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しかしタム氏ら研究チームのアメリカと中国における調査では、2009年から2020年で、特に若者の間で退屈感が急増していると判明しました。
調査対象となったアメリカの中高生(10万人以上)や中国の大学生(2万8000人以上)は、「退屈することが多い」とアンケートに答えており、退屈を感じる傾向が過去10年間で急増していることが分かりました。
学生以上の年齢層の人々でも、同じく退屈に感じている人が多いはずです。
では、どうして人々は退屈になってしまったのでしょうか。
その理由について、タム氏ら研究チームは、デジタルメディアに潜む3つの原因を提示しています。
現代の人々が退屈する理由の1つは、デジタルメディアが次々に提供する刺激にあると考えられます。
現代では、指で画面をスクロールするだけで、またマウスを少し動かすだけで、次々と新しいコンテンツが得られます。
刺激的な文章、刺激的な画像、刺激的な動画を絶え間なく入手できるのです。
人間はこうした刺激を受けた時に、脳の報酬系が活性化します。
ドーパミンが分泌され、同様の行為を繰り返したくなります。
しかし同じ刺激が繰り返されると、脳はドーパミンに対して鈍感になり、快楽を得るためにより多くの刺激を求めるようになります。
刺激的なコンテンツを簡単に絶え間なく入手できるからこそ、私たちは刺激に慣れてしまい、退屈するのです。
そしてコンテンツ自体も、長い動画ではなくショート動画など、すぐに刺激が得られるものが増えました。
だからこそ、この溢れるほどの刺激(コンテンツ)の中で育った若者は、一層退屈を感じています。
彼らは「即座に得られる快楽」に慣れきってしまい、本を読んだり、静かに座って景色を眺めたりする「刺激が少ない有意義な活動」を楽しめなくなっているのです。
そしてこのような傾向は、私たちの集中力を欠如させてきました。
現代の人々が退屈するもう1つの理由は、集中力の欠如です。
私たちの身の回りには、デジタルメディアが溢れるほど存在するため、注意が分散し、1つのコンテンツに集中することが難しくなっています。
例えば、ドラマや映画を見始めた5分後には、スマホをいじり出している自分に気づくことがあるかもしれません。
動画を流しながら、ゲームをしたりネットサーフィンをしたりするのは当たり前になっているかもしれません。
また、スマホから頻繁に来るチャットの通知で、コンテンツを楽しむ時間が度々中断されることもあるでしょう。
このようなマルチタスクは、私たちから1つのコンテンツを集中して楽しむ機会と能力を奪っており、これが満足度の低下や退屈へと繋がっていきます。
実際、研究では、スマホを自分の近くに置いておくだけで、対面での社会的交流の楽しみが低下し、退屈感が強まると分かっています。
タム氏の2024年の別の研究は、チャンネルを次々に切り替える行為が人々の退屈感を増長させると報告しており、やはり1つのコンテンツを集中して楽しめないことが退屈と関連しているようです。
そして、それら短く断片的な情報は、私たちをさらに退屈させます。
研究チームは、現代の人々が退屈を感じる3つ目のメカニズムとして、「断片的な情報や体験の増加」を挙げています。
デジタルメディアが増加するにつれて、消費が早くなり、人々は手早く刺激を得られるコンテンツを求めるようになりました。
その結果、コンテンツの作り手は、ショート動画などの「短く」「衝撃が大きい」コンテンツをこぞって生み出すようになりました。
しかし研究によると、人々は関連性のない「断片的な情報」を素早く消費した後、それらを無意味に感じ、虚無感を覚えることが多いようです。
そしてこの「虚無感」は、さらに別のコンテンツを消費するよう人々を駆り立てます。
では、たとえ「断片的な情報」でも、それらを大量に寄せ集めるなら、私たちは満足できるのでしょうか。
その答えは、ショート動画を1時間もしくは2時間見続けてしまった後の私たちがよく知っています。
その行為に何の意味も見いだせず、ただただ「時間を無駄にしてしまった」と後悔するだけです。
私たちが心から満足するためには、「意味の繋がり」が大切だと分かります。
1つの長編映画や小説、ゲームを最初から最後までじっくり楽しむことで、一貫性のある体験が得られ、そこに満足感が生まれるのです。
さらにそこから様々な考察を楽しむこともあるでしょう。
しかし、現代のデジタルメディアの傾向は、そのような一貫した体験を私たちから引き離しています。
タム氏らの今回の論文は、デジタルメディアが無限の刺激を私たちに提供する一方で、退屈感を強めている理由を説明しています。
ほんの十数年ほど前、私たちは今ほど毎日が退屈ではありませんでした。
1つのゲームを舐めるように楽しみ、クリア後も裏ボスを倒したり図鑑を埋めたりするのに必死でした。
1つの映画を見る間、1つの小説を読む間、私たちはその世界にどっぷりと浸かり、その世界の住人となっていました。見終わったあとも1週間くらい、ずっとその世界のことを考えて、その世界に浸っていられました。
けれど今、私たちはそれが出来ているでしょうか?
私たちはデジタルメディアが溢れる世の中で生活しているからこそ、片っ端からそれらを楽しまないと損してしまうという気持ちに囚われがちです。
しかし、本当に損しているのは、溢れるコンテンツを片っ端から楽しむことなのかもしれません。
参考文献
Research suggests people are getting more bored
https://www.psypost.org/research-suggests-people-are-getting-more-bored/
Endless digital media was supposed to cure boredom forever — except the opposite is true
https://www.zmescience.com/science/news-science/people-are-getting-bored/
元論文
People are increasingly bored in our digital age
https://doi.org/10.1038/s44271-024-00155-9
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部