頭のいい若者ほど「仲間の役に立つ」ことで一目置かれると判明
人間の脳は、この200万〜300万年ほどの間に、3倍近くまで大きくなったと考えられています。
とくに大きくなったのは、計画を立てたり判断したりする、脳の前の部分(前頭前野)でした。
では、私たちはなぜ、これほど高い知能を持つようになったのでしょうか?
その手がかりの1つが、「賢い人は仲間から一目置かれる」という、私たちにもなじみのある現象です。
しかし、頭のいい人が一目置かれるのは、本当に「賢いから」なのでしょうか?
ノルウェーの研究チームは、大学生175人を2人1組にした実験で、この点を確かめました。
わずか2分ほどのやりとりで、相手からの評価を分けたものは何だったのでしょうか?
研究の詳細は、ノルウェーのアグデル大学らにより、2026年10月8日付で学術誌『Evolution and Human Behavior』に掲載されました。
人間の知能はなぜ進化した? 3つの説
人間の知能が進化した理由については、大きく3つの説があります。
1つ目は、道具作りや狩り、厳しい気候といった、自然の中の課題を解くためだったという説です。
ただ、同じような環境にさらされた動物はほかにも多いのに、人間ほど賢くなったものはいません。
2つ目は、知能がクジャクの尾羽のように、異性を引きつける「求愛の飾り」として進化したという説です。
しかしこの説は、男女で知能にほとんど差が無いことや、実際の相手選びでは知能が高い人ほど魅力的とされるわけではないことと合いません。
3つ目が、仲間と協力してほかの集団と競う暮らしの中で、知能が磨かれたという説です。
進化生物学者のリチャード・アレクサンダーは、祖先たちは「競争するために協力しなければならなかった」と考えました。
この考え方なら、人間が最も近い親戚の動物たちを特に上回るのが、社会的な場面で頭を使う課題だという点も説明できるとされています。
今回のチームのメンバーはこの考えを進め、2026年に「連合知能仮説」を発表しています。
賢い人は、皆の段取りを整えるといった頭を使う手助けを仲間に与え、そのお返しに地位を得る、という考えです。
ここで言う地位とは、怖さや腕力ではなく、尊敬や憧れから自然に与えられる立場のことです。
ただ、これを確かめるには、これまでの研究に足りない点がありました。
知能と地位を調べた研究の多くは、地位を収入や学歴、職業で測っていました。
反対に、尊敬される度合いを調べた研究では、知能を客観的なテストで測っていないことが多かったのです。
そこでチームは、知能テストの点と相手からの尊敬を、同じ実験の中で測ることにしました。
大学生が5分考え、1分で語った答えはどう評価された?
実験に参加したのは、ノルウェーの大学生175人です。
平均年齢は23歳ほどで、58.3%が女性でした。
研究の仮説と分析の手順は、データを集める前に公開されていました(事前登録)。
知能は、チームが初めてノルウェー語に訳した、16問の知能テスト(ICAR-16)で測りました。
正解数の平均は7問あまりで、16問の半分に届かない程度でした。
次に2人1組になり、「冬に備えて食料を集める」という課題に、それぞれ1人で取り組みました。
考える時間は5分で、その間は相手と話せません。
課題は、群れの一人ひとりが何時間ずつ食料集めに出るのがいちばんよいかを決めるというものです。
長く働くほど食料は増えますが、そのぶん群れの疲れもたまっていきます。
つまり、集まる食料と疲れの釣り合いを探す、いわば「皆のための段取り」の問題です。
答えは、集めた食料の量から疲れの合計を引いた点数で、客観的に採点されました。
5分たつと、2人は書いた答えを見せ合い、1人1分ずつ、答えとその理由を口で説明しました。
先に答えを見せ合うのは、相手の答えを写すといったずるを防ぐためです。
大事なのは、どんな答えがよい答えなのかを、参加者は知らされていなかったことです。
そのため相手の評価は、見せ合った答えと説明から受けた印象だけが頼りでした。
その後、2人は別々に分かれ、名前を伏せたまま相手を評価しました。
評価したのは、尊敬などの度合いを3つの物差しで測った「地位」と、相手の知能がどれくらいに見えたかです。
結果を見ると、まず知能テストの点が高い人ほど、食料集めの課題でもよい答えを出していました。
そして、よい答えを出した人ほど、わずか2分ほどのやりとりの後で、相手から高い評価を受けていたのです。
評価と結びついていたのは「賢さ」より「仲間への貢献」だった
では、知能の高さそのものは、相手からの評価にどれほど効いていたのでしょうか?
チームは、知能から評価へ向かう道筋を、「課題の出来を通る道」と「通らない道」に分けて調べました。
すると、課題の出来を通らない、知能から評価への直接の道は、つながりの強さを見積もった値が小さく、統計的に有意ではありませんでした(偶然とは言い切れないほどのはっきりした結果にはならなかった、という意味です)。
はっきり意味のあるつながりとして残ったのは、知能が課題の出来を高め、その出来が評価を高める道筋だけだったのです。
つまりこの実験では、賢い人ほど一目置かれるという関係が、ほぼすべて「段取りの出来」で説明できたことになります。
言い換えると、課題の出来が同じくらいの人どうしで比べると、テストの点から評価への直接のつながりは、課題の出来を考えに入れない時より弱まり、統計的に有意ではなくなったのです。
研究チームは、知能は何にでも効く魅力として地位を上げるのではない、と考えています。
そうではなく、知能から生まれるふるまいが、仲間にとっての価値を示す確かな合図として働いている、というのです。
もう1つ、目を引く結果もありました。
よい答えが何かを知らされていなかったのに、テストの点が高い人ほど、相手からも賢そうだと見積もられていたのです。
人は短いやりとりだけでも、相手の知能をある程度見抜けるということです。これは過去の研究とも一致する結果でした。
ただし、この研究は仮説を支持する「最初の」手がかりと位置づけられています。
調べたのはノルウェーの大学生で、結果は実験室の短い課題と1対1のやりとりから得られたものです。
また、知能は実験で上げ下げできないため、この研究は観察による調べ方になり、結果から因果関係を言うには注意が要ると、チーム自身が述べています。
祖先の暮らしで実際にこうしたしくみが働き、知能の進化を後押ししたのかどうかは、この実験だけでは分かりません。
人が誰かに一目置くとき、見ているのは賢さより、その賢さで群れの冬越しを段取りしてくれるかなのかもしれません。
写真で見るクジャクの尾羽とノルウェーの大学
参考文献
Intelligence alone may not win you status. A new evolutionary psychology study hints at what does. (PsyPost)
https://www.psypost.org/intelligence-alone-may-not-win-you-status-a-new-evolutionary-psychology-study-hints-at-what-does/
元論文
Coalitional value mediates status allocation based on cognitive ability
https://doi.org/10.1016/j.evolhumbehav.2026.106983
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部