「治す歯医者」から「学べる歯医者」へ。北上しらゆりデンタルクリニックが大切にする予防と対話
岩手県北上市で「学べる歯医者」を掲げる北上しらゆりデンタルクリニック。症状が出てから受診する従来の歯科医療から脱却し、患者自らが予防を理解し選択する対話型診療に注力している。地域医療の質を底上げし、一生涯の健康づくりをサポートする同院ならではの予防アプローチについて、院長の境英二氏にその熱き想いを伺った。
受診の受動性から脱却し予防習慣の定着を支える治療への転換
日本の歯科医療における課題の一つに、痛みの発生や詰め物が取れるといった自覚症状が生じてから受診する受動的な習慣が挙げられる。多くの患者にとって歯科医院は「治療を受ける場所」であり、事前の予防を行う場としての意識は十分ではなかった。この課題に対し、地域社会での認知変容を目指すのが北上しらゆりデンタルクリニックである。
開院以来、同院には予防歯科や小児期からのケアを希望する患者が増加している。初期のむし歯や歯周病は無症状で進行するケースが多く、自覚症状だけに頼った管理には限界が存在する。単に削って詰める対症療法を繰り返すだけでは、歯の寿命を延ばすことは困難だ。
歯科医院の役割を「悪くなった歯を治す場所」から「悪くならないように相談する場所」へ再定義することこそが、地域全体のデンタルIQの向上に繋がる。検査結果や口腔内写真を活用した視覚的アプローチを通じて、患者自身が現状を把握し、予防の価値を理解する体制構築を徹底している。
「患者自らが選ぶ」納得の対話型医療と根拠に基づく予防
同院が展開する診療の核心は、単なる手続きとしての説明を超えた「患者主体の意思決定支援」にある。初診時には丁寧なカウンセリングを実施し、困り事や不安、過去の治療体験まで詳細に聞き取る。撮影した口腔内写真やレントゲン画像を画面で確認しながら、現在の状態や選択可能な治療法、放置した場合の見通し、期間や費用を平易な言葉で説明する。決して結論を急がせず、患者が納得した上で選択できる環境を整えている。
また、医療の再現性を高めるため、スタッフ間での情報共有を徹底し、一貫した対応を行う。予防の現場ではセルフケアとプロフェッショナルケアを「両輪」として捉える。個々の口内環境に合わせた清掃用具の選定指導やフッ化物配合歯磨剤の適切な使用法、デンタルフロス等の正しい手技習得を支援する。定期的に検査を受け経時的な変化を追う体制を構築することで、安心感の提供と予防効果の向上を目指している。
「学べる歯医者」として育む生涯にわたる健康管理の基盤
院長の境英二氏が目指すのは、「学べる歯医者」というコンセプトを通じた地域社会への貢献である。大手医療法人での診療や分院長経験を経て2024年に開院した同院は、再治療のリスク低減を目指す、口腔全体を見据えた治療計画を提唱している。予防意識の向上は、毎日のセルフケアの質の変化から始まる。歯磨きに加えて歯間清掃具を正しく導入するといった取り組みが、将来的な歯の残存率に大きな差をもたらすことが期待できる。
口腔の健康状態はリスクや全身状態により異なり、定期的な受診を通じて変化を確認することが欠かせない。同院は患者が叱られる場所ではなく、対話を通じて口内の健康を守る知識を学び、一人ひとりに合った解決策を一緒に考えるパートナーとしての役割を担う。口腔全体の健康維持を通じて、地域住民が生涯にわたり健やかに過ごせる社会インフラの構築を目指し、啓蒙活動と臨床の両面からアプローチを続けていく。
歯科医療の価値を「治療」から「予防と教育」へとシフトさせる試みは、地域の健康寿命の延伸において不可欠な視点である。北上しらゆりデンタルクリニックが目指す「学べる歯医者」としての取り組みは、患者一人ひとりが自らの口内環境に関心を持ち、納得してケアを選択する文化を育んでいる。医療と患者が共に歩むこの取り組みは、これからの地域医療のあるべき姿を提示している。
■取材協力:
北上しらゆりデンタルクリニック
院長 境 英二
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