きょうだいで張り合う子は実は自己肯定感が低かった
きょうだいは、身近な遊び相手であり、張り合う相手やけんか相手にもなります。
同じ家で育つ相手ですから、その関係は子どもの毎日に大きく関わっていそうです。
ところが、これまでのきょうだい研究では、「張り合い」や「けんかの収め方」はあまり注目されてこなかったといいます。
そもそも、きょうだい関係は「仲良し」と「険悪」の2つだけで言い表せるものでしょうか?
たとえば、激しいけんかはしないのに、何かにつけて張り合っている、という関係もありそうです。
ドイツの子ども657人を対象にした研究は、張り合いやけんかの収め方まで含めて、きょうだい関係をタイプに分けました。
すると、いくつのタイプが浮かび上がり、どのタイプの子が人に優しく、自分を肯定できていたのでしょうか?
研究の詳細は、2026年10月29日付で学術誌『Journal of Marriage and the Family』に掲載されました。
「仲良し・険悪」の物差しに2つの目盛りを足した
研究チームが注目したのは、小学校の中ごろから思春期にかけての時期です。
この時期には、友だちとの関係や「自分とは何者か」という感覚が大きく揺れ動いていきます。
そのため、きょうだいとの張り合いや、けんかをどう収めるかが特に大事になる、というのが研究チームの考えです。
そこで今回は、きょうだい関係を4つの物差しで測りました。
温かさ、敵意、張り合い(ライバル心)、そしてけんかの収め方(対立の解決)です。
対象は、ドイツの子ども657人です。
平均年齢は約11歳で、日本でいえば小学校高学年くらいにあたり、男女はほぼ半々でした。
分析では、4つの物差しの組み合わせが似た子ども同士を、いくつかのグループにまとめました。
これは潜在プロファイル分析と呼ばれる統計の方法です。
たとえるなら、身長・体重・足の速さ・握力を測って、似た体格の子を同じチームに分けていくような作業です。
どのグループに入るかがはっきりしない子もいるため、その迷いの分も計算に織り込んで比べています。
比べたのは、人への思いやりの行動(向社会的行動)、よくけんかをするといった問題行動、自己肯定感(自尊感情)の3つです。
きょうだい関係も、この3つも、子ども自身がアンケートに答えたものです。
つまりこの研究は、「張り合い方」まで見たとき、きょうだい関係と子どもの心の結びつきがどう見えるかを確かめたのです。
張り合う仲と関わらない仲、自己肯定感で上回ったのはどっち?
分析の結果、きょうだい関係は5つのタイプに分かれました。
「仲良し型」「敵対型」「ライバル型」「感情が強い型」「無関心型」の5つです。
仲良し型(全体の約22%)は、温かさとけんかの収め方が平均より高く、敵意と張り合いはいちばん低いタイプです。
敵対型(約13%)は、敵意と張り合いが平均より高く、温かさとけんかの収め方は平均より低いタイプです。
ライバル型(約13%)は敵対型に似ていますが、張り合いがとくに強く、温かさとけんかの収め方は敵対型より少し高めです。
感情が強い型(約22%)は、4つの物差しがどれも平均より高いタイプです。
無関心型(約29%)は、敵意をのぞく3つの物差しが、どれも平均より低いタイプです。
なお、きょうだいの年の差や人数は、どのタイプになるかとほとんど関係していませんでした。
まず、いちばん望ましい傾向を示したのは仲良し型でした。
仲良し型の子どもは、思いやりの行動が多く、自己肯定感も高い傾向にありました。
さらに、問題行動は少ない傾向にありました。
つまり、きょうだいと仲の良い関係にある子は、人にも優しく、自分のことも肯定的に見ている姿が浮かんだのです。
反対に、思わしくない様子が見られたのが、敵対型とライバル型です。
この2つのタイプの子どもは、自己肯定感が低く、問題行動が多い傾向にありました。
ここで注目したいのは、ライバル型が敵対型と同じ側に並んだことです。
張り合いは、一見すると「お互いを高め合う」前向きなものに思えるかもしれません。
しかし今回のデータでは、張り合う関係の子どもも、敵意の強い関係の子どもと同じように、自己肯定感が低めだったのです。
では、残りの2つのタイプはどうだったのでしょうか?
感情が強い型と無関心型の子どもは、思いやりの行動と問題行動では、仲良し型と、敵対型・ライバル型の中間くらいでした。
ところが自己肯定感では、きょうだいとの関わりが薄い無関心型の子どもが、仲良し型と同じくらい高かったのです。
きょうだいと張り合う関係の子どもより、きょうだいとあまり関わらない関係の子どもの方が、自分を肯定できていたことになります。
研究チームは、張り合いとけんかの収め方を物差しに加えたことが大きかったとまとめています。
そのおかげで、ライバル型のように、これまで見落とされてきた関係のかたちが見えてきたというのです。
きょうだいの「張り合い」をどう見ればいいのか
今回の結果から言えるのは、きょうだい関係のタイプと、子どもの心や行動の様子が結びついていたということです。
ただし、これは「きょうだいを仲良くさせれば自己肯定感が上がる」という因果関係を示したものではありません。
自己肯定感の低い子が張り合いやすいのか、張り合う関係が自己肯定感を下げるのかは、この結果だけでは区別できません。
また、データは新型コロナの流行より前の2017〜2018年に集められたもので、流行の後に育つ子どもたちでも同じ結果になるかは、まだ分かっていません。
対象はドイツの子どもたちなので、日本の家庭にも同じように当てはまるかは、これから確かめる必要があります。
それでも研究チームは、子どもの心と人づきあいを支えるために家族ぐるみで支援するとき、きょうだいの関係に目を向けることが大切だと指摘しています。
「仲が良いか悪いか」だけでなく、「張り合っているかどうか」も、きょうだい関係を見るときの大事な目盛りになりそうです。
おやつの大きさから順番まで、何かにつけて張り合うきょうだいの姿は、ほほえましく見えるかもしれません。
けれど今回の研究では、張り合う関係にある子どもは、いがみ合う関係の子どもと並んで、自己肯定感が低い傾向にあったのです。
参考文献
Sibling Relationship Profiles and Their Associations With Socio‐Emotional Adjustment (Journal of Marriage and the Family)
https://doi.org/10.1111/jomf.70134
元論文
Sibling Relationship Profiles and Their Associations With Socio‐Emotional Adjustment
https://doi.org/10.1111/jomf.70134
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部