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私たちは毎日、無数の画像を目にしています。
SNSの投稿、テレビのCM、雑誌の写真——しかし、それらすべてを覚えているわけではありません。
なぜある写真は強く記憶に残り、別の写真は一瞬で忘れてしまうのでしょうか?
ある人は「明るい写真や綺麗な写真が記憶に残りそう」と考えるかもしれません。
しかし、実際にはそのような写真が必ずしも記憶に残るわけではないと分かっています。
また、人が映っている写真はそうでない写真より記憶されやすいという傾向がありますが、それだけでは説明できない要素も多く存在します。
では、私たちの脳はどのようにして「記憶に残りやすい写真」と「忘れやすい写真」を区別しているのでしょうか?
新美氏は、その答えを探るため、「瞳孔」に注目しました。
瞳孔の大きさは、単なる明るさの調整だけでなく、精神的活動によっても変化することが知られています。
たとえば、驚いたり、怖いものを見たりすると瞳孔が開きます。
また、瞳孔の大きさは感情以外にも、認知、特に記憶とも関係していると分かっています。
例えば、簡単な数字(3桁の数)を記憶するときよりも、難しい数字(7桁の数)をがんばって記憶するときの方が瞳孔が大きくなる傾向があります。
こうしたことから新美氏は、「記憶に残りやすい写真」と「忘れやすい写真」を見たときにも瞳孔の大きさに違いが生じるかもしれないと考え、確かめることにしました。
新美氏は36人の被験者を対象に実験を行いました。
まず、過去の研究によって記憶しやすさが数値化されている写真データベースから、「記憶に残りやすい写真」と「記憶に残りにくい写真」を数百枚選出。
被験者にこれらの写真を2.5秒ずつパソコン画面に表示して見せ、その間の瞳孔の大きさを専用のカメラで測定しました。
ただし、瞳孔の大きさは「写真の明るさ」や「感情的な要素(恐怖や驚き)」によっても変わるため、これらの影響を排除するために、写真の明るさを統一し、感情を刺激する要素が含まれる写真は除外しました。
さらに、3種類の異なる実験条件で検証を行いました。
1つ目は、写真を見て覚えるように指示する「記銘実験」、 2つ目は、見た写真を記憶テストする「再認実験」、 3つ目は、特に覚える必要はなく、ただ自由に写真を見てもらうだけの「受動視実験」です。
その結果、どの実験においても、記憶に残りやすい写真を見ているときには、記憶に残りにくい写真を見ているときよりも瞳孔がわずかに大きくなることが確認されました。
特に、「ただ写真を眺めるだけ」の実験でもこの現象が確認されたことは、脳が無意識のうちに記憶の重要度を判断している可能性を示唆する興味深い結果だと言えます。
今回の研究では、「記憶に残る写真を見ると、無意識のうちに瞳孔が開く」ことが分かりました。
この現象が起こるしくみは、現時点でははっきりとはわかりません。
しかし新美氏は、「瞳孔の変化は記憶の原因ではなく結果」だと推測しています。
つまり、瞳孔が大きくなることで記憶しやすくなるのではなく、覚えやすい写真を見たときに生じる認知的処理の副産物として瞳孔が大きくなったと考えられます。
このことは、記憶しやすい写真と記憶しにくい写真は、それぞれ脳の中で異なった認知的処理を受けていることを示唆しています。
この研究を発展させるなら、脳と記憶しやすい映像の関係をより深く理解することに繋がるかもしれません。
私たちが何気なく見ている多くの映像の中には、脳の働きの観点で異なるものが存在します。
それこそが「記憶しやすい映像」であり、そのとき、私たちの瞳孔は大きくなっているのです。
参考文献
記憶に残りやすい写真を見ると瞳がちょっと開く
https://www.niigata-u.ac.jp/news/2025/788943/
元論文
Pupillary Responses Reflect Image Memorability
https://doi.org/10.1111/psyp.70007
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部