「ジャグリング」する子どものオマキザルを野生で初めて発見
ブラジル南部にあるロンドリーナ州立大学のキャンパスには、野生のオマキザルの群れが暮らしています。
サルたちは人にすっかり慣れていて、舗装された道を歩き、ゴミ箱をのぞいては人間の食べ物を口にします。
オマキザルは手先が器用なことで知られ、子どもが石や枝で遊ぶ姿もよく見られます。
ところがこの群れで、1匹の子ザルが、オマキザルではまだくわしい記録のなかった遊びを見せました。
ひとつの物を放り上げては受け止める、「ジャグリング」のような遊びです。
子ザルは何を、どんなふうに宙へ放っていたのでしょうか?
大学の緑地で、たった1匹の子ザルが見せた小さな「大道芸」の中身を、順にのぞいてみましょう。
研究の詳細は、ブラジルのロンドリーナ州立大学らにより、2026年5月27日付で学術誌『Primates』に掲載されました。
ジャグリングの記録がある動物は、ほんのひと握り
物をくり返し投げ上げ、リズムよく受け止めることを、研究者は「ジャグリング」と呼んでいます。
物で遊ぶ動物は多くいますが、同じ物を狙って何度も空中で扱うとなると、話は別です。
正式な記録があるのは、カワウソ、イルカ、カラスの仲間、テナガザル、マカクザルなど、ほんのひと握りの種だけです。
早い例のひとつが、1990年代に報告されたワタリガラスの若い鳥たちです。
彼らは小枝や石を宙に放っては落とし、また拾う遊びを、多くは1羽だけでくり返していました。
2000年代のはじめには、飼育されているコツメカワウソが、あおむけに寝転がって小石を前足のあいだで放る姿も見られています。
サルの仲間で初めて「ジャグリング」という言葉が使われたのは、海南島の野生のテナガザルです。
おとなのオスたちが、木の上を移動しながら棒を投げては受け止めていたのです。
寺院の境内にすむカニクイザルでも、石を放っては拾う行動が知られています。
では、器用さで知られるオマキザルはどうだったのでしょうか?
別のオマキザルの仲間であるノドジロオマキザルで、オスが実を食べずに、ジャグリングするように扱ったという報告が1件あるだけでした。
ただし1度きりの観察で、くわしい様子はわかっていません。
その実には刺さる毛があって扱いにくく、そのことも1度しか見られなかった理由のひとつと考えられています。
研究チームによると、1つの物をリズムよく投げては受け止める姿は、今回の子ザルと同じ属のオマキザルでは、まだ報告がありませんでした。
2024年1月の午後、緑地で1匹の子ザルが拾い上げた物は?
舞台のキャンパスは235ヘクタールの広さがあります。
敷地には建物や舗装路、畑、そして森の切れ端が、モザイクのように入り交じっています。
研究チームは、2015年からここのサルたちを見守ってきました。
今回は、サルが物をどう扱うかを調べるため、ひとつの群れを2023年7月から1年間追いかけました。
毎月2週間、週に3日ずつ通い、サルを直接観察した時間は合わせて約25時間でした。
群れには、はじめ37匹がいて、そのうち18匹が子どもでした。
観察は1匹を5分間ずつ見て記録する方法で進めましたが、問題の場面は、その合間にスマートフォンで撮影されたものです。
2024年1月の午後、1匹の子ザルが、緑の広がる開けた場所で、地面の食べ物を探していました。
子ザルは乾いたココナッツを見つけると、それを拾い上げて地面にひとりで座りました。
両側には群れの子ザルが1匹ずついましたが、どちらも2〜4メートル離れていました。
やがて子ザルがココナッツを上へ放ると、ココナッツは空中で回りながら、その手に戻ってきました。
子ザルはそこから、さらに6回続けて放り上げました。
合わせて7回の投げ上げにかかった時間は、約11秒でした。
子ザルが乾いたココナッツを放り上げては受け止める、約11秒の映像です。
動画: Saraiva et al., Primates (2026), CC BY 4.0 の映像(YouTube「IFLScience」)
1回あたり2秒もかからない、テンポの速い動きです。
投げるたびに子ザルは目で軌道を追い、空中で受け止めるか、地面に落ちれば拾い上げて、また投げ始めました。
少し背を丸め、両腕を使い、両手を開いたまま落ちてくるココナッツを待ち構えていたといいます。
研究チームは11秒の映像を354枚の静止画に分け、1枚ずつ動きを確かめました。
子ザルは物の動きに合わせて体を小さく動かしており、研究チームは、投げる力と向きをうまく加減していたと見ています。
