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「幸せになりたい」と願うのは、ごく自然のことです。
それでも近年では、より多くの人が幸せを願い求め、人生における「第一の目標」にしています。
こうした心理の背後には、生活水準の向上や、社会的価値観の変化が関係しています。
人々には、単に生きるだけでなく、より良い生活を求める余裕が生まれました。
そして物質的な豊かさだけでなく、内面的な充実や感情的な満足感も重視される社会になったことで「現状に満たされない」と感じる人が増えているのです。
さらにSNSの普及によって他者と比較しやすくなり、この比較が「自分も幸せになりたい」という願いを強めています。
では、現代で私たちが本当に幸せになるためには、どうすればよいでしょうか。
今回、ファン氏は、オランダの一般家庭を対象に長期間にわたって行われるインターネット調査「The Longitudinal Internet Studies for the Social Sciences (LISS) panel」のデータを利用し、幸福を目標にすることと、その結果を分析しました。
この研究では、オランダの成人8331人を対象に、2019年から2023年の変化を追跡しました。
参加者は毎年、自分にとって幸福であることの重要度を評価しました。
さらに、生活満足度、肯定的および否定的な感情的経験を報告しました。
この分析の結果はどうなったでしょうか。
幸せを第一に求める人は、本当に幸福感を得ていたのでしょうか。
分析の結果、幸福を常に重視する人は、全体的な幸福度が高い傾向にあると分かりました。
これはある程度、納得のいく結果です。
例えば、人生の中で「幸福感」を重視する人は、「義務感」を優先したり、「他人からの承認」をいつも求めたりする人に比べて、幸福感や喜びを感じやすいはずです。
ところが、今回の研究では、もう1つ重要なことが明らかになりました。
「幸せになりたい」という目標を持っている人は、その目標に応じて幸福度がどんどん向上していくわけではなかったのです。
この2つの要素から考えると、幸福を重視している人は、一般的には幸せな生活を送る可能性が高いですが、幸福への関心がさらに高まったとしても、1年後の生活満足度は大して変わらないと分かります。
なぜ「幸せになりたい」という目標は、そこまで人を幸せにしないのでしょうか。
ファン氏は、「『幸せになりたい』という目標に注目すればするほど、それを達成しなければいけないというプレッシャーを感じやすくなったり、幸せが得られるかどうか過度に心配したりする」と説明しています。
幸せを願うのは自然なことですが、人生の目標にするには漠然としており、何をもって達成されるのか判断しづらいものです。
結果として、その願いは人を幸せにする行動に繋がらず、望んでいるほどの「幸せ」の自覚も得られません。
自分で思い悩んだり、周囲と比較したりして、プレッシャーや不安ばかりが強くなってしまいます。
では、幸せを望む私たちは、何を目標にすればよいのでしょうか。
今回の研究は、「幸せになること」を一番の目標として追及するべきでないことを示しています。
だからこそファン氏は、幸福は目標ではなく「最終的に得られる結果(または副産物)」として捉えるよう勧めています。
私たちは「幸せになりたい」という漠然とした目標を持って闇雲にもがくのではなく、もっと具体的な目標に目を向けるべきなのです。
例えば、「愛する人や友人と時間を過ごす」「運動する」「自然と触れ合う」など、有益だと証明されている活動を目標にすることができます。
忙しく働いている社会人であれば、「来年はもっと幸せになる」という目標を持つのではなく、「来年はもっと家族との時間を増やす」という目標を持つと良いわけです。
音楽が好きな人であれば、単に幸せを求めるのではなく、「もっとギターを弾いたり、作曲したりする」ことに目を向けることができます。
そうするなら、幸せはつかみどころのないものではなく、必然的な副産物となるでしょう。
具体的なことを目標にして達成していけば、あなたは自分が幸せかどうか絶えず自問するまでもなく、いつも幸せでいられるのです。
参考文献
Does the Pursuit of Happiness Lead to a Better Life?
https://www.psychologytoday.com/au/blog/points-on-the-board/202410/does-the-pursuit-of-happiness-lead-to-a-better-life
New psychology research untangles the links between valuing happiness and well-being
https://www.psypost.org/new-psychology-research-untangles-the-links-between-valuing-happiness-and-well-being/
元論文
Does Valuing Happiness Lead to Well-Being?
https://doi.org/10.1177/09567976241263784
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部