近年、政治家の演説や討論の場での「言葉遣い」だけでなく、「身振り手振り」といった非言語的要素にも注目が集まっています。

その代表例として、アメリカのドナルド・トランプ氏が用いる独特なジェスチャーは、多くのメディアや研究者の関心を惹きつけてきました。

トランプ氏といえば、直接的で時に攻撃的な言説が取り沙汰されがちですが、実際にはその視覚的パフォーマンス、とりわけ「指差し」を多用するスタイルが聴衆の支持や反発を大きく左右している側面も見逃せません。

政治的コミュニケーションを分析するうえで、ジェスチャーの果たす役割は単なる“見栄え”にとどまりません。

たとえば、心理学では「説得」や「注意喚起」における視覚刺激の効果がよく研究されていますが、政治スピーチのような公共の場面でのジェスチャーは、聴衆の感情や認知バイアスに直接作用する可能性があると示唆されています。

特に指差しには、対象を明確に指し示すことで「敵」と「味方」を際立たせたり、具体的な注意の焦点を作り出したりする機能があり、それが聴衆の評価や理解を変化させる一因となり得るのです。

一方、アメリカ大統領選のキャンペーンでは、トランプ氏の集会がしばしば“ショー”のように扱われてきました。

熱気に包まれた会場で繰り広げられるパフォーマンスは、一種のエンターテイメント性を帯びつつ、聴衆に強烈なメッセージを与えます。

ここでは、単に言語的に「主張」を伝えるだけでなく、身体を使った視覚的・感情的アピールが支持者との一体感を形成する役割を果たしていると考えられます。

こうした演出の中心にあるのが、しばしば映像や写真でも取り上げられる“指差し”ジェスチャーです。

本記事では、ランカスター大学(LU)で行われた研究をもとに、ドナルド・トランプ氏のジェスチャー、特に「指差し」に焦点を当て、その心理効果を探ります。

従来の政治学やコミュニケーション研究では、ポピュリスト政治家が「自分は国民を代表する一員である」ことを強調する手段として、言語以外のボディランゲージを積極的に活用していることが指摘されてきました。

しかし、ジェスチャーを体系的に分類し、具体的な心理学的インパクトと結びつけて考察する研究はまだ十分とはいえません。

そこで本記事では、トランプ氏の指差しを対象にした分析を参照しながら、「どのような方向性やタイミングで、どんな言語表現と組み合わせて行われるのか」「それが聴衆に対してどのような心理的影響をもたらすのか」を紹介します。

さらに、ここでは認知言語学や社会心理学の知見を組み合わせ、指差しの形や頻度がどのように説得力や攻撃性、あるいは聴衆との一体感を生むのかを考察することを目指します。

政治的コミュニケーションというテーマは多角的なアプローチが可能ですが、本記事では特に「心理効果」という観点から、トランプ氏のジェスチャーの意図とその成果を探っていきます。

心理学に興味を持つ読者の方にとって、政治スピーチの舞台裏で繰り広げられる非言語コミュニケーションの妙を知ることは、説得理論や認知バイアスに関する理解を深めるうえでも有意義でしょう。

次章以降ではまず、政治スピーチにおけるジェスチャーの一般的な役割を概観し、その後に指差しというジェスチャーの特徴を詳しく説明します。

そこから実際のデータと方法、分析結果を示し、最終的に心理的観点から考察を行いながら、トランプ氏の指差しがもたらす説得・動員効果について結論づける流れをとります。

私たちが普段見過ごしがちな“指先”の動きには、政治的メッセージを補強する巧妙な仕掛けが隠されているかもしれません。

研究内容の詳細は『Social Semiotics』にて公開されました。

目次

  • トランプ流ジェスチャーの科学
  • ジェスチャーの天才「トランプ」の魔法
  • 悪用禁止のトランプ流心理操作のジェスチャー術

トランプ流ジェスチャーの科学

もしトランプ氏の代表的な写真をあげるとしたら、すくなくない人が「指差し」をしている画像を選ぶでしょう。

それほどまでに、トランプ氏と「指差し」はセットで見られることが多くなっています。

政治家が演説や討論会などの公式な場でジェスチャーを用いることは珍しくありません。

こうしたジェスチャーは、長らく「言葉を補う付随的な動作」とみなされがちでしたが、近年の研究ではむしろ「聴衆に与える印象の重要な要素」であると再認識されています。

たとえば、イギリスの議会討論での身振りやアメリカ大統領選挙のテレビ討論会に注目した先行研究によって、政治家が意図的に手の動きをタイミングよく利用し、発話内容を強調することで、支持者からの拍手や賛同を引き出している事例が多く報告されています。

