恋人との体験に新鮮さを感じる人ほど関係の満足度も高い
恋人と一緒に初めての店に入ったり、やったことのない遊びに挑戦したりすると、2人の関係が少し新しく感じられることがあります。
心理学では、パートナーとの新しくワクワクする体験で自分の世界が広がることを「関係的自己拡大」と呼びます。
これまでの理論や研究から、こうした体験は2人の関係への満足度を高めると考えられてきました。
ところが、同じ体験をしても、それを新鮮だと感じるかどうかは人によって違います。
では、2人がそろって同じくらい新鮮さを感じないと、関係への良い効果は生まれないのでしょうか?
北米の同棲カップル512組が21日間つけた日記から、その答えが見えてきました。
研究の詳細は、2026年10月30日付で学術誌『Personal Relationships』に掲載されました。
「一緒に陶芸教室」でも感じ方は2人で違う
研究チームは、この問いを分かりやすく示すために、あるカップルのたとえを挙げています。
ある週末、片方が「一緒に陶芸教室に行こう」と誘います。
誘った側にとって陶芸は初めての体験で、2人のつながりを深める創造的なチャンスです。
ところが、もう片方はふだんから美術に親しんでいる人でした。
その人にとって陶芸教室は楽しい時間ではあっても、特に新しくもワクワクするものでもありません。
つまり2人は同じ体験を共有しているのに、自分の世界が広がったと感じる度合いは違うのです。
そこで研究チームは、2人が同じくらい高い新鮮さを感じる必要があるのか、それとも片方だけで足りるのかを確かめることにしました。
使ったのは、2016年から2023年に集めた4つの日記調査を1つにまとめたデータです。
対象は、付き合って2年以上で一緒に暮らしており、2人そろって参加できるカップルでした。
参加者は平均すると、毎日起きている時間のおよそ6割をパートナーと一緒に過ごしていました。
研究チームは北米でネット広告などを通じてカップルを集め、カナダの2つの大都市ではポスターでも募集しました。
2人はそれぞれ別々に、毎日10〜15分ほどの質問に答え、その日の新鮮さと関係への満足度を記録しました。
集まった日記は全部で19,596回分で、受け取れるはずの回答の91%にあたります。
1人あたりにならすと、3週間のうち約19日分の日記をつけたことになります。
「2人そろって新鮮だと満足」という予想、日記の答えは?
研究チームはまず、2人の感じ方がどれくらい似ているかを調べました。
2人分の記録がそろって比べられた9256日のうち、新鮮さの点数が近かった日は39.3%でした。
つまり一緒に暮らしていても、2人が同じくらい新鮮だと感じていた日は、およそ5日に2日ほどにとどまったのです。
21日間の平均で比べても、2人の点数が近かったカップルは43.7%で、そろい方はほどほどでした。
次に研究チームは、2人の回答の組み合わせと満足度の関係を地形図のように描く方法(二者応答曲面分析)を使いました。
最初の予想は、2人がそろって高い新鮮さを感じたときに、満足度がいちばん高くなるというものでした。
もしそうなら、2人の新鮮さが一致しているところで、満足度の地形は尾根のように盛り上がるはずです。
しかし、結果はこの予想を支持しませんでした。
日ごとの浮き沈みで見ても、21日間の平均で見ても、同じでした。
2人の新鮮さがそろっていることが、高い満足度と結びつく証拠は見つからなかったのです。
代わりにはっきり表れたのは、新鮮さの「そろい方」ではなく「高さ」でした。
2人が似ているかどうかに関係なく、新鮮さが全体として高いほど、関係への満足度も高くなっていたのです。
さらに満足度とより強く結びついていたのは、相手の新鮮さよりも自分自身の新鮮さでした。
陶芸教室のたとえに当てはめるなら、満足度と強く結びつくのは、相手と感じ方がそろうことより、自分が新しいと感じたかどうかのほうだということです。
研究チームは、2人が同じくらい高い新鮮さを感じなくても、どちらか一方の新鮮さが高ければ満足度との結びつきは現れると結論づけています。
新鮮さは体験によって自分の内側が広がる感覚なので、2人でそろっていなくても関係に良い効果をもたらしうるのかもしれない、と研究チームは考えています。
新鮮さは多ければ多いほど良いのか?
この研究で新しく見つかったのが、日ごとに見たときの新鮮さと満足度の関係の形です。
満足度が下がっていたのは、新鮮さが低かった日だけでした。
新鮮さが「ほどほど」の日と「とても高い」日では、満足度は同じくらい高かったのです。
つまり毎日の新鮮さはある程度まで届けば十分で、そこからさらに高くなっても、関係への上乗せは見られませんでした。
研究チームは、これが日々の暮らしの中での「効果の頭打ち」を表しているのかもしれないとみています。
ただし、この形が出たのは日ごとの分析だけで、21日間の平均で比べた分析では見られませんでした。
また、この結果には当てはまる範囲に注意が必要です。
参加者の多くは異性愛で白人、結婚または事実婚の30代でした。カップルは平均すると約8年連れ添っており、典型的なカップル像は子どものいない2人でした。
研究チームによると、比較的幸せそうなカップルが集まっていたため、この結果をすべてのカップルに当てはめることはできません。
頭打ちのパターンも、この参加者に近いカップルについて言えるかもしれない、という慎重な位置づけです。
さらに、この研究は毎日の記録から、新鮮さと満足度の結びつきを調べたものです。
新鮮な体験が満足度を押し上げたという因果の向きまでを確かめたわけではありません。
それでも研究チームは、関係への満足を支えるうえで大事なのは2人の似かよい方ではなく、それぞれが味わう新鮮さの全体の高さだと述べています。
しかもその新鮮さは、毎日とびきりの冒険である必要はなく、「ほどほど」で足りるのかもしれません。
陶芸教室で片方だけが目を輝かせ、もう片方は慣れた様子だったとしても、その日が2人にとって無駄だったとは限らないのです。
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参考文献
Does It Take Two to Benefit From Self‐Expansion? Dyadic Response Surface Analyses of Self‐Expansion and Relationship Satisfaction in Daily Life (Personal Relationships)
https://doi.org/10.1111/pere.70093
元論文
Does It Take Two to Benefit From Self‐Expansion? Dyadic Response Surface Analyses of Self‐Expansion and Relationship Satisfaction in Daily Life
https://doi.org/10.1111/pere.70093
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部