受け止める手の形は、オマキザルがふだん物をつかむときの握り方(パワーグリップ)と同じでした。
手のひらで包み込み、指を軽く曲げて、親指をほかの指とそろえる握り方です。
この投げ上げには、食べることや身を守ること、仲間とのやりとりとの目立った関わりは見られず、ココナッツを何かに使った様子もありませんでした。
投げ終えると、子ザルはココナッツを置いて別の場所へ移り、休んだり食べ物を探したりし始めました。
著者のアナ・パウラ・ヴィドット=マニョーニ博士は、この行動を1つの物を使った「ジャグリングのような遊び」と解釈しています。
人がジャグリングと聞いて思い浮かべるような、いくつもの物を使うものではなかった、という意味です。
研究チームによると、中南米のサルの仲間(広鼻猿類)で野生のジャグリングが記録されたのは、知られている限りこれが初めてです。
街ぐらしが、遊びを生んだのか
研究チームは、この行動を遊びの一種と考えています。
根拠は、子ザルがひとりでやっていたこと、同じ動きをくり返したこと、食べ物や争いと関係がなかったことです。
物を使った遊びは、体の動かし方を磨き、試しながら学ぶための仕組みだと考えられています。
サルの仲間では、道具を使う行動の前段階になるという見方もあります。
オマキザルの子どもが石や枝で遊ぶことも、棒を穴に差し込んで獲物を取り出すような、道具を使う腕を育てるとされています。
ただし、今回の種が野生で道具を使う姿は、あまり記録されていません。
もうひとつ研究チームが注目するのが、街の中という暮らしの場です。
キャンパスのサルたちは、ゴミ箱から高カロリーな人間の食べ物を手に入れられます。
自然の中と違って、キャンパスにはエサを奪い合う相手や天敵が少ないか、まったくいませんが、イヌや飼いネコに脅かされることはあります。
食べ物探しや身を守ることに追われなければ、そのぶん「暇」ができ、新しい行動を試す余裕が生まれるのかもしれません。
新しい行動は、もともと知っている動きを新しい場面で使うことから生まれる、と研究チームは説明します。
オマキザルの子どもは、新しい行動を生み出しやすい傾向があることも知られています。
そのうえで、人の手が入った環境が、新しい行動を育てる「ゆりかご」になりうると指摘しています。
ただし、わかっていないことも多く残っています。
ジャグリングが見られたのはこの1回だけで、その後の観察では一度も見られませんでした。
それでも研究チームは、その動きが人のジャグリングにとてもよく似ているため、記録すること自体に価値があると述べています。
群れのほかのサルがジャグリングする姿は見られず、この子ザルがほかのサルから学んだ様子も記録されていません。
博士は「自分で思いついた可能性はあるが、1回の観察だけでは起源を決められない」と話しています。
仲間から学んだ可能性も、まだ確かめられていないといいます。
1回の出来事だけでは、この能力がどれほど広まっているのかも、どんな頭の働きによるのかもわからない、とも博士は述べています。
次の課題は、これが1匹だけのひらめきなのか、ほかのサルも身につけていく行動なのかを見きわめることです。
天敵の少ない大学の緑地で、子ザルは乾いたココナッツを宙に放り、回りながら落ちてくるのを目で追い続けました。
そのわずか11秒の映像は、オマキザルの手先の器用さを示すとともに、ゆとりある暮らしが新しい遊びを生むのかという問いを投げかけているのです。
写真で見るジャグリングの舞台と動物たち
参考文献
Little "Juggling" Capuchin Monkey Reveals How Clever And Coordinated These Animals Can Be In First For The Species (IFLScience)
https://www.iflscience.com/little-juggling-capuchin-monkey-reveals-how-clever-and-coordinated-these-animals-can-be-in-first-for-the-species-85079
元論文
Spontaneous juggling behavior in a wild urban capuchin monkey (Sapajus nigritus cucullatus)
https://doi.org/10.1007/s10329-026-01265-0
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部