建設現場が増えるほど、本部の目は届かなくなる|複数拠点の情報をどう一元管理するか
1つだった建設現場が2つ、3つと増えていくことは、多くの建設会社にとって成長の証です。しかし、その成長の裏側で、経営者や工事管理責任者が気付かないうちに失っているものがあります。それは、「今、どの現場が、どのような状態にあるか」を自分の目で確かめられる範囲です。
現場が1つだけのときは、経営者自身が現場へ足を運び、図面を確認し、進捗を目で見て判断できていました。ところが現場数が増え、複数拠点に展開するようになると、すべての現場を自分の目で回りきることは物理的に難しくなります。
- 図面の最新版がどれか
- 進捗が予定どおりか
- 写真で見た印象と実際の現場に差がないか
こうした確認が現場任せになり、問題が起きてから気付くという構造に陥りがちです。
この記事では、複数の建設現場・複数拠点を抱える中堅建設会社が直面するこの構造的な問題と、図面・写真・進捗という情報の流れをどう本部で一元管理していくかを、実際の企業事例をもとに整理します。
【本記事の要点】
- 現場数の増加は経営規模の拡大に見えるが、実際には本部が現場を目視・体感で把握できる範囲を超える構造的な転換点である
- 図面・写真・進捗という情報が現場ごとにバラバラな経路で本部へ上がってくる状態が、問題の発見を遅らせる
- 2024年12月施行の制度改正により、条件を満たせば1人の技術者が複数現場を兼務できるようになり、情報の一元管理の必要性がさらに高まっている
- ツール導入そのものではなく、何を一元管理すべきかという判断軸を持つことが重要である
「現場が増える」は、必ずしも「経営が強くなる」を意味しない
建設会社にとって、現場数の増加はこれまで、事業拡大の証として肯定的にとらえられてきました。しかし、現場が1つのときと複数のときとでは、経営者や工事管理責任者に求められる把握の仕方がまったく異なります。
現場が1つであれば、経営者は自分の足でその現場に通い、目視と体感で状況を把握できます。図面の変更があればその場で確認でき、進捗の遅れも肌で感じ取れます。しかし、現場が複数拠点にまたがるようになると、経営者や工事管理責任者が物理的に足を運べる範囲を、現場数が上回っていくでしょう。
ここで見落とされがちなのは、「現場が増える」ことと「経営の把握力が強くなる」ことは、まったく別の話だという点です。情報を把握する仕組みが現場数の増加に追いついていなければ、現場が増えるほど、本部が把握できていない現場の割合も増えていきます。
つまり、拡大がそのままリスクの拡大につながりかねないのです。情報の仕組みが現場数の増加に追いついていないという事態は、事業拡大を狙う経営者からすれば、看過できない問題でしょう。
本部が知る「現場の状況」は、たいてい少し前のものだ
複数の現場を並行して抱える会社では、本部と現場の間で実際にどのような情報分断が起きているのでしょうか。
本部が現場の状況を知る手段は、多くの場合「現場からの報告」に限られます。本部の担当者が毎日すべての現場を見て回ることは物理的にできないため、現場担当者が撮った写真や書いた「報告」を通じて、間接的に状況を把握することになるのです。
その報告は、次のような複数の手順を踏みます。
- 現場で写真を撮る
- 事務所に戻って整理する
- メールやFAXで送る
- 本部があとから開いて確認する
現場担当者は目の前の工事や職人への対応を優先するため、この報告はどうしても後回しになりがちです。結果として、本部が把握している現場の状況は、実際より少し前のものになってしまうでしょう。急いで様子を知りたいときほど「事務所に戻って写真を送ってもらう」ことになり、確認までに時間がかかってしまいます。
さらに、報告の経路や形式が現場ごとにバラバラだと、本部側で複数現場の情報を突き合わせることも難しくなります。ある現場はチャット、別の現場はメールへの写真添付、別の現場は電話、という状態では、情報は届いていても、複数の現場を一覧して比べられる形にはなりません。
新しいツールを導入すれば解決するという話の前に、まずこの「なぜ情報が遅れ、分断されるのか」という構造を理解しておく必要があります。
「掛け持ち現場」が制度としても広がっている
情報の一元管理が求められる背景には、もう1つの要因があります。それは、1人の技術者が複数の現場を担当する動きが、労働環境と制度の両面で進んでいることです。
2024年12月13日、建設業法の制度改正により、監理技術者・主任技術者等の専任義務が合理化されました。請負代金が1億円未満(建築一式工事は2億円未満)で、現場間の距離や情報通信技術を使った管理体制など一定の要件を満たす場合に、1人の監理技術者・主任技術者が2つの現場を兼務できるようになっています。公共性のある重要な工事は引き続き専任が必要です。
この制度変化は、人手不足に対応するための施策という側面がありますが、裏を返せば「現場に常駐しなくても状況を把握できる仕組み」の必要性が、制度面からも一段と高まっているということでもあります。技術者が複数現場を掛け持ちする働き方が広がるほど、図面・写真・進捗をリアルタイムに近い形で共有できる仕組みの有無が、現場の安全と品質を左右する要素になっていくのです。
