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しかも、それが遠くからでも確認できるなら、大規模な農地管理にも応用できます。
こうした方法は以前にも試されていますが、従来のバクテリアセンサーは蛍光タンパク質などを使うため、顕微鏡で観察しなければならず、遠距離での検出は困難でした。
この問題を乗り越えるため、MITの研究チームは新たなアイデアに挑戦しました。
それが「ハイパースペクトルレポーター(hyperspectral reporters)」という技術です。
これは単なる赤や緑といった色ではなく、数百種類もの異なる波長の光を細かく捉える技術です。
これを利用すれば、通常では見えない微妙な色の違いも、遠く離れた場所から検出できるというのです。
研究チームはまず、バクテリアが放出できる光のパターンを理論的に予測しました。
自然界に存在する約2万種類の分子について計算を行い、最もユニークな光のスペクトルを持ち、かつバクテリアが作りやすいものを選び出しました。
その結果、「ビリベルジンIXα」と「バクテリオクロロフィルa」という2種類の分子が有力候補に選ばれました。
次に、これらの分子を作り出すための酵素遺伝子を、土壌細菌である「シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)」と水生細菌の「ルブリビバクス・ジェラティノサス(Rubrivivax gelatinosus)」に組み込みました。
さらに、これらのバクテリアに土壌の栄養素や汚染物質を検出するためのセンサー回路を組み合わせました。
これにより、バクテリアは周囲の環境を感知すると、独特の光を発するようになったのです。
加えて、この光はドローンや建物の屋上に設置したハイパースペクトルカメラで最大90メートル離れた場所から検出することができました。
テストでは、農地や砂漠、建物の屋上など、さまざまな環境に設置した箱の中にバクテリアを展開し、20〜30秒で4000平方メートル以上の範囲をスキャンできました。
さらに驚くべきことに、この方法は既存のセンサー技術とも組み合わせが可能で、たとえばヒ素の検出にも応用できることが示されました。
これまで、土壌の健康状態をこれほど簡単に、しかも広範囲にわたってモニタリングできる手法は存在しませんでした。
見えなかったものを”光”で可視化する。
MITの研究チームが開発したこのバクテリアは、農業だけでなく、環境モニタリングや防災、安全保障など幅広い分野での応用が期待されています。
近い将来、ドローンで飛びながら、土壌の健康状態をリアルタイムに把握する。そんな未来が現実になるかもしれません。
参考文献
Scientists Engineer Bacteria to Make Soil And Crops ‘Glow’Different Colors
https://www.sciencealert.com/scientists-engineer-bacteria-to-make-soil-and-crops-glow-different-colors
Engineered bacteria emit signals that can be spotted from a distance
https://news.mit.edu/2025/engineered-bacteria-emit-signals-spotted-from-distance-0411
元論文
Hyperspectral reporters for long-distance and wide-area detection of gene expression in living bacteria
https://doi.org/10.1038/s41587-025-02622-y
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部