頭公園に向かう途中のコンビニで、OGA BREWINGの「MITAKA PALE ALE」が春限定パッケージで売られていた。
淡い桜色のデザインに、さわやかなホップの香り。春の空気とよく合う、軽やかで心地いい一杯。
冷えた缶のプルタブを開ける音、頬にあたるぬるい風、遠くで響く誰かの笑い声。この季節のビールは、少し特別な味がする。
『MITAKA PALE ALE』
- 〇ビアスタイル:イングリッシュペールエール
〇アルコール度数: 5.0%
〇取扱場所:イオン、伊勢丹、ほか各コンビニ・スーパーマーケット
〇URL: https://oga-brewing.com/
〇醸造所: OGA BREWING
あの日の桜の木の下で
ライター:中林麻依
春の裏切りは三寒四温と呼ばれている。
生暖かい風に心を許した途端、冷たいみぞれが頬を叩く。
それでも私は春を信じ待ち続ける。
桜はそんな私の希望である。
先日、私は実家に帰省しアルバムを見ていた。
すると満開の桜の下でこっちを振り返る幼い頃の私と祖母の写真が目に止まった。
あ、あの桜並木だ。
それは地元の国道沿いの桜並木で、春にお花見をしながら祖母と一緒に散歩をするのが毎年の楽しみだった。
しかし私が小学生の時、桜並木は道路拡幅のために全て伐採された。
物言わぬ桜は悲しみを告げることもなく、切られどこかへ運ばれて行った。
あれ以来、私は広く整ったその道を避けるようになった。
ふと、私はあの道に行きたくなった。
1人では心許なかったので、途中酒屋に寄りお供を選ぶ。
『リーフマンス・クリーク・ブリュット』
リーフマンスはベルギービール初の女性醸造家ローザ・メルクスが長年指揮をとっていたブルワリーだ。
私はさくらんぼを浸漬したクリークを携えた。
あの道は思ったよりも狭く、長い月日を経て古いものになっていた。
道の途中のベンチに腰を下ろしビールを飲む。
甘酸っぱい中に優しく漂う桜の香りで体が満たされる。
私は目を瞑る…。
古びた国道にあの日の桜並木が広がる。
私と祖母が祖父に呼ばれ振り返ると、祖父はパシャっと写真を撮った。
目を開けて、リーフマンスの瓶を見る。
ラベルにはビールを持ったローザが描かれている。
彼女は2023年に98歳の生涯に幕を下ろしたが、彼女の想いはこのビールの中で生き続けている。
祖母も祖父もあの桜も私の中で生き続け、今の私を優しく温めてくれる。
桜も人生もとても儚く美しい。
今年も大切な人と、桜を見に行こう。
『リーフマンス・クリーク・ブリュット』
- 〇ビアスタイル:フルーツ・ビール(レッド・ビール系)
〇アルコール度数:3.8%
〇取扱場所:ECサイト「BEER SHOP」ほか
〇URL:https://beershop.jp/SHOP/83468.html
〇醸造所:リーフマンス醸造所
\ 合わせて読みたい /
\ これまでのビールコラム /
情報提供元: ビール女子