食べることは、いくつもの感覚が同時に働く、とても基本的な体験の一つです。


これまでの研究で、人は特定の音の響きを、特定の味と結びつけて感じることが分かってきました。


音の高さや響き方、音の出だしの鋭さを組み合わせて、「甘く聞こえる曲」や「酸っぱく聞こえる曲」まで作られています。


ただし、こうした研究の多くは、人に「どう感じたか」を尋ねる方法に頼ってきました。


耳と舌から入った情報が脳の中でどう出会っているのかは、まだあまり調べられていなかったのです。


では、甘く聞こえる曲を聴きながら甘い水を口にすると、脳の味の受け止め方は変わるのでしょうか?


そして、舌に何も触れていないのに、曲を聴くだけで脳が「味」に反応することはあるのでしょうか?


研究の詳細は、デンマーク・コペンハーゲン大学らにより、2026年6月11日付で学術誌『Scientific Reports』に掲載されました。


前歯にマウスピースを掛け、曲を聴きながら味わう


MRIの装置に入る患者を、技術者が見守っているところです(アメリカのメリーランド州ベセスダの国立海軍医療センター、2003年8月)。別の病院の装置で、今回の実験のものではありません。今回の研究でも、参加者はスキャナーの中であお向けになって、曲と味を受け取りました。 / Credit: U.S. Navy photo / Wikimedia Commons(Public domain)

これを確かめるために、研究チームはデンマークのオーフス大学病院で、脳の働きを画像にする装置(fMRI)を使いました。


脳のデータが最後までそろったのは、健康な右利きの大人28人(うち女性16人)です。


参加者はスキャナーの中であお向けになり、3Dプリンターで作ったマウスピースを上の前歯の裏に引っ掛けます。


そこから伸びる細い管を通して、砂糖水かクエン酸の水が、舌の上に3秒かけて流れ出ます。


甘い水は、500mLのペットボトル1本に砂糖をおよそ69グラム溶かしたのと同じ濃さです。


酸っぱい水は、同じボトル1本にクエン酸をおよそ1.2グラム溶かした濃さでした。


水に溶かしたクエン酸から結晶させたものを、顕微鏡で写した写真です。実験の酸っぱい水は、このクエン酸を溶かして作られていました。 / Credit: Alexander Klepnev / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)

同時にヘッドホンから流れるのが、45秒の「甘い曲」と「酸っぱい曲」です。


甘い曲は、高い音をなめらかにつないで弾き、響きのきれいな和音(協和音)で組み立てられています。


酸っぱい曲も高い音ですが、出だしが鋭く、少しにごった和音(軽い不協和音)が混ぜてあります。


どちらも以前の研究で確かめられた曲を元に作られていて、SoundCloud(音声を公開・共有できるウェブサービス)で誰でも聴けます。


実験の前半では、曲と水の組み合わせ4通りを、それぞれ8回ずつ試しました。


そのあと、曲なしで水だけを味わう時間と、水なしで曲だけを聴く時間が続きます。


曲だけを聴く時間には、舌には何も触れていません。


つまり、音だけで脳の味に関わる場所が動くかどうかも、確かめられる設計になっていたのです。


水を味わう時と同じ脳の場所を、音だけで動かしたのはどちらの曲?


脳を、葉(よう)と呼ばれる大きな区分に分けて示した図です。研究チームは、曲だけを聴いたときと水だけを味わったときの脳の画像を重ね合わせて、同じ場所が働くかを調べました。 / Credit: Ndelarosep / Wikimedia Commons(CC0)

研究チームはまず、曲だけを聴いたときと、水だけを味わったときの脳の画像を重ね合わせました。


脳の画像は、一辺2.5ミリの小さな立方体(ボクセル)に区切って調べます。


両方の場面で同じ立方体が統計的にはっきり働いていれば「重なった」とみなす、厳しい基準です。


すると、酸っぱい曲と酸っぱい水の間で、3つの立方体が重なりました。


場所は右脳の「中心後回(ちゅうしんこうかい)」という、触った感じを受け持つ帯状の領域です。


ここは口当たりのような口の中の感覚を処理し、味の情報もまとめる場所だとされています。


ヒトの脳の中心後回と、そのすぐ前にある中心前回をおおまかに描いた図です(ブロードマン、1909年)。1・2・3・43の番号がついた所が中心後回で、4・6の番号がついた所が中心前回です。酸っぱい曲と酸っぱい水で反応が重なったのは、右脳のこの中心後回でした。 / Credit: Korbinian Brodmann / Wikimedia Commons(Public domain)

曲だけを聴いている間、参加者の舌には何も触れていませんでした。


それでも酸っぱく聞こえる曲は、酸っぱい水を口にしたときと同じ場所を動かしていたのです。


研究チームは、酸っぱさを思わせる音が、味がなくても口の中の感覚の仕組みを呼び起こしている可能性があるとみています。


ただし、重なったのは3つの立方体だけで、ごく狭い範囲です。


一方、甘い曲と甘い水では、重なる立方体は1つも見つかりませんでした。


それでも両者は、心地よさの判断を助ける「直回(ちょっかい)」など、同じ領域をそれぞれ働かせていました。


味覚野の一部とされる「ローランド弁蓋(べんがい)」も、甘い曲と甘い水の両方で働いていました。ただし、甘い曲では左脳、甘い水では右脳と、働いた側は逆でした。


角砂糖です。実験で舌に流した甘い水は、砂糖を溶かした砂糖水でした。 / Credit: Dietmar Rabich / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

次に研究チームは、曲と水を同時に受け取ったときと、水だけのときを比べました。


すると甘い水でも酸っぱい水でも、曲が流れているほうが、味や口の感覚に関わる領域が強く働いていました。


甘い水では、ローランド弁蓋でも反応が高まりました。


酸っぱい水では、口当たりを受け持つ右の中心後回のあたりで、反応が高まった範囲がいちばん大きく広がっていました。


では、この高まりは、曲と味が「合っている」から起きたのでしょうか?