特に、過去の討論会を素材にした研究では、右手でテンポよくリズムを刻む「ビート・ジェスチャー」や、指を揃えて相手を指し示す「ポイント・ジェスチャー」が、聴衆への説得やメッセージの強調にどのように機能しているかが分析されてきました。

では、なぜジェスチャーがこれほどまでに聴衆に強い影響を与えるのでしょうか。

一つの説明として、身体言語が脳の認知処理と密接に関連していることが挙げられます。

心理学の研究によれば、ヒトは視覚情報に対して極めて敏感で、話し手がどんなふうに手や腕を動かしているかを無意識的に読み取ることで、その人の真剣度や信頼性、または攻撃性や親しみやすさなどを素早く判断する傾向があります。

また、指差しなどの明確な指示的ジェスチャーは、聴衆の注意を瞬時に特定の対象へ向ける効果があることが知られています。

政治家が「あなた」「彼ら」「ここ」といった言葉と同時に指を向けると、聴衆は言葉と映像を結びつけ、より強く「誰が味方で、誰が敵で、今どこに注目すべきか」を体感的に理解しやすくなるのです。

こうした理解は感情レベルでの共感を促進し、熱烈な支持や強い反発といった反応を生み出す要因となります。

今回の研究で中心的に扱われたのは、2016年4月18日にニューヨーク州バッファローで開催された、ドナルド・トランプ氏の大規模選挙集会の映像です。

予備選挙期間中でも注目度が高い時期に行われ、会場には1万人を超える聴衆が詰めかけました。

【悪用厳禁】トランプ流の大衆を魅了する「ジェスチャー術」の研究が発表 / Credit:Christopher Hart . Social Semiotics (2024)

この選挙集会の様子は、オンラインの動画プラットフォームやニュースサイトでも配信されており、演説の長さは約60分。

本研究では、この映像全編を対象として、トランプ氏のジェスチャー、特に「指差し」に関するあらゆる動作を詳細に記録・分析しています。

映像分析にあたり、研究チームは「ジェスチャーファースト」と呼ばれる手法を採用しました。

これは、まずスピーチ全体を通して現れるジェスチャーの種類や動きに注目し、そこからどのような言語表現(単語・フレーズ)と結びついているかを追跡するアプローチです。

具体的には、手で指し示す動作の有無とその方向(外向き・内向き・上向き・下向き・複雑形)に着目し、それぞれが話し手の発話内容(「私」「あなた」「ここ」「この国」など)と同時にどのように現れるかを、フレーム単位で検証しました。

結果、興味深い事実が判明します。

(1)外向きの指差し

【悪用厳禁】トランプ流の大衆を魅了する「ジェスチャー術」の研究が発表 / 外向き指差しの例/Credit:Christopher Hart . Social Semiotics (2024)

基本的な方向指差しの中で最も多かったのが、体の正面から外側に向ける「外向きの指差し」(29回)で、全体の3〜4割を占めていました。

特に二人称(“You”や“あなた”)を使う場面や、抗議者・メディアといった第三者を明示的に攻撃・揶揄する場面で頻出しました。

これにより聴衆は、敵対対象や注目すべき対象を視覚的に共有しやすくなり、熱狂や共感が生まれやすくなると考えられます。

「あなたたち」という呼びかけとともに指を大きく振り回す動作は、聴衆を巻き込み、感情的に煽る効果を持つ可能性があります。

(2)内向きの指差し

【悪用厳禁】トランプ流の大衆を魅了する「ジェスチャー術」の研究が発表 / 内向き指差しの例/Credit:Christopher Hart . Social Semiotics (2024)

次に特徴的だったのが、自分自身の胸元に向ける「内向きの指差し」(13回)で、全体のおよそ1〜2割ほどを占めていました。

回数としては外向き指差しより少ないものの、「自分」を強調する場面で集中的に使われていました。

これは「自分こそが当事者」という強い自己強調の意味合いがあり、他者と自分を対比する文脈や、自身への支持を求める訴えを行う際に効果的に機能していると考えられます。

また胸に指先や手のひらを当てる形で、誠実さや熱意を視覚的にアピールする動作が多くみられました。

特に「私は約束を守る」「私には特別な力がある」などの主張時に、胸を強めに叩くようにして行うケースが顕著であり、印象的な自己言及となっているようです。

(3)下向きの指差し

【悪用厳禁】トランプ流の大衆を魅了する「ジェスチャー術」の研究が発表 / 下向き指差しの例/Credit:Christopher Hart . Social Semiotics (2024)

