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そこで研究チームは今回、6歳から19歳までの児童・青少年1万2732人分のデータを用いて、ASDやADHDと診断された人々の脳活動を比較しました。
対象となった脳領域には、感覚・運動信号の中継を担う「視床(ししょう)」、運動や学習に関与する「被殻(ひかくputamen)」、さらに注意、感情、自己認識などをつかさどる複数の神経ネットワークが含まれています。
そしてデータ分析の結果、興味深いことに、ASDではこれらの脳領域やネットワーク間の結びつきが弱まる傾向が見られたのに対し、ADHDでは同じ領域・ネットワーク間で結びつきが強くなる傾向が確認されました。
つまり、ASDでは「接続の弱さ」が、ADHDでは「接続の強さ」が、それぞれの脳に特徴的なサインとなって表れていたのです。
ASDとADHDは、それぞれ違う症状を示しながらも多くの場合に併存します。
今回の研究でも、この併存を神経的に裏付ける証拠が見つかりました。
例えば、ASDとADHDのどちらの群でも共通して見られたのが、「デフォルトモードネットワーク」と「背側注意ネットワーク」の過剰な接続(ハイパーコネクティビティ)です。
この2つのネットワークは、日常生活で「ぼんやり考えるモード」と「集中モード」を切り替える際に重要な役割を果たします。
この切り替えがうまくいかないことで、注意力の維持が困難になったり、感情のコントロールが難しくなったりする可能性があるのです。
以上の結果を踏まえて、ASDとADHDはいくつかの神経ネットワークでは似たような問題を抱えつつも、全体としては「異なる接続パターン」を持っていることがわかりました。
こうした脳接続の共通点と相違点が、ASDとADHDの似たような症状とまったく違う症状として表れているようです。
この発見は、ASDとADHDのそれぞれに対する診断や治療の方向性に大きな影響を与える可能性があります。
将来的には、脳の接続パターンをもとに個別化された治療法や支援プログラムが開発できるかもしれません。
参考文献
Autism and ADHD have distinct brain connectivity signatures, study finds
https://medicalxpress.com/news/2025-05-autism-adhd-distinct-brain-signatures.html
元論文
Cross-sectional mega-analysis of resting-state alterations associated with autism and attention-deficit/hyperactivity disorder in children and adolescents
https://doi.org/10.1038/s44220-025-00431-5
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部