私たちは今この瞬間も、息を吐くたびに二酸化炭素(CO2)を外へ出しています。


体は食べ物を燃やすようにしてエネルギーを取り出し、そのときにCO2ができるからです。


この働きは「代謝」と呼ばれています。


人間の活動は、世界の炭素排出を大きく左右する主な要因とされています。


では、世界中の人の体から出るCO2を全部足すと、どれくらいの量になるのでしょうか?


実はこの量を、ふだん通りに暮らす大勢の人の測定から見積もった研究は、これまでありませんでした。


今回、研究チームは6700人あまりの測定データを使い、1985年から2015年までの30年分を計算しました。


研究の詳細は、2026年10月1日付で学術誌『The Lancet Planetary Health』に掲載されました。


息のCO2を「重さの違う水」で測る


実験室で吐く息を測る「間接熱量測定」に使う、マスク付きの卓上の装置です(COSMED社製)。これは今回の研究で使ったものではありません。研究チームは、実験室にこもらなくても、ふだんの暮らしのまま測れる方法を選びました。 / Credit: Cosmed / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

これまでも、人の体が出すCO2を見積もる試みはありました。


1つは、食べた炭素の量と、健康な若い大人が息として出す割合から逆算するやり方です。


もう1つは、実験室で吐く息を測り、その値を広く当てはめるやり方です。


ただ、実験室の測定は、多くが30人に満たない少人数で行われてきました。


人が出すCO2の量は、人によっても、同じ人でも時によっても大きく違います。


そのため世界全体の値を出すには、ふだんの暮らしの中で、大勢を十分な期間測る必要がありました。


そこで使われたのが、「二重標識水(にじゅうひょうしきすい)」という測り方です。


ふつうより重い水素と重い酸素を含む水を飲み、2週間ほどいつも通りに暮らしてもらいます。


居間の床にあぐらをかいて座り、コップの水を飲む女性です(イメージ)。二重標識水の測定では、ふつうより重い水素と重い酸素を含む水を飲みます。 / Credit: Shixart1985 / Wikimedia Commons(CC BY 2.0)

体からは重い水素と重い酸素が少しずつ抜けていきます。


その抜ける速さの差が、体の出すCO2の量に比例するのです。


つまり実験室にこもらなくても、ふだんの生活のままでCO2の量が分かります。


研究チームは、国際原子力機関(IAEA)が集めた、この測り方の世界最大のデータを使いました。


国際原子力機関(IAEA)が、二重標識水で測った世界のエネルギー消費のデータを集めた国際データベースを、国際シンポジウムの場で公開したときの様子です。研究チームは、IAEAが集めたこの測り方のデータを使いました。 / Credit: IAEA Imagebank / Wikimedia Commons(CC BY 2.0)

そこから選んだのは、新生児から101歳までの6756人分の測定です。


アマチュアやプロのスポーツ選手は、運動量が多くCO2が並外れて増えるため、除かれました。


チームはまず、体重と性別から、1人が1年に出すCO2を予測する式を作りました。


そこに世界保健機関(WHO)や国連の人口データ、体格についての国際的な統計を組み合わせます。


こうして国ごとの量を、1985年から2015年まで30年分足し上げたのです。


大人1人が1日に体から出すCO2は、何キロになる?


寒い日に、スノーボードをする人たちが吐く息を写した写真です(カナダ、サン=タドルフ=ダワード)。吐く息には、体が食べ物からエネルギーを取り出すときにできたCO2が含まれています。 / Credit: Alain Wong alainwong / Wikimedia Commons(CC0)

計算の結果、2015年に人類の代謝から出たCO2は、1年で20.5億トンと見積もられました。


1985年の11.8億トンから74%増え、30年で1.7倍あまりになっていたのです。


計算に入れた仮定の数値がずれた場合を考えて確かめると(感度分析)、2015年の値は19.1億〜22.7億トンの幅をとりました。


では、20.5億トンとはどれほどの量なのでしょうか?


研究チームによると、これは人間の活動が出すCO2の約5%にあたります。


世界の炭素の収支では、年に3億トン前後の出入りしかない発生源でも、無視できないものとして扱われます。


NASAの観測衛星OCO-2がとらえた、地球の大気中のCO2の濃さです(10月1日から11月11日まで)。体が出すCO2も、息として最後はこの大気の中へ戻っていきます。 / Credit: NASA/JPL-Caltech(Public domain(NASA))

つまり人類の体は、年3億トン前後の発生源の7倍近いCO2を出していることになります。


ただし、このCO2の炭素は、もとをたどれば植物が最近、大気から取り込んだものです。


食べ物として体に入り、息として大気へ戻る「速い炭素循環」の一部なので、ふつうは化石燃料のように大気へ新しい炭素を足しません。


それでも研究チームは、量がこれだけ大きく、人口とともに増えるため、大気の炭素の出入り全体に影響しうると見ています。


1人あたりで見ると、2015年の大人は1年に平均約346キロを出す計算です。


1日にならすと、約0.95キロになります。


では、30年でこれほど増えたのは、人々の体が大きくなったからなのでしょうか?