「下向きの指差し」(26回)は、場所を示す表現(“Here”や“この国”“バッファロー”など)と結びついているケースが際立ちました。

地面や舞台を指すことで「この場にこそ意味がある」「地元との結束を示す」という視覚的メッセージを強調し、聴衆に「(自分がいる)この場を重視している」「自分たちの地域を取り戻す」といった訴求力を高める手段として、足元やステージを指し示す場面がしばしば観察されました。

このような下向きの指差しは、聴衆が“自分たちの場所”への帰属意識を強める効果が推定されます。

(4)上向きの指差し

【悪用厳禁】トランプ流の大衆を魅了する「ジェスチャー術」の研究が発表 / 上向き指差しの例/Credit:Christopher Hart . Social Semiotics (2024)

「上向きの指差し」(5回)は総数としては少ないものの、将来的なビジョンや高さを強調する表現(例:「壁の高さをイメージさせる」)などで使用されていました。

集会の興奮が高まる中、聴衆の注意を“上へ”向けることで、壮大なイメージや大きな目標を示す意図が見られます。

他にも「大きな構想」「未来」「天を仰ぐようなモチーフ」など、やや抽象性の高い話題を扱う際に現れることが多くなっていました。

(5)複雑な指差し動作

【悪用厳禁】トランプ流の大衆を魅了する「ジェスチャー術」の研究が発表 / コイル指差しの例/Credit:Christopher Hart . Social Semiotics (2024)

前述のようなシンプルな方向指差しに加え、約22%を占める“複雑な指差し”も注目すべき要素として報告されています。

具体的には、ホッピング(指を連続的に移動させる動き)やコイル(円を描くように手を回転させつつ指差す動き)といったバリエーションがありました。

ホッピングは数字や時系列を強調したい場面で特に使われ、左から右への順序立った指差しによって、過去から未来へ、または小さい数から大きい数へと変化するイメージを明確に示唆していました。

またコイルは、繰り返しの強調や「私たち(We)」を包み込むような包括感を表す際に使用され、発話のダイナミックな盛り上がりとシンクロしていました。

(6)会場の反応

他にも映像を通して、会場での聴衆の反応や雰囲気との関連も、いくつか興味深いパターンが見受けられました。

もっとも興味深いのは拍手・歓声との同調です。

トランプ氏が「あなたたち」と呼びかけながら外向きに指を振りかざすとき、聴衆の歓声や拍手が一斉に高まる場面が多く観察されました。

これにより、演説者との一体感が形成され、会場全体が連帯する空気が作り出されると推定されます。

また時折、特定の聴衆をピンポイントに指差しながら微笑む、あるいはうなずくという動作が捉えられ、聴衆との“対面コミュニケーション”を強く演出する役割を果たしているようです。

こうした瞬間には拍手や笑い声が起こることもあり、軽快な“ショー的”な要素として機能している可能性があります。

そして「メディアは嘘つきだ」「対立候補は信用できない」といったネガティブな発言中に外向き指差しが行われると、聴衆からはブーイングや嘲笑が起こり、会場全体の熱気が高揚する様子が見られました。

このような敵対感情を可視化するジェスチャーが、ポピュリスト的な“敵味方の二極化”を強化しているとも考えられます。

今回の分析から、トランプ氏の演説において指差しが頻出し、方向と対象となる言語表現・文脈が密接に結びついていることが定量的・定性的に示されました。

外向き・内向き・下向き・上向きという基本的なパターンは、それぞれ異なるレトリック目的や心理的影響を持ち、特に外向き指差し(他者や聴衆)と内向き指差し(自己強調)の使い分けが顕著です。

また、指差しのタイミングと会場の反応が連動している場面も少なくなく、聴衆の感情や注意を操作する効果が実際に生じていると推測されます。

ただし、どのような心理的メカニズムがそこに働いているのかについては、次節でより詳細に分析・考察します。

そこでは、ポピュリスト的文脈や認知心理学的理論に基づき、トランプ氏のジェスチャーがどのように支持や対立、興奮を導き出すのかを掘り下げていきます。

ジェスチャーの天才「トランプ」の魔法

【悪用厳禁】トランプ流の大衆を魅了する「ジェスチャー術」の研究が発表 / 胸に手を当てて誠実さをアピール/Credit:Christopher Hart . Social Semiotics (2024)

