実は観葉植物の空気をきれいにする力はそれほど大きくなかった
観葉植物には、「部屋の空気をきれいにしてくれる」という評判があります。
私たちは1日のおよそ80〜90%を屋内で過ごすため、部屋の空気の質は暮らしに深く関わります。
では、植物は部屋の汚れた空気を、本当はどれくらいきれいにしてくれるのでしょうか?
この疑問に答えるため、7カ国の研究者35人のチームが動きました。
チームは新しい実験をせず、2000〜2025年に発表された60本の研究を集めて見直したのです。
すると、植物の評判を支えてきた研究には、ある「測り方のクセ」があることが見えてきました。
そのクセとは何で、観葉植物の本当の実力はどれほどだったのでしょうか?
研究の詳細は、英サリー大学らにより、2026年10月1日付で学術誌『Eco-Environment &Health』に掲載されました。
植物の実力は「小さな箱」の中で測られてきた
研究チームを率いたのは、英サリー大学のプラシャント・クマール氏です。
クマール氏は「室内の緑が、私たちの住む場所や働く場所をよくするという証拠は増えている」と話します。
一方で「多くの研究は、一つひとつの効果を切り離して見てきた」とも述べています。
チームが集めたのは、植物を置いたことで室内の空気や温度、湿度がどう変わったかを測った研究です。
まず目立ったのは、研究の59%が実験室で行われ、実際の建物で測ったものは33%しかなかったことです。
しかも実験室で使われた箱の約70%は、中の空気が1立方メートルに満たない大きさでした。
1辺がおよそ1メートルの箱より小さい、と考えると大きさがつかめます。
測定の時間も、多くは6時間から2日ほどでした。
本物の部屋では人が出入りし、窓が開き、冷暖房がついたり消えたりします。
著者らは、小さな箱で得た結果がそのまま建物でも成り立つと考えないよう注意しています。
調べられた植物にも偏りがありました。
研究に出てきた植物は127種類ありましたが、よく使われたのはほぼ4種です。
最も多いのはオリヅルランの16本で、フィロデンドロンの15本が続きます。
ポトスとスパティフィラムも、それぞれ11本の研究で使われました。
測る項目にも偏りがあり、研究が主に測っていたのは温度と湿度、二酸化炭素でした。
さらに実際の建物での研究は60%がオフィスで、住宅を調べたものは10%だけでした。
私たちが聞いてきた植物の力の多くは、「小さな箱」と「オフィス」で確かめられたものだったのです。
箱の中で消えたガスは、本物の部屋でどれだけ減ったのか?
植物の力としてまず見ていくのは、空気中に漂うガスを取り除く働きです。
ペンキや家具、掃除用の洗剤などからは、トルエンやホルムアルデヒドといったガス(揮発性有機化合物)が出ます。
短時間の箱の実験では、植物がこの2つのガスを60〜80%以上取り除くことがよくありました。
ところが実際の部屋で鉢植えを調べた研究では、ガスや細かいちりの減り方は5〜30%でした。
その結果も、植物の数や部屋の広さ、換気の具合によって変わっていました。
論文の要旨も、鉢植えや緑の壁による同じ種類のガスの減少は、ふつう10〜30%ほどだとまとめています。
箱の中ではしばしば6割以上消えていたガスは、実際の部屋で鉢植えを調べた研究では、5〜30%減ったと報告されていたのです。
もちろん、はっきりした効果が出た例もあります。
人が働くあるオフィスでは、土を使わず水で植物を育てる仕組み(水耕栽培)を置いて、12カ月間測りました。
その部屋は、植物の無い同じ造りの部屋に比べて、ガス全体の濃度が28.1%低かったのです。
イタリア・トリノの小学校では、緑の壁が、測った汚れの多くを減らしました。
ただ減り方は予想より小さく、新型コロナの流行中に自然換気が増えていたことが一因とされています。
では、鉢植えはどこでガスを取り除いていたのでしょうか?