実は、1人あたりの量はそれほど増えていませんでした。


大人1人あたりの量は、年約321キロから約346キロに増えただけです。


1〜17歳の子どもも、約229キロから約245キロへの増加でした。


どちらも、増え方は7〜8%ほどにとどまります。


人の体が出すCO2が30年でどれだけ増えたかを、3つの数え方で比べた図です。1人あたりの棒がとても短く、増えた分の多くは人の数が増えたためだと分かります。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図、論文の図2(Gonzalez et al., The Lancet Planetary Health (2026)、CC BY 4.0)をもとに作成)

増加の大部分を生んだのは、人の数、とくに大人の数が増えたことでした。


体重の違いをそろえて計算し直しても、30年で48%の増加が残ったのです。


これは増加分全体の約62%にあたります。


とはいえ、体重が関係ないわけではありません。


1人ひとりの出す量の違いは、およそ半分を体重で説明できました。


この30年で、世界の平均的な体格指数(BMI)は約11%上がっています。


大人の平均体重も、男性は67.3キロから76.0キロへ、女性は59.8キロから67.8キロへと、男女とも約13%増えました。


研究チームは、1人あたりの量が増えた理由の多くは、これで説明できそうだと見ています。


一方、運動量や食事の中身の違いは、今回の結果を説明するには小さすぎました。


人類の体が出すCO2を押し上げた一番の理由は、1人ひとりの変化ではなく、人が増えたことだったのです。


男女の差、国の差、そして健康政策との意外な関係


ロンドンのコヴェント・ガーデンにあるニール・ストリートを、大勢の人が行き交っています(イギリス)。大陸ごとの量の差も、体の違いではなく人口の違いから生まれていました。 / Credit: Marek Ślusarczyk (Tupungato) Photo portfolio / Wikimedia Commons(CC BY 3.0)

次に、男性と女性で比べてみましょう。


2015年時点で、大人の男性は1人あたり年約358キロ、女性は約334キロを出す計算です。


男性のほうが7%多く、その理由は体重が重いことにあるとされました。


ところが、男女それぞれの合計を比べると、差は5%以内に縮まります。


女性は平均して長生きで、そのぶん人数が多いからです。


結局、世界の人の体が出すCO2に対して、男性と女性はほぼ同じだけ寄与していたのです。


国別では、2015年に中国とインドの2国だけで、年7.44億トンを出していました。


量の多い上位10か国のうち、残る8か国の合計は4.58億トンで、2国に大きく及びません。


人の体が出すCO2が多い上位10か国を、2つの組に分けて量を比べた図です。8か国を足した下の棒でも、中国とインドの2国の棒の6割ほどの長さしかありません。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図、論文の図3(Gonzalez et al., The Lancet Planetary Health (2026)、CC BY 4.0)をもとに作成)

その8か国は、日本、アメリカ、ロシア、ブラジル、インドネシア、ナイジェリア、パキスタン、バングラデシュです。


ただし1人あたりで見ると、上位10か国に残ったのはアメリカだけでした。


大陸別ではアジアが最も多くを占めましたが、これも体の違いではなく、人口の違いによるものでした。


またこの30年で、アフリカがヨーロッパを抜き、アジアに次いで2番目に多くのCO2を出す大陸になりました。


この研究は、温暖化対策を考えるうえで見落とされがちな視点も示しています。


例えば植物中心の食事は、作って運び、口に入るまでのCO2が少ない傾向があります。


インドの西ベンガル地方の、ベジタリアン向けの食事です。植物中心の食事の一例です。 / Credit: Sumasa / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

しかしこうした食事は炭水化物が多めで、体の中で燃えるとき、使う酸素に対して出るCO2の割合が高くなりがちです。


そのため理屈の上では、食べた後に体が出すCO2を増やしうると研究チームは指摘します。


健康のための取り組みも同じです。


ほかの条件が同じなら、肥満が減れば、人の体が出すCO2は減ります。


逆に、運動をすすめるよくある呼びかけは、体が出すCO2を増やす方向に働きます。


「アフリカの健康とウェルネス」をテーマにした写真の1枚で、ジョギングをする人が写っています。研究チームによると、運動量の違いは、今回の結果を説明するには小さすぎました。 / Credit: James Moore200 / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

研究チームは、肥満の広がりを止めるための薬なども、この量に関わってくると述べています。


ただし今回の研究は、食事や運動を変えたときの量の変化を、実際に測ったものではありません。


また今回の数字は、100を超える研究を集めたデータから組み立てた、計算による見積もりです。


それでも研究チームは、人の代謝を炭素の動きの計算にきちんと組み込むべきだと結論づけています。


世界の人口は今世紀の半ばから後半に最も多くなると見込まれています。


そのため、体から出るCO2の役割は、これからさらに大きくなっていくとされます。


ご飯を食べて、息を吐くという当たり前の営みが、大人1人で1日1キロ近く、人類全体では年20億トンを超えるCO2になっているのです。


全ての画像を見る

参考文献

Accounting for global carbon dioxide production from human metabolism between 1985 and 2015: a modelling study (The Lancet Planetary Health)
https://doi.org/10.1016/j.lanplh.2026.101546

元論文

Accounting for global carbon dioxide production from human metabolism between 1985 and 2015: a modelling study
https://doi.org/10.1016/j.lanplh.2026.101546

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 人類の体が食べ物から出すCO2は年に約20億トンと判明 」