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詐欺師は、被害者の心理的な弱点を巧みに突きます。
まず、孤独感や愛情への渇望が詐欺を成功させる要因の一つです。
特に大きなライフイベント(離婚や退職など)を経験した人は、精神的に不安定になりやすく、愛情を求める気持ちが強まります。
また、確証バイアスも影響します。
これは、自分が信じたいことを優先的に受け入れる心理的傾向です。
アンヌさんの場合、「本物のブラッド・ピットが私を愛している」という思い込みが強く、疑念が生じてもその証拠を無視してしまいました。
社会的証明の原理も利用されることがあります。
詐欺師は偽のニュース報道やAIで生成した証拠を提示することで、被害者に「この情報は本物だ」と信じ込ませるのです。
さらに、緊急感を煽る場合もあるでしょう。
詐欺師は「銀行口座が凍結された」「命に関わる治療費が必要」といった緊急性を前面に押し出し、被害者に即座の行動を促します。
こうした心理的な要因が重なることで、被害者は冷静な判断を下せなくなるのです。
それでも、このような詐欺には予測可能なパターンが存在します。
ケベック大学モントリオール校(UQÀM)の心理学者アニー・ルコンプ氏によると、詐欺には一連の傾向があるため、相手が詐欺師かどうか予測することは可能です。
まず詐欺師には、出会い系サイトやソーシャルネットワークで連絡を取ってくる傾向があります。
巧妙に作り上げた偽の身元を使って、高い社会的地位を誇示し、海外に住んでいるか頻繁に移動しているように見せかけます。
この演出により、直接会う必要がなくなり、同時に詐欺師の信頼性が高まるのです。
次に、詐欺師は被害者を元の出会い系サイトやソーシャルネットワークから遠ざける目的で、別のプラットフォームで会話を続けることを提案します。
これにより、プロフィールが削除される可能性を減らし、詐欺を続けやすくなります。
また、直接会うことを避けるために、旅行、仕事の都合、家族の問題などの言い訳を使います。
今日では、技術の進歩により、詐欺師の中には人工知能ツールを使って偽の画像を作成したり、声を真似したりします。
加えて詐欺師は、頻繁なやり取りを通じて被害者を誘惑しようとします。
ロマンチックなメッセージや詩、定期的な電話、さらにはささやかな贈り物を使います。
なぜなら、この「ラブボミング」によって、被害者は強い感情的執着心を持つようになり、要求に弱くなるからです。
信頼関係が築かれると、金銭問題や健康問題を理由に送金を要求するようになります。
最初の要求は疑いを招かないように控えめですが、次第に要求額は増えていくでしょう。
被害者が疑いを抱き、送金を拒否しようとすると、詐欺師は脅迫に訴え、関係を終わらせると警告することがあります。
この際、詐欺師は攻撃的な口調を用い、被害者の感情を不安定にさせ、屈服させようとします。
それでもし、自分が連絡を取っている相手がこうした傾向を示しているなら、強く疑う必要があります。
自分では「そうでない」と信じたくとも、詐欺である可能性が高いと認める必要があるのです。
ロマンス詐欺は、単なる「騙し」ではなく、心理学を駆使した犯罪です。
特にAI技術が発展した現在、詐欺の手口はますます洗練され、見抜くのが難しくなっています。
誰もが被害者になる可能性があるため、「自分は大丈夫」と思わず、常に警戒心を持つことが重要です。
そして、疑わしいと感じたら、冷静に分析し、第三者の意見を聞くことが最も効果的な防衛策となります。
もし、有名人がSNSであなたに近づいてきたなら、警戒心を強めてください。
参考文献
Brad Pitt online romance fraud shows how victims are influenced by complex psychological factors
https://theconversation.com/brad-pitt-online-romance-fraud-shows-how-victims-are-influenced-by-complex-psychological-factors-247875
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部