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そこで科学者たちは、より効果的な「レーザー誘雷」を研究してきました。
これは高強度のレーザーによってプラズマを作り、そのプラズマを「稲妻の道」にする方法です。
大気中の分子にレーザーでエネルギーを加えることで、それらの分子を破壊。
分子が原子になり、さらに原子核のまわりの電子が離れることで、イオン化するのです。
このイオン化した状態が、「固体・液体・気体」に続く、第4の物質の状態「プラズマ」であり、「電流が極めて流れやすい」という性質をもっています。
そのため、このプラズマの性質を利用するなら、大気中に「稲妻の道」をつくり、発生した稲妻を誘導できるというわけです。
これまでの実験では人工稲妻によるレーザー誘雷は成功していましたが、自然に発生した稲妻を誘導できた例はありませんでした。
しかし今回、ウルフ氏ら研究チームは、パルスレーザー(短い間隔で点滅を繰り返すレーザー)を利用して、自然の稲妻を誘導することに成功しました。
実験が行われたのは、スイス北東部のゼンティス山です。
ここには124mのタワーがあり、金属製の避雷針が備わっています。
そして隣から高出力のパルスレーザーを空に向かって発射することで、「稲妻の道」を作り、自然発生した稲妻をタワー(避雷針)まで誘導しようとしたのです。
実験は2021年7月21日~9月30日の約3カ月間続けられ、その間、タワーから3km圏内で発生した雷雨に応じて、合計6.3時間レーザー装置を作動させました。
その結果、観測された16回の稲妻のうち4つが避雷針まで誘導されました。
パルスレーザーによってつくられた「稲妻の道」に引き付けられて、避雷針まで導かれたのです。
単純に避雷針だけの効果ではなく、レーザーの効果によって避雷針まで導けていることも、専用の観測機器によって明らかになっています。
つまり、自然環境でも雷のレーザー誘雷が効果的であると実証できたのです。
研究チームは、この結果が「レーザー避雷針の開発につながる」と述べています。
従来の避雷針にレーザー機能を追加し、雷雨が生じている期間だけ動作させることで、より効果的・効率的な避雷針となるわけです。
重要で精密な機器が集まっている空港やロケット発射施設、また大規模インフラにおいて重要な役割を果たすでしょう。
とはいえ現段階では、このレーザー誘雷が、稲妻をどの程度誘導できるのか正確には分かっていません。
これら未解明な部分も含め、今後より多くの実験が必要となるでしょう。
※この記事は2022年07月に掲載したものを再掲載しています。
元論文
Laser-guided lightning
https://www.nature.com/articles/s41566-022-01139-z
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。