海外メディアSeekerは、自動車の自動運転技術の開発にVRが活用されている研究事例を紹介した。



あまり知られていない事実



本メディアでは以前に自動車産業におけるVR活用に関するインフォグラフィックス(上の画像参照)を紹介した。


そのインフォグラフィックスによると、自動運転技術の開発にVRが活用されていることを知っているヒトの割合は20%だった。つまり、5人に1人しか知らないという結果だ。この事実は、あまり知られていないと言って差し支えないだろう。


倫理的決断を迫るVRテスト


それでは、具体的にVRはどのように自動運転技術の開発に活用されているのだろうか。そうした活用法のひとつとして、自動運転時に自動車を制御するAIが実行する倫理的選択を学習できるようなシミュレーションを構築する、というものがある。


AIが従うべき倫理的選択モデル


自動運転時には、当然ながら運転状況の確認と自動車の走行制御はヒトではなく、AIが実行することになる。自動運転する車両が1台だけで高速道路を運転するような状況では、AIは難しい判断に迫られることはない。しかし、リアルな世界で自動運転する場合には、最悪の状況として何か(誰か)を犠牲にして、他の何か(誰か)を救わなくてはならない、という極めて倫理的な選択に迫られる。そして、AIが倫理的選択を決断するためには、「倫理的選択モデル」が必要となる。


「倫理的選択モデル」とは、様々な倫理的選択が迫られる時にAIが参照するルール、より正確に言えばアルゴリズムを意味する。とは言え、AIがこうしたモデルを独力で構築することは、現在の技術では不可能である。


こうした倫理的選択モデルの構築に役立つのが、ヒトが参加するVRシミュレーションである。つまり、運転時に倫理的選択が迫られる様々な状況をVRヘッドセットを使って再現して、被験者となった多数のヒトの反応を集めるのだ。そして、そのリアルなヒトの反応をもとにして、AIが従うべきアルゴリズムを構築するのである。


以上のような倫理的選択が迫られる状況をリアルに再現することは、当然ながら倫理に反することである。しかし、VRでなら可能、というわけなのだ。


動物から子供まで登場するVRテスト


ドイツ・ニーダーザクセン州にあるオスナブリュック大学のLeon Sütfeldが率いる研究チームは、以上のような倫理的選択モデルの構築のために、以下のようなVRテストを実施した。


105人の被験者は、次のようなVRシミュレーションを体験する。複数車線上で自動車を運転していると、目の前に障害物が現れる。当然、障害物を避けるためにハンドルを切らないとならない。しかし、不運なことにどの車線にも障害物がある。それでは、どの車線を選ぶのか。


テストでは、障害物として17種類のモノやヒトが用意された。そのなかには、ごみ箱のような物体から、犬やヤギといった動物、さらには成人男性と先人女性、男の子と女の子も用意された(以下の画像参照)。


また、運転状況もスピードが速い場合と遅い場合がそれぞれ再現された。スピードが異なることによって、決断するまでの時間的猶予が異なるなかでの反応を調べるためだ。


倫理的選択モデルのためのVRテストを図解した画像


「命の価値」モデル


以上のようなVRテストを実施して、結果を集計すると被験者の選択から一定の傾向性が抽出された。その傾向性は、「命の価値」モデルと名付けられた。


このモデルが意味することは、犠牲にするものには序列がある、ということである。


同モデルによると、非生物は生物を助けるために犠牲に選ばれる(非生物なので「犠牲」という表現は不適切だが)。動物のなかでは、ヤギがいちばんに選ばれ、シカはイヌより犠牲に選ばれる。そして、もっとも尊いのは子供だ。大人と子供のあいだで選択が迫られた時、被験者は大人を犠牲にすることを選ぶ傾向にあった。


このモデルは、直観的に言って、常識に反していないように思われる。そして、こうした「倫理的選択モデル」をAIに実装すれば、ヒトの倫理観と矛盾しない判断をくだせる自動運転車が実現する、と考えられるのだ。


今後の課題


以上のようなVRテストは、残念ながら、複雑なリアルの世界を再現しているとは到底言えない。例えば、事例として挙げたVRテストには「事故の重大さ」という指標が含まれていない。誰かを犠牲にするにしても、死亡事故となるのは避けて、かすり傷で済むようにするのが当然であろう。そうした観点が、以上のテストには欠落している。


とはいうものも、自動運転の実現に不可欠な倫理的選択モデルを構築するためには、今後もVRテストを継続することが求められる。VRと自動運転といった一見すると関係がわかりずらい技術も、実は密接に関係していることもあるのだ。


自動車の自動運転技術の研究にVRが活用されている研究事例を紹介したSeekerの記事

https://www.seeker.com/tech/vr-can-be-used-to-help-automated-driving-systems-make-ethical-traffic-decisions


上記記事のソースとなった研究論文

http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fnbeh.2017.00122/full


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情報提供元: VR Inside
記事名:「 自動運転を実行するAIの「倫理観」は、VRによって鍛え上げられている