出典・参照:
複数拠点の建設会社が変えるべき「情報の流れ」
ここまで見てきた課題を踏まえると、複数拠点の建設会社が変えるべきなのは、単発のツール導入ではなく、図面・写真・進捗という3つの情報の流れそのものです。それぞれ、現場ごとにバラバラな経路をたどりやすい情報です。1つずつ事例をもとに詳しく分析していきましょう。
図面をクラウドで一元化する
現場ごとに図面の最新版が異なる紙やメールで管理されていると、どれが正しい最新版か本部側で判断できなくなります。差し替えの連絡が一部の協力会社に届かず、古い図面のまま作業が進むリスクもあります。
ありがちなのは、担当者が協力会社ごとに必要な図面を選び、メールやFAXで一社ずつ送っている状態です。送り先が数十社、数百社と増えれば、この選別と送付だけで相当な時間がかかり、受注が増えるほど担当者の負担が膨らみます。
約250社の協力会社と現場を回す広島建設株式会社(千葉県柏市、年間約600棟の注文住宅)は、以前はまさにこの個別送付を続けていました。同社はその後、図面や資料をクラウド上で共有する形に切り替え、最新版が1ヶ所に集約されたことで、「どれが正しい図面か」を確認するやり取りと個別送付の作業が減りました。あわせて、協力会社が指示を待たずに自発的に動くようになった、という予想外の効用も報告しています。
出典・参照:
写真・報告をリアルタイム化する
本部が現場を「見る」手段が写真である以上、その写真が本部に届くまでの速さと手間が、そのまま把握の遅れに直結します。
送電・設備工事で複数の現場を並行して進める株式会社ETSホールディングスは、以前、担当者が現場からいったん事務所へ戻り、デジタルカメラの写真を整理して送るという方法で現場を共有していました。「現場を見たい」と思っても足を運ぶ機会は限られ、本部が把握できるのは事務所に戻ってから送られてくる写真に限られていたわけです。
同社はその後、撮影した写真がそのままクラウドに上がる仕組みに切り替えました。導入事例によれば、本部がリアルタイムで各現場の状況を見られるようになり、写真のやり取りがその場で完結するぶん報告書類の作成も速くなったほか、写真を確認するためだけに現場と事務所を往復する手間や、写真を整理して送る作業も減りました。結果、現場の作業時間は2割ほど短縮されたのです。
出典・参照:
進捗を横断的に可視化する
図面と写真をクラウドに乗せたうえで、最後の要になるのが「複数の現場の進捗を、本部から一度に見渡せる状態」をつくることです。
よくあるのは、現場ごとに担当者が表計算ソフトで工程表を作り、それぞれのパソコンや支店のフォルダに置いてある状態です。この形だと、本部がある現場の進み具合を知るには担当者に連絡してファイルを送ってもらうしかなく、複数の現場を並べて比べることもできません。
各地で大規模修繕・リニューアル工事を手がける生和アメニティ株式会社は、この工程表をクラウド上で共有する仕組みに移し、全社員が同じものを見られるようにしました。その結果、外出先からでも各現場の進捗が一目で分かるようになり、進捗確認の電話も減りました。さらに、工程表の作成にかかる時間自体も、従来の4分の1になったのです。
複数拠点の会社にとって重要なのは、個々の現場の進捗を1件ずつ問い合わせる仕組みではなく、抱えている現場の状況が同じ画面に並んでいて、「今どの現場が何の状態にあり、どこが遅れているか」に即座に答えられる状態です。手が回っていない現場を早く見つけられることが、複数現場化のリスクを抑える要になります。
出典・参照:
まとめ:本部の把握を「目」から「情報」へ切り替える
現場が1つなら、経営者や工事管理責任者は自分の足で通い、目で見て状況をつかめます。しかし現場が複数に分かれ、拠点もまたがるようになると、見て回れる範囲を現場の数が上回り、全体を自分の目で追うことはできません。1人の技術者が複数現場を掛け持ちする働き方も、制度の後押しで広がってきました。本部に求められるのは、現場を「目で見て把握する」体制から、「情報を通じて把握する」体制への切り替えです。
問題は、その情報が現場ごとにバラバラの経路をたどり、しかも遅れて本部に届くことです。図面はメールやFAXで、写真は撮ってから整理して送信し、進捗は担当者に聞かないと分からない。この状態のままでは、現場が増えるほど本部が把握できていない現場も増え、拡大がそのまま「見えないリスク」の拡大につながってしまうでしょう。
まず取り組むべきは、特定のツールを選ぶことではありません。図面・写真・進捗のうち、自社で最も分断されている情報はどれかを見極め、その流れを本部が一元的に見渡せる形に変えることです。そこから、現場が増えても経営の把握力が落ちない体制への一歩が始まるのです。
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