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ダニ族の社会では、40年ほど前までは女性が上半身を露出して生活するのが当たり前で、胸が日常的に見える環境が存在していました。
しかし近年では文化的な変化が進み、女性の多くが胸を布で覆うようになっています。
この文化の変化を活用し、研究チームは次の2つの世代の男性を対象に調査を行いました。
1つ目は「女性が胸を露出していた時代に育った中高年男性」、そしてもう1つは「胸を隠すのが当たり前になった現在の若年男性」です。
そしてそれぞれのグループに対して、研究者は通訳を通じて、「異性の胸を見たときに性的に興奮するか?」「性行為中に胸に触れたいと感じるか?」「異性の魅力を判断する際に胸の要素がどれほど重要か」などの質問を行いました。
回答はすべて口頭で行われ、統計的な分析によって世代間の違いが調べられました。
調査の結果、2つの世代間にはほとんど差が見られませんでした。
若い頃に女性の胸を日常的に見ていた中高年男性も、胸を隠す文化で育った若年男性も、いずれも同程度で「女性の胸を見て性的に興奮する」と答えたのです。
また、性行為中に胸に触れる頻度や、パートナーの魅力度を判断する際に胸をどれほど重要視するかについても、世代間の差は見られませんでした。
これらの結果は、「胸が普段隠されているからこそ興奮の対象になる」という従来の文化的説明を否定するものです。
代わりに、胸への性的反応は、文化によって作られたものではなく、人間にあらかじめ備わった進化的な本能に根ざしている可能性があると考えられます。
通常、心理学では何度も刺激にさらされると慣れてしまい、反応が鈍くなる「脱感作(desensitization)」という効果が知られています。
その観点からすると、胸を日常的に見慣れていた中高年世代の男性は、若者よりも興奮を覚えにくくなっていても不思議ではありません。
ところが、今回の調査ではそうした文化的慣れ(脱感作)の影響は特に見られなかったのです。
つまり、胸がどれほど日常的に目に入っていようとも、男性はそれを「性的に魅力的で、興奮を覚える対象」として認識し続けていることになります。
これは、「女性の胸」という身体部位が、人間の進化の過程で若さ・健康・繁殖能力の重要なシグナルとして選択圧を受け、男性の脳に深く組み込まれた“反応装置”のような役割を果たしていることを示唆しています。
さらに重要なのは、この研究が測定しているのが単なる「好み」や「関心」ではなく、明確な性的興奮(arousal)という身体・心理的反応であるという点です。
それゆえ、文化によって「胸が見慣れていたかどうか」という視覚的経験の違いがあったとしても、そのような深層の反応までは変化させられないのかもしれません。
このことから、人間の「性的興奮のスイッチ」が、見慣れることでは簡単には“オフ”にならない、堅牢なメカニズムである可能性が見えてきます。
そしてそれは、文化と本能が複雑に交差しながら、人間の性行動を形作っていることを物語っています
今回の研究は、私たちが「当たり前」と思っていた性的魅力の感じ方について、考え直すきっかけを与えてくれます。
文化だけでは説明できない、人間の深層にある本能的な美的判断が、どのように形成されてきたのか。
この問いを探ることは、単に恋愛や性的魅力を理解するだけでなく、人間という存在の根源に迫る手がかりになるかもしれません。
今後のさらなる研究によって、「美しさ」や「魅力」の正体が、もっと明らかになることが期待されます。
参考文献
New research challenges idea that female breasts are sexualized due to modesty norms
https://www.psypost.org/new-research-challenges-idea-that-female-breasts-are-sexualized-due-to-modesty-norms/
元論文
Nudity Norms and Breast Arousal: A Cross-Generational Study in Papua
https://doi.org/10.1007/s10508-025-03122-5
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部