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美しく繊細な切り絵。それは平面だけでなく、立体的な作品も存在します。
ガラスのボトルや風鈴と立体切り絵を組み合わせ、独自の小宇宙を作っているのは、切り絵作家のカミヤ・ハセさん。その作品世界はボトル内の空間だけでなく、照明を当てることで美しい影絵アートも生み出します。
カミヤ・ハセさんは1996年から、和紙を使った切り絵・貼り絵作家として活動。作品は便箋やカレンダーの原画イラストとして、これまでに数百種類が世に出ているといいます。
現在のような立体切り絵作品は、2015年ごろから本格的に手掛けるようになったとのこと。作品をボトルに入れて照明で演出するという試みは「偶然の思いつきです」と語ります。
「2011年以来、防災グッズとして小型のLEDライトが100円ショップなどでたくさん扱われるようになり、偶然ボトルの口径とライトの幅がぴったりだったことから、ボトルシップのように瓶に切り絵を入れ、ライトアップしてみようと思いました」
これにより、切り絵単体の美しさだけでなく、照明の作る陰影が新たな表情を生み出しました。モチーフが、より雄弁に世界を語り出したのです。
カミヤさんの立体切り絵作品は、紙を切って折る「切り折り紙」の手法が基礎。展開図が先にあるわけではなく、先に目的となる立体を紙で作り、模様などの大まかなディティールを描いたものを切り開くことで展開図としています。
切り開いた展開図には、細かいディティールを書き込み、切り絵としていきます。切り絵を立体化しているのではなく、立体をいったん平面に切り開き、それを切り絵として再構成する感覚です。
切り絵ボトル作品には、ボトルからモチーフを選んだもの、モチーフに合わせてボトルを選んだものの両方あるそうですが、構想から実際の作品に至るのは「例えば20点構想したとして、実際の作品まで至るのは1点以下です」とカミヤさん。ボトルに入れる過程で切り絵が破損することもあり、思い通りにならない難しさを感じます。
切り絵は一部を接着剤でボトル内壁に固定し、安定させています。狙い通りの配置になるよう、接着部位は外側からマーキング。
こうして出来上がる切り絵ボトルは、立体となることで世界をボトルに封じ込めたような雰囲気。時が止まり、永遠を感じさせる浮遊感が作品を包み込みます。
また、ライティングされていることで影が周囲に広がり、別の顔も見せてくれます。「火龍玉」と題された作品では、ボトルの中に龍が封じ込められているように見えますが、その周囲には大きく躍動する龍の影が広がっています。
カミヤさんにお気に入りの作品をうかがったところ「中身の切り絵の立体化を三方向でできて、かつ詩情を表現した作品」との言葉とともに、2作品を挙げてくれました。桜色の紙で作られた金魚と桜の花をモチーフにした「桜天女」は、金魚のウロコまでも表現し、丸々としたフォルムとヒレの躍動感が印象に残ります。
もう1つの作品「雪の木」は、雪の結晶が葉となっている木がモチーフ。周囲を飾る雪の結晶とともに、凍てつく光景が凛とした雰囲気で閉じ込められています。
作品を見た方の反応は「どうやって入れたの?」という技法的な驚きと、発想に対する「なぜ入れたの?」という驚きに大きく分かれるといいます。確かに、どちらも納得の反応です。
反応に対し「確かに最初は偶然ボトルに入れてみただけでしたが、自分の作品を眺めているうちに、ボトルアートならではの表現効果に少しずつ気づいてきて、さまざまな試みをしてきました」とカミヤさんは語ります。
しかし同時に「ボトルに入れるということはあまりにも制約が多く、負担が大きいことも確かです」とも。ボトルという限られた空間で世界を作る創作的挑戦は、面白さとともに苦悩を生むこともあるようです。
ボトルだけでなく、同じくガラスでできた風鈴を使った立体切り絵作品も発表されています。アジサイや金魚が泳ぐ風鈴は、音色だけではなく目にも涼やかさを届けてくれ、暑さをしばし忘れさせてくれそう。
今後について、カミヤさんは「パンとサーカス」という言葉を引いて、次のように話してくれました。
「本来の意味は別として、結局人間が求めるものは『栄養と驚き』なのだろうと思います。切り絵ボトルアートは、驚きという点で皆様に注目していただいたのは確かです。が、今後はもっと深い意味で心の栄養になるような作品を制作できたら……と思っています」
直近では「不思議の国のアリス」などといった、文学作品をモチーフにしたシリーズを再開する予定とのこと。このほかにも書籍化など、改めてSNSやホームページで告知していくそうです。
<記事化協力>
カミヤ・ハセさん(@kamiyahasse1)
(咲村珠樹)