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ARアプリで月が表示される
大学の規模にもよるが、多くの大学では図書館に書籍や映像を何十万、何百万タイトルも収蔵している。
テキサス大学サンアントニオ校(UTSA)の場合、図書館システムには200万を超えるタイトルが記録されているほどだ。実はその中に、ARを使った書籍のコレクションも存在している。
AR技術を使えば、現実の風景にARオブジェクトを表示することが可能だ。現実と何の関係もない障害物をAR表示してドローンを使ったレースゲームを行うこともできるが、カメラに映ったものに合わせて情報を表示することもできる。
安価なVRヘッドセットGogglesを開発するMergeVRは、AR玩具Merge Cubeを今年の夏に発売する予定だ。
この立方体のおもちゃをスマートフォン用のARアプリを通してみると、立方体に合わせてARオブジェクトが表示される。
手で3Dモデルを掴んでいるかのように回転させたり、キューブを動かしてキャラクターを操作したりといった利用法が考えられているようだ。
オーストラリアで人気となり、アメリカでも発売された『The Dragon Brothers』シリーズの最新作が『The Dragon Defenders』だ。
この書籍には読者の子供たちを楽しませるための仕掛けとしてAR技術が使われている。スマートフォン用のARアプリを起動して特定のページを認識させることで、画面上に立体的な地図やキャラクターが表示されるのだ。
どうやらこの試みは上手くいっているようだ。作者のJames Russellの元には、子供たちが寝る前に続きを読んでしまいたがるというメールが届いているという。
幼児のためのAR書籍
UTSA図書館と教育・人間開発科(COEHD)の共同研究の一環として、25冊の子供向けAR書籍のライブラリが作られている。まだ数は少ないが、AR書籍の増加に合わせて成長中だ。
収集対象となっているジャンルは天文学や恐竜を扱ったものだけでなく、幼児が眠る前に読み聞かせを行うための物語にまで及ぶ。
このコレクションは、単にアメリカ初のAR図書館を作るために集められているわけではない。ARを使った教科書の学習における有用性を研究し、教師がAR教科書を授業で使う前に慣れるため、という意味もある。
このプロジェクトを指揮しているのは、COEHDのIlna Colemereだ。COEHDで教育テクノロジーのコーディネーターを務める彼女がAR技術を使った書籍に興味を持ったのは、教師用の手頃な価格で利用できるVR教材の研究を行ったときだという。
「教育におけるテクノロジー利用のトレンドやツールを調査し、教師たちがAR書籍について言及していることが分かりました。
しかし、AR書籍がどのように活用されているのかについての詳細な研究は行われていませんでした」
ARという新技術を使っているが、AR書籍は「デジタルな飛び出す絵本」のようなものだ。
飛び出す絵本やポップアップカードでは、ページを開くと立体的な建物や登場人物が立ち上がる。AR書籍では、AR技術によって立体的な表現が可能となっている。
さらに、動きや音を加えた表現も可能だ。
表示されたARの太陽系を操作して惑星を回転させたり、ARを使ってバーチャルで化学実験を行ったりといった利用法が考えられる。
これは紙製の飛び出す絵本ではできなかったことだ。
Colemereは、COEHDの教育図書館司書であるRachel Cannadyとともに今年の春からAR書籍のコレクションを開始した。
まだコレクションを始めてから半年も経っていないが、そもそもAR書籍は絶対数が少ない。現在では、米国で購入可能なAR書籍の大部分を収蔵しているという。
収集された書籍は、COEHDの”edtech library”に収められている。このライブラリには、AR書籍の他にGoogle GlassやApple TV、あるいは組み立てながら学習ができるSTEMキットなどがある。
いずれも、将来教師を目指す学生が教室でのトレーニングに使えるような教育ツールだ。
このライブラリに収められたツールは教育に役立つかもしれないものばかりだが、こうしたツールを日常的に授業で利用している学校はまだほとんどないのが実情だ。