実はガスの除去の多くは、葉ではなく、根のまわりの土で起きていました。
いくつかの研究では、植物を育てる土などの材料だけでも、鉢植え全体とほぼ同じくらいの働きを見せています。
反対に、植物を置いたことで汚れが増える場合さえありました。
ふつうの空気の流れにまかせた緑の壁では、報告されたガスの除去率の中央値(値を小さい順に並べたときの真ん中の値)が、およそマイナス6%でした。
マイナスは、汚れがかえって増えた例があったことを意味します。
著者らはこれを、緑の壁が汚れを空気中に戻すことがあるしるしと見ています。
フィロデンドロンやスパティフィラムなどの植物も、ある室内の条件ではホルムアルデヒドやベンゼンを出していました。
では、ファンで空気を植物と根に通す仕組み(アクティブ・バイオフィルター)ならどうでしょうか。
この仕組みは箱の中で、ガスを40〜96%取り除きました。
しかし人のいる建物では、二酸化炭素とガス全体は2〜20%ほどしか減りませんでした。
置き方を工夫しても、植物の力は箱の中より、本物の部屋でずっと小さくなっていたのです。
湿気と暗さ――植物の力が裏返る条件
植物の働きは、空気の汚れを取ることだけではありません。
植物は葉から水蒸気を出し、その水が蒸発するときに、まわりの空気を冷やします。
研究全体では、緑の壁やファン付きの仕組みのまわりで、気温が0.5〜4.5℃ほど下がっていました。
コンピューターの計算では、水を送る緑の壁が、外壁沿いのオフィスの冷房の必要量を22〜27%減らすと見積もられています。
ところが同じ計算で、植物を密に植えた壁は、湿度を長い時間85%より高く保ってしまいました。
多くの人が快適と感じる湿度は40〜60%なので、かなり湿った状態です。
大きすぎたり換気が悪かったりする装置では、湿度が80〜100%近くまで上がった研究もあります。
ここまで湿ると、結露やカビにつながるおそれがあります。
光の強さも、植物の働きを左右します。
ある研究は、畳2枚分ほど(約3平方メートル)のポトスの壁をコンピューターで試しました。
その壁は明るい光の下で二酸化炭素を吸いましたが、薄暗い光の下では逆に出していました。
別の計算でも、植物の壁は昼に二酸化炭素を取り込み、夜に出すと予想されています。
こうした結果から著者らは、植物は換気で入れる新鮮な空気の代わりにはならないと結論づけました。
まだ分かっていないことも多く残っています。
屋外の環境と室内の植物の関わりを調べた研究は7本だけで、将来の気候で試したものもわずかでした。
計算で予測した研究は11本あり、そのうち実測と細かく照らし合わせたのは2本だけです。
教室や病院、介護施設を計算で扱った研究は、1本もありませんでした。
中南米やアフリカの研究も足りず、効果が出た研究ほど発表されやすいという偏りがある可能性も考えられます。
研究どうしの違いが大きすぎて、チームは60本の結果を1つの数字にまとめることもできませんでした。
論文はさらに、室内の環境がよくなったとしても、それが植物のおかげなのかを、今のやり方では十分に見分けられていないと指摘しています。
植物が部屋の役に立つことはあっても、ある部屋にある置き方をしたらどれだけよくなるかは、まだ予測できないのです。
論文は、報告の仕方をそろえ、測定と計算を組み合わせ、気候の変化も考えに入れた評価が必要だとしています。
机の上の鉢植えが減らすガスは箱の実験ほど多くなく、その働きの多くも、葉ではなく鉢の土が担っていたのです。
写真で見る研究に出てきた植物と緑の壁
参考文献
Do houseplants really improve indoor air quality? Scientists reviewed 60 studies (Earth.com)
https://www.earth.com/plants/do-houseplants-really-improve-indoor-air-quality-scientists-reviewed-60-studies/
元論文
Monitoring and modelling of indoor environmental quality to guide indoor greening applications
https://doi.org/10.1016/j.eehl.2026.100289
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部