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そんな中、ヘルシンキ大学の新たな研究で、失語症による言語能力の低下は「歌うこと」で回復できることが示されました。
チームは今回、ヘルシンキ在住の脳卒中を原因とする失語症患者28名を対象に、歌うことのリハビリ効果の検証を行っています。
患者は18歳以上の男女で、全員がフィンランド語の話者であり、脳卒中により失語症を発症してから6カ月以内となっています。
これらの被験者を歌唱リハビリに参加する13名とリハビリに参加しない対照群の15名に振り分けました。
歌のリハビリはごくシンプルで、複数人で合唱するグループトレーニング(週一回・各回90分・合計で24時間)とタブレット端末を介した自宅での個人トレーニング(週三回・各回30分・合計24時間)の2種類で、これを4カ月間にわたり続けています。
その結果はチームの予想した以上に効果的なものでした。
まず、歌唱リハビリに参加した被験者はそうでない対照群に比べて、前頭葉の言語領域にある灰白質の体積が増加しており、さらに言語ネットワークにおける神経回路の接続性が大幅に改善されていたのです。
こうした脳内の構造的な変化はちゃんと言語能力の回復と関連して現れていました。
つまり、歌うことは傷ついた脳組織を根本から修復しながら、患者の言語能力を回復させることができたのです。
今回の成果について、研究主任のアレクシ・シーヴォネン(Aleksi Sihvonen)氏は「失語症患者の歌唱によるリハビリテーションが、脳の可塑性に基づいて症状を改善させることを実証した初めてのものです」と話しました。
加えて、歌うことは従来の治療に比べて、リハビリにかかるコストや通院の必要性を大幅に減らすことができるため、非常に費用対効果の高い治療法として期待できます。
患者は自分ひとりでも、あるいは家族や友人と一緒に楽しみながらでも、失語症の治療を進められるようになるでしょう。
参考文献
Singing repairs the language network of the brain after a cerebrovascular accident
https://www.helsinki.fi/en/news/brain/singing-repairs-language-network-brain-after-cerebrovascular-accident
元論文
Structural Neuroplasticity Effects of Singing in Chronic Aphasia
https://doi.org/10.1523/ENEURO.0408-23.2024
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部