仕事や勉強中に音楽を聴くと集中力が高まると感じたことはありますか?

巷では「カフェの雑音が本を読むのにちょうどいい」とか「クラシック音楽が勉強にはいいらしい」など、さまざまな説が飛び交っています。

では実際に科学的に効果のある音楽はどれなのでしょうか?

米ニューヨーク大学(NYU)らは今回、集中力を高めることを目的に作られた音楽が認知能力にどんな影響を与えるのか検証。

その結果、「ワークフロー音楽(work flow music)」が集中力を高め、作業の処理速度を向上させることが明らかになりました。

それはどんな音楽なのでしょうか?

研究の詳細は2025年2月12日付で学術誌『PLOS One』に掲載されています。

目次

  • 集中したいときに音楽を聴くのはアリ?ナシ?
  • 集中力を高めるのは「ワークフロー音楽」

集中したいときに音楽を聴くのはアリ?ナシ?

Credit: canva

私たちは仕事や勉強をする際、より集中するために音楽を流すことがあります。

しかし音楽が本当に集中を助けるのかどうかはあまり明確ではありません。

一般的に、歌詞がある音楽は言語処理を妨げるため、読書やライティングには不向きとされています。

中には「音楽があるとそっちに集中してしまうので、作業中はまったく聴かないようにしている」という方も少なくないでしょう。

その一方で過去の研究では、クラシック音楽が集中を高めるという報告も確かにあります。

特に「モーツァルト効果」と呼ばれる現象は有名で、モーツァルトの音楽を聴くことで認知能力が一時的に向上するという研究があるのです。

また、カフェの環境音やホワイトノイズが集中力を高めるという研究も報告されています。

ただこれらの研究は一貫性がなく、どの音楽が最も効果的なのかははっきりしていませんでした。

そこで今回の研究では、集中力向上を目的に作られた音楽に焦点を当て、その効果を検証しました。

集中力を高めるのは「ワークフロー音楽」

研究チームは196人の参加者(18歳から45歳の男女)を対象に、異なる種類の音楽を聴きながら認知課題を実施しました。

参加者が受けたのは「フランカー課題」というテストです。

この課題では、画面上に矢印の列が表示され、中央の矢印が向いている方向をできるだけ素早く正しく判断する必要があります。

周囲の矢印は、中央の矢印と同じ方向を向いていることもあれば、逆の方向を向いていることもあります。

参加者はこれらの干渉(集中力の妨げとなる刺激)を無視しながら、正確に中央の矢印を識別する能力が試されます。

このテストでは、集中力が必要とされるため、音楽の影響を評価するのに適しています。

Credit: canva

そして参加者は以下の4つの音楽条件でテストを受けました。

その1:ワークフロー音楽(work flow music)

・強いリズム(例:中程度の速さのテンポ、高いビートの明瞭性、低いリズムの複雑性)

・シンプルな調性(例:キーの明瞭性が高く、メロディやハーモニーの変化が少ない)

・広範囲に分布する周波数エネルギー(約6000Hz以下)

・適度なダイナミズム(例:やや急なアタック、適度なイベント密度)

その2:ディープフォーカス音楽(deep focus music)

・シンプルな調性を持つが、リズムはより弱い(例:テンポが遅く、ビートの明瞭性が低く、リズムの複雑性が高い)

・周波数エネルギーが低く、より制限されている(例:スペクトルの重心、広がり、減衰ポイントが低い)

・より抑えられたダイナミズム(例:穏やかなアタック、イベント密度が低い)

その3:ポップミュージック

・アメリカの音楽雑誌が2021年10月第2週に発表した「Hot 100」プレイリストからサンプリング

その4:オフィス内の雑音

・一般的なオフィス内の背景音となるキーボードを叩く音や社員の話し声、足音が混じったもの

ワークフロー音楽とディープフォーカス音楽はいずれも集中力を高めることを意図して作られたインストゥルメンタル音楽であり、YouTubeなどでも視聴することができます。

ワークフロー音楽の例はこちら。(音量に注意してご視聴ください)

そして各条件での実験結果を比較したところ、ワークフロー音楽だけが参加者の気分を向上させ、情報処理速度を高める有意な効果を持つことが判明したのです。

ワークフロー音楽に特有の「強いリズム、シンプルな調性、広範囲な周波数エネルギー、適度なダイナミズム」は、脳の集中力が高まる「フロー状態」を確かに促すことが示されました。

フロー状態とは、目の前のことに没頭して、時間が経つのも忘れるほど集中し切っている脳の状態のことを指します。

研究者によると、ワークフロー音楽の強いリズムとシンプルな調性が脳に予測可能なパターンを提供することで、認知の流れのスムーズさを促しているのではないかと考察しています。

以上の研究から「ワークフロー音楽」として作られた音楽が、作業の効率を上げるのに有効であることが科学的に証明されました。

集中したいときには、歌詞のある曲や環境音ではなく、リズムが明確で、シンプルなメロディーのインストゥルメンタル音楽を選ぶのが良いかもしれません。

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参考文献

Good News, Folks! Your Flow Playlist Is Working
https://www.iflscience.com/good-news-folks-your-flow-playlist-is-working-78048

元論文

Effects of music advertised to support focus on mood and processing speed
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0316047

ライター

千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 集中力を本当に高める「音楽のタイプ」が判明!