教師を目指す彼らが教育実習生として新しいツールを持って学校を訪れることで、生徒だけでなく現役の教師にとっても良い刺激となるだろう。
かつては自身も英語の教師だったCannadyは、
「プログラムに参加している教師が実習に参加すると、彼らは『変化の代理人』になります」
と表現した。
教師が動作を制限する機能のあるVRヘッドセット
Colemereは、座学を終えて実習に出ていく学生たちにAR書籍を紹介するつもりだ。彼らはこの秋に行われる教育実習のために、UTSAのJohn Peace LibraryからAR書籍を借りることができる。
ColemereとCannadyは、AR書籍の効果に関する数少ない研究論文を発表しているTexas A&M KingsvilleのMary Elizabeth Greenとともに研修生からのフィードバックを分析したいと考えている。
Colemereの予想が正しければ、学生たちからはAR書籍を活用するためのアイデアが多数出てくるだろう。彼らの反応によって、出版社はコンテンツ主導のAR書籍を作るようになるかもしれない。
現在のAR書籍では、ARが読者のちょっとした楽しみ、気晴らしのために利用されている。そうではなく、理解を深めるためのツールとしてARを有効活用した書籍が作られることになるのだろうか。
UTSAのコレクションの中には、読み上げる機能を持った書籍もある。
Colemereは、この機能が一部の学習障害を持つ生徒には有効だという。
「読み上げ機能は、AR映像とはまた別の方法で読書体験を活き活きしたものにしてくれます。
多くの人はこうした機能をオモチャとしか考えていませんが、正しく使われれば非常に大きな効果を発揮することも考えられます」
2人はAR書籍の持つ可能性に興味を持っているものの、だからこそ現在のAR書籍がすぐに教育を変えるとは考えていない。
まず、AR書籍の数が少なすぎることが問題だ。しかも各書籍は子供たちの読解能力や語彙力に合わせて構成されていないので、段階的に難易度を上げていくことができない。
ARアプリが洗練されていないために使いにくいのも事実だ。ARオブジェクトがテキスト部分を覆い隠してしまうせいで、画面上で読むことのできないページがある本も存在している。
アプリに関して言えば、利用できる国が限られていることがあるのも問題だ。国外で作成された書籍の中には、アメリカで利用できるARアプリが存在していないものもある。
教育のツールとしてAR書籍を使用する場合の問題としては、ARで遊ぶことに夢中になってテキストを読まない生徒がいることだ。
テキストを読まずにARアプリが反応するページを探すような子供たちにとって、ARは文章に集中するのを妨げる存在になってしまっている。
この問題については、Veativeの学校向けVRヘッドセットのように教師がデバイスを管理できるようにしなければならないかもしれない。
COEHDの研究者や図書館のメンバーは、ARライブラリを現在よりも拡充したいと考えている。しかし、このライブラリに収められていないAR書籍はもうほとんどない。
AR書籍は絵本や子供向けの本ばかりで、文学や高等学校の教材のAR対応バージョンはまだ作られていない。だが、ARに対応した教科書は登場するかもしれない。
Colemereによれば、AR機能を備えた電子書籍という形式で高校の生物を学べる教科書は既に存在している。
彼女は、大手出版社がAR書籍を作るよりも早く、学生たちがAurasmaのようなARコンテンツを作成できるサービスを使ってAR書籍を作成することもあり得ると考えている。
現時点では大人向けの小説や専門書にまで広がっていないAR技術の使用。
AR書籍に関する研究もあまり行われていないとのことなので、研究が進んで有効性が示されれば多くの出版社がAR書籍を作成するようになるだろう。
教室で使う場合には生徒が夢中になりすぎないように教師が管理する必要があるが、興味を持ってもらうツールとしての利用価値は十分ありそうだ。
参照元サイト名:EdSurge
URL:https://www.edsurge.com/news/2017-07-05-an-augmented-reality-library-comes-to-life-for-aspiring-teachers-at-ut-san-antonio
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