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UHA味覚糖株式会社は、亜鉛酵母(吸収型亜鉛)を含むサプリメントを40代50代の男性ホルモン=テストステロンが低い男性に3カ月間飲んでもらったところ、テストステロンの値が上昇したと発表しました。
加齢とともに男性は男性ホルモンが減少します。これは男性更年期、LOH症候群(Late-Onset Hypogonadism:加齢男性性腺機能低下症候群)と呼ばれています。
日本泌尿器学会によれば、LOH症候群になると、調子が思わしくない、関節や筋肉の痛み、ひどい発汗、睡眠の質の低下、いらいらする、憂うつな気分、ひげの伸びが遅くなった、性的能力の衰えなど、気が滅入りそうなネガティブな状態になるそうです。
いつも調子が悪くいつも疲れている中年というのは、LOH症候群の可能性がありますね。
男性ホルモンは血液中に含まれる量で測ることができます。男性ホルモンはいくつも種類がありますが、テストステロンがマーカーとなります。
日本泌尿器学会では、標準的な血中テストステロンの量を年齢別に公表しています。20歳代は8.5~27.9pg/mL(ピコグラム/ミリリットル。以下同)、30歳代は7.6~23.1pg/mL, 40歳代は7.7~21.6pg/mL, 50歳代は6.9~18.4pg/mL、60歳代は54~16.7pg/mLといった具合です。
数字だけ見ても加齢とともに減っているのがわかると思いますが、この下限(各年代の最初の数値)を下回るとLOH症候群を起こす可能性があります。
では下がってしまったテストステロンを上げることはできるのでしょうか?
上げる方法には、肉を食べる、ウェイトトレーニングをする、姿勢を良く堂々とする、よく眠るなど上がっていますが、これらはそもそもLOH症候群になると実行が難しくなります。テストステロンが足りないのに、ジムへ行けるか? 背筋が伸びるか? という話です。
ところがUHA味覚糖株式会社によれば、亜鉛酵母のサプリメントを飲めば、テストステロン値が上昇するというのです。
テストステロンと亜鉛が関係していることは以前から言われていました。テストステロン値が高い人は血液中の亜鉛が多く、少ない人は亜鉛も少ないからです。
テストステロンは95パーセントが精巣で作られます。亜鉛が多い=テストステロンが多い=精巣が活発=精液が増えるという連想でしょうか、精子に亜鉛が多く含まれているためでしょうか、亜鉛をとれば精子の製造が増えるとも言われています。
亜鉛が男性機能に効くのなら、亜鉛を含むビール酵母が原料のエビオス錠も効くと噂になり、ネットにはエビオスで精液ドバドバと身も蓋もない体験談が書かれています。ネットの都市伝説ですね。
亜鉛をとると精液も増える話には、明確なエビデンスがあるわけではなく、精液の量や質と亜鉛との関係は研究者によって意見が分かれています。精子の量と質に敏感な不妊治療の現場では、亜鉛をとると精液が増えるという話には根拠がないと考えている医師も多いようです。
しかし今回の研究で、亜鉛の摂取が加齢によるテストステロンの減少に有効なことが示されました。精液を増やすかどうかはともかく、男性ホルモンが増えて元気が出るなら、それに越したことはありません。
亜鉛を飲むとどうしてテストステロンが増えるのか? 今回の研究は関連性を見たものであり、そのメカニズムについて正確なことはまだ研究中の段階です。
UHA味覚糖に問い合わせたところ、あくまで仮説のひとつだとの断りの上で以下のことを教えてもらいました。
思春期以降、体内のテストステロンは5αリダクターゼという酵素によってジヒドロテストステロンに変わります。ジヒドロテストステロンは髪の毛が抜けるサイクルに関わっていて、抜け毛・脱毛の主犯格なんですが、亜鉛は5αリダクターゼを阻害し、ジヒドロテストステロンを作らせないようにします。
その結果、体内にテストステロンが増えるという、テストステロンの分泌量が増えるわけではなく減らさない方向でいくというのが亜鉛の働きらしいのです。
亜鉛の働きがわかったのは、たかだかこの40年ほどで、主食の穀物にフィチン酸が多く含まれている地域で亜鉛欠乏症が生じ、成長遅延、男性の性腺機能低下症、肝脾腫、肌荒れなどが起きることから亜鉛の働きがわかってきたということです。
普通の食事をしている限り、亜鉛が不足することはあまりないそうですが(厚労省の基準では、成人男性の推奨摂取量が11㎎、食品に添加する上限は15㎎と定められている)、テストステロンが減り続けている中高年としては、なんとか堤防の決壊を防ぎたい! ですよね。
各社亜鉛サプリメントを出されていますが、亜鉛サプリに使われる亜鉛は、主にグルコン酸亜鉛と亜鉛酵母の2種類があるそうです(他にも酢酸亜鉛や硫酸亜鉛など)。
グルコン酸亜鉛は、亜鉛の摂取量が高く、吸収率が高い亜鉛化合物です。これで十分なのですが、亜鉛を酵母に食べさせた亜鉛酵母はさらに吸収がいいらしい。
あくまで試験管内での実験ですが、亜鉛酵母はグルコン酸亜鉛に比べて約23%吸収しやすいそうです。
そのため男性機能に悩んで亜鉛に頼ろうとする場合には、亜鉛酵母を選んだ方が期待値は高まるかもしれません。
なお亜鉛の摂取上限は成人で40㎎。食事から6~10㎎はとれているので、サプリメント1日分10~15㎎は妥当とのことです。これを超えると吐き気や嘔吐、頭痛などが起き、長期的には免疫が落ちたり、他のミネラルの吸収を妨げたりと良いことはまったくありません。
文字通り、亜鉛サプリメントは用法容量は守ってお使いください。
参考文献
加齢男性性腺機能低下症候群診療の手引き
https://www.amazon.co.jp/dp/486517494X
亜鉛酵母(吸収型亜鉛)の継続摂取が加齢により低下した男性ホルモン量を増加させることを確認
https://www.uha-mikakuto.co.jp/company/news-releases/news20240508.html
厚生労働省eJIM
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c03/12.html
元論文
Zinc levels in seminal plasma are associated with sperm quality in fertile and infertile men
https://doi.org/10.1016/j.nutres.2008.11.007
The Role of Zinc in Male Fertility
https://doi.org/10.3390/ijms21207796
ライター
川口友万: テレビや漫画、小説などの監修もやっています。 著書に「ラーメンを科学する」(カンゼン)、「あぶない科学実験」(彩図社)、「ヤバめの科学チートマニュアル」(新紀元社)など多数。 幽霊をたまに見るので、立場上、微妙な気分です。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。