今回の研究結果から浮かび上がったのは、ドナルド・トランプ氏が選挙集会というライブの場で、指差しを含む多様なジェスチャーを「単なる身振り」にとどまらず、緻密に組み立てられたポピュリズム戦略として活用している可能性です。

特に、外向きの指差しは「あなたがた」や「彼ら」「メディア」などを明示しやすい一方で、内向きの指差しは「私」を強調する強力な手段となり、聴衆に「大衆の代弁者」としての自己イメージを投影する際に効果的であると考えられます。

これは、ポピュリスト政治家がよく用いる「自分はエリートではなく、国民の側にいるのだ」というメッセージを、視覚的にわかりやすく提示する戦術にも合致します。

指差しの背後にある心理的効果を考えると、いくつかのレイヤーが見えてきます。

まず、外向きの指差しが示す「攻撃対象」や「称賛対象」の明確化は、聴衆の感情を短時間で盛り上げる強力なツールです。

誰を“味方”とし、誰を“敵”として位置づけるのかを、トランプ氏自身の声と同時にジェスチャーで示すことで、聴衆の感情的反応をより直接的に引き出せるというわけです。

一方、内向きの指差しで自分自身を示す行為は、言葉以上に「自分が強いリーダーである」という印象を植え付けるものとなります。

胸に手を当てつつ「私がやる」「私こそが責任を持つ」と語る姿は、政治家としての信頼感や使命感をアピールしやすいだけでなく、感情移入を起こしやすい場面を作り出します。

認知言語学や社会心理学では、「フレーミング(framing)」によって人々の理解や態度形成が大きく変化すると言われます。

たとえば、トランプ氏が「あなたたち」を指差しつつ「私たちは勝利する」と宣言する場合、聴衆は自身を“勝者の一員”と捉えるフレームを自然と受け入れやすくなります。

一方、「敵対勢力」を指し示して強い言葉で非難する場合には、「彼らは自分たちの脅威だ」というフレームが提示され、聴衆は怒りや不安と結び付けて認知する可能性が高まります。

また演説者との“自己同一化”が進むと、人はその演説者の主張を積極的に受容しやすくなります。

内向き指差しを使った「私はこう思う」「私自身がやるんだ」という主張が繰り返されることで、トランプ氏を「信頼できる人物」や「自分を体現してくれる人物」と捉える聴衆が増える可能性があります。

さらに、外向き指差しで「あなたたちも一緒だ」といった呼びかけを行うと、聴衆は「自分もこの集団の一部である」という認識を強化しやすく、演説者と同じ感情や世界観を共有していると感じるようになります。

今回の分析は、テレビ討論会などの形式張った場面ではなく、大規模な選挙集会に焦点を当てた点が特に興味深いといえます。

集会では、拍手や歓声、時には抗議の声が飛び交い、まるでコンサートのように演説と聴衆が絶えず相互作用を繰り返します。

そのため、瞬間瞬間の空気に合わせて指差しジェスチャーを微調整する余地が生まれ、ライブならではのパフォーマンス要素が強調されるのです。

さらに、聴衆側からのコール&レスポンスを受けて、トランプ氏が指差しの方向を変化させたり、時間的・数的な話題でホッピングを使ったりする場面では、一体感や熱狂が加速します。

こうした「非言語シグナル」と「言語シグナル」の二重効果が、トランプ氏の演説における魅力や独特の存在感を支えていると考えられるでしょう。

悪用禁止のトランプ流心理操作のジェスチャー術

【悪用厳禁】トランプ流の大衆を魅了する「ジェスチャー術」の研究が発表 / 有効な方法ほど悪用されると被害が甚大になります/Credit:Christopher Hart . Social Semiotics (2024)

ここでは、これまでの話をまとめ、トランプ氏のジェスチャー術を応用するための方法を紹介します。

政治家としてのドナルド・トランプ氏が、敵と味方を明確に分けつつ、熱狂的な支持を獲得してきた背景には、いくつもの戦略があります。

そのうち非言語コミュニケーション、とりわけ「指差し」を軸としたジェスチャー術は、聴衆の感情や認知を強く刺激し、場合によっては“心理操作”とも言えるほどの効果をもたらすものです。