確かめるため、研究チームは同じ水のまま、合う曲と合わない曲を流して比べました。


甘い水では、甘い曲のほうが酸っぱい曲より、左右の聴覚野(上側頭回)とローランド弁蓋を強く働かせました。


側頭葉の中で、上側頭回の後ろ側などの位置を示した図です(2011年の論文の図)。甘い水を味わうとき、甘い曲は酸っぱい曲より、左右の聴覚野(上側頭回)を強く働かせました。 / Credit: Talbot K, Louneva N, Cohen JW, Kazi H, Blake DJ, et al. (2011) / Wikimedia Commons(CC BY 2.5)

味は同じなので、この差は曲が合っているかどうかで生まれたと考えられます。


研究チームは、合う曲では音と味がまとまって受け止められ、味の処理も助けられた可能性を挙げています。


ところが酸っぱい水では、どちらの曲を流しても、はっきりした差は出ませんでした。


研究チームの結論は、脳の反応を高めたのは主に「音と味が同時に届くこと」だった、というものです。


そこに甘い水の場合だけ、「曲が合っていること」の効果が上乗せされていました。


人は味の「混ざり具合」まで音と結びつけていた


試食の参加者が食品を味わい、感じたことを書き留めているところです(アメリカ・アーカンソー州の農業試験場の写真)。今回の研究の試食ではありません。今回の研究でも、スキャンの直後に参加者48人全員が20分ほどの試食に参加しました。 / Credit: Ark. Agricultural Experiment Station / Wikimedia Commons(CC BY-SA 2.0)

スキャンの直後には、参加者48人全員が20分ほどの試食にも参加しました。


水は小さな透明カップに入っていて、それぞれにでたらめな3けたの番号が振られていました。


水は、砂糖だけのものからクエン酸だけのものまで、混ぜる割合を変えた5種類です。


これを甘い曲、酸っぱい曲、無音の3通りで味わい、9段階で点をつけました。


論文の本文で示されている試食の結果は、このうち脳のデータもそろった28人分です。その28人の答えでは、まず曲そのものの印象として、甘い曲ははっきりと甘さに結びつけられました。


ところが酸っぱい曲は、酸っぱさだけでなく、苦さとも結びつけられていました。


帯の形をした、イチゴ味の酸っぱいお菓子です(チェコの製品)。試食では、酸っぱい曲は酸っぱさだけでなく、苦さとも結びつけられていました。 / Credit: Petar Milošević / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

研究チームは、これは以前の研究とも一致する結果で、人が酸味と苦味を混同しやすいことの表れだと述べています。


さらに目を引くのは、水と曲がどれくらい「合っている」と感じたかの答えです。


同じ28人の評価では、砂糖が多い水ほど甘い曲に合い、クエン酸が多い水ほど酸っぱい曲に合うとされました。


丸ごとのレモンと、切ったレモンです。試食では、クエン酸が多い水ほど、酸っぱい曲に合うと評価されました。 / Credit: André Karwath aka Aka / Wikimedia Commons(CC BY-SA 2.5)

甘い水と酸っぱい水を半々に混ぜた水だけは、どちらの曲とも同じくらい合うと評価されています。


つまりこの28人は「甘いか、酸っぱいか」の二択ではなく、味の混ざり具合に合わせて、音との相性を連続的に判断していたのです。


では、曲によって味の感じ方そのものは変わったのでしょうか?


脳のデータがそろった28人で見ると、甘い曲を流しながら味わった水は、無音のときより好ましく感じられていました。


好ましさの平均点は、無音の4.15点に対して、甘い曲では4.44点です。


白い台に置かれたヘッドホンです(イメージ写真)。脳のデータがそろった28人では、甘い曲を流しながら味わった水が、無音のときより好ましく感じられていました。 / Credit: Photo by Aleksandar Spasojevic on Pexels(Pexels のライセンス)

大きな開きではありませんが、偶然とは言いにくい差でした。


一方で、甘さや酸っぱさの評価は、曲によってはっきりとは変わりませんでした。


曲は脳の味や口の感覚の領域を強く働かせましたが、この28人の答えからは、甘さや酸っぱさの感じ方まで変えたとは言えないのです。


研究チームによると、試食に参加した48人全員で見ると曲の効果はもう少しはっきり表れましたが、その大きさは控えめなものとみられています。


また、脳のデータがそろったのは28人と多くはなく、酸っぱい曲と味の重なりもごく小さな範囲でした。


研究を率いたコペンハーゲン大学のチエン・ジャニス・ワン准教授は、「風味は単なる食べ物の性質ではなく、脳が作り出す体験です」と話しています。


舌に何も触れていなくても、酸っぱく聞こえる45秒の曲は、酸っぱい水を味わったときにも働く、口当たりを担う脳の一角を、ごく狭い範囲ながら動かしていました。


写真で見る酸味のもとと音楽




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参考文献

Scientists in Denmark put people in a brain scanner and discovered that music changes how your brain processes sweet and sour tastes (Earth.com)
https://www.earth.com/science/music-changes-taste-perception-brain-scan/

元論文

Music–taste interactions enhance gustatory and sensorimotor brain activity
https://doi.org/10.1038/s41598-026-53065-7

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 音楽を聴くと脳の甘味と酸味の処理が変わると判明 」