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一方で、腎臓の働きが弱くなると尿の作りが悪くなるため、老廃物や余分な塩分、その他の毒素が体内に蓄積する恐れがあります。
この状態が「尿毒症」です。
尿毒症になると例えば、老廃物の蓄積を原因とする「頭痛・吐き気・食欲の低下・体のだるさ」が生じたり、水分の蓄積を原因とする「むくみ・動悸・息切れ・尿量の低下」が生じます。
このように腎臓機能の低下が常態化した病気が「慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)」です。
日本における慢性腎臓病の患者数はかなり多く、2023年時点の調査では、国内に約1480万人(20歳以上の7人に1人)の患者がいると推計され、新たな国民病ともいわれています。
今回のセント・ヴィンセント病院の医学研究チームが報告したのは、そんな慢性腎臓病患者におけるスイカの悪影響です。
では、慢性腎臓病の人たちがスイカを食べすぎるとどうなってしまうのでしょうか?
スイカは果肉の90%以上が水分であり、添加物だらけの加工食品や高脂肪のファストフードなどに比べると、健康上に何の害悪もないように思われます。
しかし、腎臓が悪い人にとっては致命的になる可能性があります。
その原因となるのがスイカに豊富に含まれている「カリウム」です。
カリウムはすべての細胞の正常な機能を維持するのに必要なミネラルです。
細胞内の体液量の調節や心臓の鼓動の調節、筋肉の収縮や神経刺激の伝達など、人体の活動に欠かせない役割を担っています。
一般成人の正常な血中カリウム濃度は3.6〜5.2mmol/L(※)です。
(※ 1mol/Lは溶液1Lに溶けている物質量の単位で、1mmol/Lはその1000分の1の単位)
腎臓がちゃんと機能していれば、多くのカリウムを摂取しても尿と一緒に排出されて、血中のカリウム濃度のバランスを保つことができます。
ところが慢性腎臓病のように腎臓の働きが悪くなっていると、カリウムが尿として排出されず、体内にどんどん溜まっていきます。
そして血中カリウム濃度が5.5mmol/L以上になると起こるのが「高カリウム血症」です。
高カリウム血症になると筋肉が正常に収縮しなくなり、手足の痺れ、嘔吐などの胃腸症状、体に力が入らない脱力感、そして心臓の働きに異常が出る不整脈や、最悪の場合は心停止に陥る恐れがあります。
つまり、腎臓の悪い人がスイカを食べ過ぎるとカリウムが体内に蓄積して、高カリウム血症を引き起こすリスクが高まるのです。
研究チームは新たな症例研究で、実際に起きたエピソードを挙げています。
そこでは、慢性腎臓病と2型糖尿病を患う56歳の男性が失神後に集中治療室に搬送されたケースが報告されました。
男性の心拍数は1分間に20回という危険な数値にまで下がり(正常値では1分間に60〜100回)、血中カリウム濃度は7mmol/Lに達していたという。
男性は高カリウム血症の治療により何とか一命を取りとめましたが、のちに過去2カ月の間に大量のスイカを毎晩食べていたことが判明しました。
医師らは、慢性腎臓病と糖尿病により腎臓の働きが低下していた中で、カリウムが排出できずに体内に蓄積して、高カリウム血症を発症したのだろうと診断しています。
この他に、腎臓の働きが低下している72歳の男性が約1カ月間、毎日2杯のスイカジュースを飲んでいたことで不整脈を起こしたケースも報告されました。
こうした危険性があるため、腎臓の悪い人はあまりスイカを摂取するべきではないと指摘されています。
またカリウムはスイカだけでなく、ほうれん草、トマト、ブロッコリー、じゃがいも、昆布、バナナなど多くの食品に豊富に含まれています。
ただカリウムは水に溶けやすい性質があるので、水にさらしたり茹でたりすることでカリウム量を減らすこともできます。
腎臓の調子がよくない方は、これらの食品を控えめにしたり、調理方法を工夫することでカリウムの摂取量を調節することが大事でしょう。
参考文献
Watermelon overdose cases reveal a deadly risk to compromised kidneys
https://newatlas.com/health-wellbeing/watermelon-high-potassium-kidney-failure/
新たな国民病、「慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)」
https://www.kyowakirin.co.jp/ckd/about_ckd/index.html
元論文
Watermelon-Induced Hyperkalemia: A Case Series
https://doi.org/10.7326/aimcc.2023.1084
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。