心配性な若者ほど「眠れていない」と感じるが実は眠れていた
心配ごとや落ち込みを抱えやすい人は、「最近あまり眠れていない」と口にしがちです。
寝る前に心配ごとが頭をめぐり、なかなか寝つけないと感じる夜もあるでしょう。
心理学では、心配や不安などの嫌な気分を感じやすい性格の傾向(神経症傾向)が研究されてきました。
これまでの研究でも、この傾向が強い人ほど、自分の睡眠時間を短く答えやすいことが分かっていました。
ところが、手首に着ける機器で眠りを記録した研究では、同じ関係はおおむね見つかっていません。
心配性な人は、本当に眠りが短いのでしょうか?
それとも、ずれているのは眠りの長さではなく、別の何かなのでしょうか?
その食い違いを、大学生134人の眠りを本人の答えと手首の機器の記録の両方で測って調べた研究が報告されています。
研究の詳細は、米ヴィラノバ大学らにより、2026年6月16日付で学術誌『Personality and Individual Differences』に掲載されました。
同じ学生の眠りを3つの物差しで測る
これまでの研究では、神経症傾向と睡眠の関係を、本人の答えと機械の記録の両方で同じ人たちについて調べた例は、あまり多くありませんでした。
そこで米ヴィラノバ大学の研究チームは、睡眠の病気と診断されていない大学生134人を調べました。
平均年齢は19歳で、そのうち95人が女性です。
学生たちは、週末の2晩を含む5晩のあいだ、腕時計のような機器(アクチグラフ)を手首に着けて眠りました。
この機器は、体の動きから眠っていた時間を推定するしくみです。
あわせて、性格や睡眠、抑うつや不安の症状についての質問票にも答えています。
神経症傾向の強さは、5段階の尺度で測られました。
睡眠については、この1か月のふだんの様子を、2通りの方法で尋ねました。
1つは、「実際に何時間くらい眠っているか」を、本人にそのまま見積もってもらう方法です。
もう1つは、ふだん寝る時刻と起きる時刻、寝つくまでにかかる時間を答えてもらう方法です。
研究チームは、その答えから睡眠時間を計算しました。
つまり同じ学生の眠りを、「直接の見積もり」「計算」「機械の記録」という3つの物差しで測ったことになります。
こうすれば、心配性と睡眠の関係が、どの物差しに表れるのかを見比べられます。
3通りの測り方のうち、1つだけ約40分も長く出たのはどれ?
まず、3つの物差しで測った睡眠時間の平均を並べてみます。
本人が直接見積もった睡眠は6.74時間、腕の機器が記録した睡眠は6.70時間でした。
差はわずか2〜3分ほどで、平均で見ればほとんど同じです。
ところが、寝る時刻と起きる時刻などから計算した睡眠は、7.40時間とひときわ長くなりました。
直接の見積もりより約40分長く、聞き方を変えただけで、これだけの差が生まれたのです。
平均では直接の見積もりが機器の記録とほぼ同じでしたが、人ごとの違いで見ると、直接の見積もりより計算による答えのほうが、機器の記録とやや強く結びついていました。
では、心配性な性格は、どの物差しに表れたのでしょうか?
神経症傾向が強い学生ほど、2通りの自己申告のどちらでも、睡眠時間を短く答えていました。
その差は、尺度が1点上がるごとに、申告した睡眠がおよそ15〜20分短くなる程度です。
控えめな大きさですが、偶然とは言いにくい関係でした。
一方で、腕の機器が記録した睡眠時間には、神経症傾向との関係が見られませんでした。
つまり心配性な学生ほど「短く眠っている」と答えたものの、機器の記録では眠りが短いとは言えなかったのです。
心配性な学生ほど、直接の見積もりでは、機器の記録より睡眠を少なめに答える傾向がありました。
計算による答えでは、全体が長めに出るなかで、心配性な学生ほどその上乗せが小さくなっていました。
研究チームは、ほかの要因で説明できないかも確かめています。
回答者の基本的な属性や体格の指標(BMI)、機器で測った睡眠時間を差し引いても、関係は残りました。
夜ごとの眠りの規則正しさや、ほかの性格の特徴を考えに入れても同じでした。
注目したいのは、抑うつや不安の症状です。
これらの症状は神経症傾向と密接に関係していましたが、眠った長さとも答えた長さとも結びついていませんでした。
症状の影響を差し引いても、神経症傾向と申告の関係は弱まりませんでした。
研究チームはこのことから、睡眠を短く答えることには、その時々の落ち込みや不安とは別に、長く続く性格の傾向が関わっているとみています。
「眠れていない」という感覚の理由として考えられること
では、心配性な人の申告が短くなるのはなぜなのでしょうか?
研究チームは、今回の結果がある可能性と矛盾しないものだと述べています。
それは、神経症傾向が機器で測った睡眠の長さよりも、眠りの感じ方や思い出し方、答え方と強く関わっているという可能性です。
手がかりの1つは、寝る前の頭の状態です。
これまでの研究では、寝る前に頭が冴えていると、寝つくまでの時間を長く見積もりやすいことが示されています。
心配性な人は寝る前にも考えごとがめぐりやすく、寝つきに長くかかったと感じやすいのかもしれません。
もう1つの手がかりは、記憶や受け取り方のくせです。
神経症傾向の強い人は、悪い出来事をよく覚えている傾向があると報告されています。
どちらとも取れる情報を、悪いほうに受け取りやすいことも知られています。
1か月分の眠りを振り返るとき、寝つけなかった夜ばかりが浮かべば、答えが短くなっても不思議ではありません。
研究チームはまた、睡眠時間を1問でまとめて尋ねる見積もりは全体の印象に頼りやすく、こうした性格の影響を受けやすいのかもしれないと述べています。
ただし、これらの説明はまだ推測の段階です。
研究チームは、記憶の誤りや答え方のかたよりを直接測ってはいないからです。
一方で、機械のほうが見誤っている可能性もあります。
腕の機器は動きから眠りを推定するため、じっと横になって起きている時間を睡眠と数えてしまうことがあります。
心配性な人がベッドで目覚めたまま過ごす時間が長ければ、そのぶん記録が長めに出ているのかもしれません。
また、性格も睡眠も本人の答えで集めているため、答え方の共通したくせが関係を生んだ部分もありえます。
調べ方そのものにも限界があります。
質問は1か月の眠りを尋ねたのに対し、機器の記録は5晩だけで、ふだんの眠りを捉えるには短いかもしれません。
眠りを記録されていると意識して、神経症傾向の強い学生がいつもと違う眠り方をした可能性もあります。
対象は1つの私立大学の、多くが女性の学生で、ほかの年代や集団に当てはまるかはまだ分かりません。
それでも今回の結果は、「眠れていない」という実感と、記録された眠りの長さが、必ずしも一致しないことを示しています。
心配性な人が「この1か月、あまり眠れていない」と感じていても、手首のセンサーには、ほかの人と目立った差のない眠りが記録されているのかもしれません。
参考文献
People high in neuroticism report sleeping less, but wrist monitors tell a different story (PsyPost)
https://www.psypost.org/people-high-in-neuroticism-report-sleeping-less-but-wrist-monitors-tell-a-different-story/
元論文
Neuroticism is associated with self-reported, but not actigraphy-assessed, sleep duration
https://doi.org/10.1016/j.paid.2026.113954
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部