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なぜこのような「赤の優位性」の効果は生じるのでしょうか。
研究チームは、赤を身につけていると、テストステロン値が向上し、握力が強くなど筋力発揮や瞬発力が向上する可能性と、赤が攻撃性や優位性のシグナルとして働き、対戦相手や審判の判断に影響を与える可能性があると考察しています。
また彼らは、チームスポーツでも同様の効果が生じるのかを検証するため、ユーロ2004国際サッカートーナメントの結果を調べました。
その結果、同様に赤色のユニフォームのサッカーチームの勝率が高かったことも確認しています。
この結果を受け、研究チームは「赤の優位性効果が本当に存在するならば、公平性を保つために試合の色分けルールを再考する必要がある。」と警鐘を鳴しています。
しかしスポーツにおける「赤の優位性効果」は再現性はあるでしょうか。
蘭アムステルダム自由大学のレナード・ペパルコーン(Leonard Peperkoorn)氏らは、より多くのオリンピックのデータを用いて「赤色の優位性効果」が普遍的な現象なのかを検討しています。
ペパルコーン氏は、1996年から2020年の夏季オリンピック7大会、および2005年から2021年の世界ボクシング選手権9大会のデータを使用し、ボクシング、テコンドー、レスリングの試合結果(計6,589試合)を分析しました。
分析の結果、2005年より前の試合では「赤の優位性」の効果は確認されたのに対し、2005年以降の試合では「赤の優位性」の効果は確認されなくなったのです。
なぜ「赤の優位性効果」が消失したのでしょうか。
その理由として、いくつかの要因が考えられるでしょう。
まず第一に、2005年以降に「赤が有利である」という研究結果が広く知られるようになったことで、選手や審判がその情報に基づいたバイアスの存在を意識するようになった可能性があります。
これにより、意識的または無意識的に「赤に有利な判断」を補正しようとする心理が働いたと考えられます。
次に、スポーツの競技ルールや判定制度の進化も影響しています。
たとえば、テコンドーでは電子採点システムやビデオ判定の導入が進んでおり、審判の主観的な判断が介入する余地が以前より少なくなっています。
これにより、赤いユニフォームを着た選手に対する「視覚的な印象」が判定に影響を与える可能性が減少したと言えるでしょう。
最後に、赤の優位性効果を提唱した2005年の研究自体に関する統計的な限界も指摘されています。
英ダラム大学のラッセル氏らの研究は興味深いものでしたが、サンプルサイズが小さかった可能性があり、偶然の偏りや当時の特定条件に依存していた可能性も否定できません。
では、「勝率を少しでも上げたいなら赤の競技服を選ぶべきだ」というアドバイスは、もはや間違っているのでしょうか。
一概にそうとも言い切れません。
たとえば、独ミュンスター大学のヤニック・ヴァイサ(Jannik Weißa)氏らは、サッカーやバスケットボールといったチームスポーツから、陸上競技などの個人競技に至るまで、オリンピックの試合に限定されない幅広い競技と大会を対象に、競技服の色が選手のパフォーマンスや試合結果に及ぼす影響を検証したメタ分析を行っています。
その研究によれば、競技服の色は確かにパフォーマンスに一定の影響を与えると結論づけられています。
具体的には、赤色は筋力や瞬発力を向上させ、対戦型スポーツやフィジカル要素の強い競技において有利に働く効果があるとされ、一方で青色には冷静さや集中力を高める作用があり、持久力を必要とする競技で安定したパフォーマンスを支える効果が期待されます。
つまり、スポーツ全体において赤の競技服が持つ優位性は、かつてほど明確ではなくなったものの、今なお一定の心理的・生理的効果をもたらす可能性があり、色の選択は選手のパフォーマンスに影響を与える無視できない要素であると言えるのです。
参考文献
The ‘red advantage’is no longer true for Olympic combat sports
https://www.sciencedaily.com/releases/2025/01/250108144151.htm
元論文
Red enhances human performance in contests
https://www.nature.com/articles/435293a
The influence of colour in the context of sport: a meta-analysis
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/1612197X.2022.2138497#abstract
Meta-analysis of the red advantage in combat sports
https://www.nature.com/articles/s41598-024-81373-3
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。
編集者
ナゾロジー 編集部