フラフープの輪を回すのは脚の骨の「ひねり」だったと発見か
体の動きを合わせることで、輪が体のまわりを回り続けるフラフープ。
体育の授業でおなじみの遊びですが、その裏にある物理は意外なほど複雑です。
科学者たちは何十年も、輪がなぜ重力に逆らって落ちないのかを解き明かそうとしてきました。
腰や脚の動きが、摩擦や遠心力とどう組み合わさって、輪を宙に浮かせ続けるのか。
この小さな謎について何本もの論文が書かれてきましたが、答えはまだ出ていません。
そこで米カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)の研究チームは、建物の耐震実験用のセンサーを持ち出しました。
木の床に靴下で立ってフラフープを回す人の脚と輪に、そのセンサーを取り付けたのです。
腰を振っているように見えるあの動きの中で、輪を回し続けていたのは、体のどんな動きだったのでしょうか。
研究の詳細は、米カリフォルニア大学バークレー校らにより、2026年9月1日付で学術誌『Nonlinear Dynamics』に掲載されました。
耐震実験のセンサーを脚と輪に付けて回した
これまでの研究では、フラフープを回す体の動きは2組に分かれると考えられてきました。
前後に揺れる動きが輪を体のまわりに回し、上下に弾む動きが輪を持ち上げて浮かせる、という見方です。
この考えは、ここ20年ほど通説とされてきました。
ただしその結論は、膨大な記録から目立つパターンだけを取り出す計算法(主成分分析)で導かれたものでした。
UCバークレーで機械工学を教えるオリバー・オライリー教授らは、当初この先行研究を土台にするつもりでした。
狙いは、体のどの動きがフラフープに欠かせないのかを突き止めることです。
オライリー教授は、靴ひもがほどけるしくみや、『スター・ウォーズ』の球体ロボットBB-8の転がり方を物理で調べてきた研究者です。
輪を回したのは、構造工学の研究者で、元体操選手のクリスタル・チャーン氏です。
チャーン氏がふだん建物の模型の揺れを測るのに使うセンサーを、輪に1個、右脚に3個取り付けました。
右脚では、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)の中ほど、足の甲の骨(中足骨)に1個ずつ付けています。
使った輪は半径41.5センチ、重さ243グラムで、センサーは1個11.2グラムです。
1秒に120回、回転の速さや加速度などを記録します。
腰にも付けたかったのですが、回る輪にずっと当たってしまうため、測れませんでした。
胴体にも付けて試しましたが、回転の動きがほとんど記録されなかったため、測る場所から外しています。
実験はいつも同じ木の床の上で行い、チャーン氏は足と床の滑り方をそろえるため靴下だけで立ちました。
フラフープは1回20〜30秒、合わせて9回回しました。
分析には、そのうち輪が安定して回っていた10〜15秒ほどの区間を使っています。
こうして、脚と輪の動きを同時に細かくとらえた記録がそろいました。
通説と同じ計算法で調べると、体と輪はつながっていた?
チームはまず、先行研究と同じ主成分分析で、自分たちの記録を調べてみました。
チームは、輪の動きは、輪を回して浮かせている体の動きと結びついて現れるはずだと予想していました。
ところが、結果は予想とまったく違うものでした。
取り出された主なパターンのうち、上位2つはほぼ体の動きだけ、次の2つはほぼ輪の動きだけでできていたのです。
「私たちは本当に驚きました」とオライリー教授は話します。
「主な結果は、体の動きが輪にまったく影響しておらず、その逆も同じだと示していたのです」。
つまり、体と輪がそれぞれ勝手に動いている、という答えです。
けれども、フラフープは体を動かして回すものですから、これは筋が通りません。
しかも、先行研究のいう「回す動き」と「浮かせる動き」の切り分けも、今回の主成分分析からは出てきませんでした。
主成分分析は、動きどうしの関係を足し算と引き算だけで表す、いわば「直線」の計算法です。
一方、記録をよく見ると、体と輪のリズムには意外なずれがありました。
脚の骨は、毎秒約2回のリズムで揺れていました。
ところが輪の上下のぐらつきは毎秒0.63回ほどで、体のリズムの約3分の1しかなかったのです。
しかも、輪に固定した座標で測った回転の速さの1成分は、ほぼ一定に保たれていました。輪が体のまわりを回る速さも、別に計算されています。
平均すると1秒に1.35回転で、1分間に直すと約81回転です。
チームは、先行研究が作った数式のモデル(輪の回り方を平面の上で表したもの)をもとに、腰の半径を見積もりました。
出てきた腰の半径は12.9センチでした。
腰回りに直すと約81センチ(32インチ)で、今回のデータを取った人の値としてごく妥当なものです。
測った輪の動きとモデルのつじつまが合っていることを示す結果です。
輪の回転には、脚の骨の「ひねり」が関わっているとみられる
主成分分析で筋の通らない答えが出たため、チームは直線にとらわれない別の計算法(ネットワーク解析)に切り替えました。
記録された動きどうしのつながりを網の目に見立て、どの動きがどの動きに影響しているのかを探る方法です。
その結果、輪が回り続けることには、太もも・すね・足の甲の3つの骨すべての「ひねり」が関わっていると見られました。
ここでいうひねりとは、骨の長い軸を中心に回る動きです。
太ももの骨でいえば、脚を内側や外側にひねる動き(内旋・外旋)にあたります。
すねの骨については、これとは別の向きの回転も、輪の回転に関わっていました。
一方、輪の上下のぐらつきに結びついていたのは太ももの骨のひねりだけでしたが、そのつながりは弱く、試行ごとのばらつきも大きいものでした。
また、体の動きは、輪のぐらつきよりも回転のほうに強く影響していました。
そして、回転を担う動きとぐらつきを担う動きは、きれいに2組には分かれていませんでした。
少なくとも今回調べた回し方では、輪の「回る」と「ぐらつく」は切り離せず、20年来の通説とは食い違う結果になりました。
チームは、ネットワーク解析による結論は主成分分析よりも優れていると述べています。
ただし今回の結果は、1人が見せたひとそろいの回し方から得られたものです。
別の先行研究では、輪を安定して回せる体の動かし方は1通りではなく、何通りもあることが示されています。
記録したのは右脚だけで、腰の動きは測れていません。
輪に付けたセンサーが、輪の回り方を少し変えた可能性もあります。
計算では、センサー1個で輪の回りにくさが4.4%変わり、重心もわずかにずれます。
センサーを付けた輪と付けない輪の両方で回してみたところ、回し方に目立った違いは見られなかったとされます。
それでも、きちんと確かめるには、輪に何も付けずに離れた所から動きを測る装置が必要で、これは今後の課題とされています。
チームは、こうした解析が、リハビリやロボット、体を助ける装置など、人の動きを扱う研究にも役立つと見ています。
腰を振っているように見えるフラフープですが、その下では、太ももからすね、足の甲までの骨がひねりを繰り返していました。
毎秒2回ほどのそのひねりが重なり合って、1秒に1.35回転する輪を回し続けていたと考えられるのです。
写真で見るいろいろな場所のフラフープ
参考文献
Decoding the loopy physics of hula hooping with high-tech earthquake sensors (Phys.org)
https://phys.org/news/2026-10-decoding-loopy-physics-hula-hooping.html
元論文
The symphony of gyrations producing steady motions of a hula hoop: insights from a network analysis
https://doi.org/10.1007/s11071-026-13058-7
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部