ここでは、そのテクニックを「悪用禁止」を前提に“虎の巻”形式で整理します。

あくまで、この知識は自らの表現力を高めたり、説得スキルを分析したりするための参考としてご活用ください。

①「敵」と「味方」を作り、指先で視覚化する

外向きの指差しで「敵」を示す

相手の名を呼びながら、人差し指を鋭く突き出すように外向きに指差すと、聴衆は瞬時に「敵」を認識します。

メディアや野党、あるいは抽象的な脅威であれ、物理的に示されることで“悪”としてリアルに感じやすくなるのです。

怒りや不安などの負の感情を刺激し、結束を高める手段として効果的ですが、過度に利用すれば社会を分断する危険性があります。

②大きく広げる外向き指差しで「味方」を包み込む

自分が演説台に立ち、左右に大きく腕を振りつつ「あなたたち」「みんな」と呼びかけることで、聴衆は自分たちが“味方陣営”に属していると感じるようになります。

手の動きが大きいほど「大勢を巻き込んでいる」印象を与え、一体感が増幅されます。

これはトランプ氏の得意技の一つですが、使いすぎると“馴れ馴れしさ”を嫌う人々から反発を招く可能性があるので注意が必要です。

③自分を示す内向き指差しで「主役」を印象づける

胸を指して「自分が責任者だ」と強調する

「私はやる」「私だけができる」といった言葉を発する際に、自分の胸や心臓付近を指差す・叩く動作を加えると、説得力と共感度が飛躍的に高まります。

聴衆は話者の“自己確信”や“真摯さ”を強く感じ取り、「この人になら任せてもいいかも」と思いやすくなります。

また一度きりではなく、繰り返し自分を指す・胸を叩く動作を入れると、聴衆の記憶に深く刷り込まれます。

政策や公約など“実現すべき約束”を強調するときに有用ですが、濫用すると「大げさ」「自己陶酔」といった負の印象につながる場合もあるため、バランスが肝要です。

④上向きの“矢印”で抽象的な希望や大きな展望を語る

高い場所を示す仕草で“将来性”を演出

声のトーンを少し上げつつ、指を上向きに伸ばしながら「未来」「成功」「偉大な国を取り戻す」などの言葉を発すると、聴衆はそれを“上昇”や“前進”といったポジティブなイメージと結びつけやすくなります。

頭よりも高い位置に手をかざすことで、発言のスケールや志の高さを強調できます。

抽象的な概念を明確にする“シンボル操作”

「大きな壁」「高いハードル」「天井知らずの成長」などを話題にする際も、視線と指先を上方向へ導く動作が有効です。

言葉だけではイメージしづらい要素を、実際の空間に“映し出す”ことで、聴衆の頭の中でビジョンが具体的に膨らみやすくなります。

⑤下向きの“矢印”で現実の場や仲間意識を固める

足元を指差すことで“ここに私たちがいる”感覚を強調

“この場所”“この国”“ここから始めよう”という文言に合わせて下向きに指差すと、抽象的な話ではなく現実の“いま・ここ”に焦点を合わせます。

聴衆にとっては、自分たちの足元・地元への愛着や結束を感じるトリガーとなるでしょう。

仲間と同じ地面に立つ“共通感覚”を演出

舞台の上と下で距離があっても、指を下に向けつつ「あなたたちと同じ場所に立っている」「私たち一緒に闘うんだ」と語ると、聴衆は“自分とリーダーは同じ地盤の上で繋がっている”という感覚を持ちやすくなります。

これもトランプ氏が好んで用いる手法の一つであり、“一体感”の形成に大きく寄与します。

「悪用禁止」なワケ

以上のようなテクニックは、政治家やプレゼンターにとっては強力な武器となる一方で、強い対立意識や過度な自己賛美など、社会的分断を深めるリスクも伴います。

とりわけ「敵と味方」を明確に描きすぎると、特定の集団への憎悪や偏見が助長される可能性があります。

また、過剰な自己強調は“独裁的”との批判を招きかねません。

さらに、上向き・下向きの指差しを巧みに使って大言壮語を繰り返せば、短期的には熱狂を得られても、長期的には失望や不信感を招く恐れがあります。

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元論文

What’s the point of Donald Trump? Deictic gestures in theservice of right-wing populism
https://doi.org/10.1080/10350330.2024.2442992

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 【悪用厳禁】トランプ流の大衆を魅了する「ジェスチャー術」の研究が発表